コラム.13
「子どもが犬のしつけをしたいと言っているんですけど…」。
お母さんはとても遠慮がちに電話をかけてこられました。
もちろん問題ありません。
続けて「養護学校に通う息子もいますがいっしょにいても大丈夫ですか?」と。
もちろんです!家族が、みんなで犬のことを学んだり考えたりする方が、
犬にとっても家族にとってもメリットが大きいんですから。
お宅に行ってみると、お姉ちゃんの恵利加ちゃんがラブラドルリトリバーのラナ、
弟の貴良君がヨーキーのブイをそれぞれに担当する、と大張りきり。
ラナはお外では注意散漫、ブイはキレやすい性格で、
どちらも根気よく接することで理解力が高まるタイプです。
レッスンが始まると、二人とも「宿題」をよく練習し、
積極的に犬たちに取り組んでいます。犬が覚えないからできない、
などと言い訳をすることもありません。その頑張りは大人以上です。
恵利加ちゃんと貴良君を見ていると、失敗も停滞も含め、
二人が犬とのコミュニケーションを楽しんでいることが伝わってきます。
実は、こうした二人の姿勢には、もう一人の兄弟、
けんちゃんの存在が影響しているようです。
障害のあるけんちゃんと、上手に付き合うなかで、
積極性や思いやりを身につけたのでしょう。
「子どもがほしがった」「情操教育にいい」と犬を迎えても、
おもちゃのように扱ったり、世話係を押し付けあっているのでは、
みんながつらい思いをするばかりです。
犬は、子どもの教育のための道具ではありません。
むしろ恵利加ちゃんと貴良君のように、家族に対するのと同じ姿勢で接するべき存在なのです。
弟妹の誕生で、子どもたちが精神的に成長する」ことはありません。
でも、赤ちゃんは「道具」ではありませんよね?
さて、こうしてみるとラナとブイは、とても良い環境の家にやってきたようです。
お母さんに見守られながら、恵利加ちゃん、貴良君、けんちゃんと一緒に、
立派に成長していけるでしょう。
犬が子どもたちとどのような関係を作りながら成長していくのかは、子どもたちと犬双方の情緒形成に影響します。「子どものために犬を飼った」というご家庭は、子どもと犬が関係作りをすすめるための環境整備をしましょう。