犬のしつけ方のご相談でよく尋ねられることの中のひとつ、いわゆる「よくある質問」欄の中にたぶんこの質問は入るでしょう。
その質問とは「犬をどのくらい運動させたらいいでしょうか?」というものです。
運動させるという言葉の表現でもわかるように、人側が犬を運動させるという言葉を使うときには、走らせる、歩かせる、遊ばせるというようなイメージをもたれているようです。
たとえば、散歩も犬に必要な運動と思われていますが、犬にとっては少し意味合いが違います。
人からみる運動というと、スポーツクラブで体を鍛えたり動かすようなこともりっぱな運動になるでしょう。
ところが、犬を含むすべての動物が単純にくり返し行動をするだけの体をただ動かすという運動という時間を必要としていません。
野生のイヌ科動物であるオオカミも、来る狩りの日に備えて毎日走りこみの練習をしたり、意味もなく動くことで運動して体がなまらないようにしているということはないのです。
野生動物の場合には、日々の生きるための活動こそ動くべき時であり、その積み重ねこそが体の機能性を発達させたり、維持させたりする結果につながっているだけです。
犬も動物ですから、意味のないくり返し行動は本来はあまり得意ではありません。
ところが犬の場合には、ボールを投げると何ども拾ってくるという行動をします。
そこにコミュニケーションをはさむ余地がなく、単に玩具に集中してしまっているようでしたら、これはすでに運動ではなく執着行動になります。
犬はこうしたくり返し行動で体を痛めてしまうこともあります。
いわゆるドッグスポーツなどがこれにあたります。
こうしたくり返し行動でコミュニケーションをとることよりも、本来犬としてあるべき行動をすることが犬の機能性を高めるというのは当たり前のことです。
その本来あるべき運動はつまり活動です。それも社会的なグループ活動です。
犬が毎日欠かさずやっている散歩ですが、これこそまさに社会的な活動です。
目的はテリトリーをパトロールしながら、環境を散策して環境にどのような異変が起きているのかを把握したり安全を確認したりすることです。
もっと素敵な活動は人といっしょに山を歩きながら自然の中を散策して、移動しながら環境把握を重ねていくことでしょう。
活動というと人も犬といっしょに社会的に行動を共にするということですから、その中には一定のルールや役割が生まれてきます。
どのくらい運動をさせたらいいのかという考え方から、どのくらい共に社会的に活動している時間があるだろうかと考えられるようになると、犬の孤独な時間も減り犬の様々な機能も発達することでしょう。
人といっしょに歩くくらいの山歩きは犬とってはたいしたことではありません。
むしろ活動を通して鍛えられるのは、私達の方になりそうです。