先日のブログ記事「ヤギたちの飼育小屋をめぐる様々ないきさつと事件から学ぶ動物のこと」の後編です。
柵から脱走したアールの脱走ルートを探る
新しいヤギの小屋を囲む柵から脱走を繰り返すアール。
脱走を阻止するために柵を強化するわたしたち管理者(私とダンナくん)とアールの戦いを終わらせるために、脱走ルートを特定することになりました。
最初はゼットを柵の外に出してアールを柵の中に入れればそのうちにアールが脱走するはず、という作戦を立てました。
柵の中のアールの様子を少し離れて見守り続けましたが、アールは脱走を実行しません。
犬であれば人から観察されている気配を察知すればおとなしく、人の気配がなくなってからルールを破るということはよくあることです。
ヤギが犬ほど賢い動物なのかは不明のため意外と簡単に脱走するのではないかと軽く考えていましたがヤギも警戒はしますので、このトラップ作戦が成功するには時間がかかりすぎると考えて断念しました。
次の作戦は道具。人間の素晴らしいところは様々な道具を開発して使えることですからこれで動物との闘いを終結させます。
今回は野生動物の行動を知るために活用している録画機材を使用しました。
昼に設置して3時間程度でちりんちりんという鈴の音がします。アールのつけている鈴の音です。
見に行くとアールが柵の外に出ていました。作戦成功。
録画を解析すると、なんとアールは柵の下をくぐって外に出ていることが分かりました。
思い込みが解決を遅らせるという基本に戻る
アールの脱走で柵を強化するために柵の上を高くすることに集中してしまいました。
柵を飛んだかくぐったかを話し合った結果、飛んだ可能性が高いと思う理由があったのです。
理由1、アールは脱走しているのにゼットは脱走していない。
くぐったのであれば、なぜアールは脱走したのにゼットは脱走しなかったのだろうか。
アールがくぐったところからゼットがくぐろうとして鳴いているという行動はありませんでした。
アールが脱走したあともゼットは小屋の中から動いておらず、うろうろする様子もありません。
犬だったら、どちらか1頭がくぐれば残された1頭もくぐろうとするはずです。特に2頭が常にいっしょに活動する群れ状態であれば行動を共にしようとするために残された者が追う行動はでるはずだと考えました。
またアールがゼットよりも4キロほど体重が軽いです。
そもそもの跳躍力はアールよりもゼットの方がある傾向が強かったこともあります。
アールが飛べてゼットが飛ぼうとしなかった、だから柵を飛び越えたのだと仮定しました。
理由2、柵から出たアールが新小屋に戻れずに旧小屋に戻っていた。
4回ほど柵の中から脱走したアールは古い小屋の方に帰巣していました。
脱走したのは人の気配のない夕方以降が多かったことと、雨が降り続いたため脱走したアールもなんらかの形で小屋に戻りたかったのでしょう。
しかしアールが戻ったのは新小屋ではなく旧小屋です。
新小屋を出たのに旧小屋にもどったのはなぜか。
もし柵をくぐったのであれば同じ場所を逆からくぐれば新小屋に戻れたはずではないか。
アールが旧小屋に戻ったのは、柵を超えたからだと考えたのです。
急斜面の山に囲まれた場所ですから、柵を超えた場合に逆から同じ場所の柵を超えようとしてもジャンプする位置は低い場所から高い場所へ飛ぶことになり成功する可能性は低くなります。
そのため、アールはくぐったのではなく柵を超えたのだと考えました。
理由3、思い込みが見方を狂わせてしまう。
動物の行動を観察したり評価したりする過程で一番やっかいなのは「思い込み」です。
動物はこうであるとか、このような行動パターンがあるなどという思い込みが一旦強くなるとそれを強めようとする考えが次々と浮かんできます。
そして、別の行動が起きたという可能性を否定する案も勝手に沸いてきます。
例えば、アールがもしくぐったとしても体があまり汚れていないとか、怖がりのアールがくぐるはずがないといった考えがアールが柵をくぐったのではないかという案を否定していきました。
ところが、動画ではアールが柵を揺らすようにくぐっている映像が撮影されていました。
かなり強く押さなければ通れないような小さな穴をアールは押して通ったわけです。
アールの性質や行動パターンを含めて脱走ルートを考えたはずでしたが結果は負けでした。
行動のパターンや習性は行動を理解したり予測するために十分な武器にはなりますが、思い込みは決して良い結果を生みません。深く反省です。
私たちの知らないアールとゼットの関係性
そして、私たちはまだアールとゼットについて十分に知らなことがたくさんあるのだということを教えてもらいました。
いつも共に行動をしているアールとゼットですが、ここ数ケ月はフリー活動するゼットがアールから結構離れていることもありました。
と思っても、アールを小屋に戻すと走ってくるゼット、やっぱり2頭は仲良しなのねと思っていたのです。
しかし、柵を強化させてゼットの待つ新小屋にアールを戻したところ、2頭は激しい頭突きあいを始めました。
アールが柵から脱走したのにゼットがなかなか出ようとしなかった理由は、ゼットがくぐるには穴が小さかったという理由とは別に、ゼットは新小屋を自分のものとするために必要以上に出る行動をしなかったとも考えられます。
2頭は群れであり仲良しであるはずですが、力比べやテリトリー争いには非常に厳しいものがあります。
群れの中の闘争行動はポジショニングのために大切な社会活動であることはヤギでも犬と同じであるということのようです。
ヤギのアールとゼットにいろんなことを学んでいます。
動物の行動は、その種の動物の習性を調べたり理解することとは別に、動物と動物の違いと類似を比較することでよりその理解を深めることができます。
ヒト、イヌ、ヤギはみな哺乳動物であると同時に社会性の高い動物であることで似ています。
イヌとヤギは人に家畜化された動物ということで似ています。
「似てる」と「違う」を探す毎日。
動物との暮らしは学びがいっぱいです。
右がアール、左がゼット。新小屋の上で。
でも脱走は困るので、今後はほどほどにお願いしたいです。
頭突きで喧嘩するアールとゼット。
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