毎日の生活であれ仕事であれ、日々何らかの行動や思考をくり返していれば、ときには失敗と思ってしまうことも起きてしまいます。
ああすればよかった、こうすればよかったと少しだけ気持ちを引きずってしまうこともありますが、どんなに考えても過去に戻って自分の行動を変えることはできません。
前向きに考える力や前進する力を失ったようになってしまいます。
犬にも行動と思考がストップしてしまうことがあります。
人のように過去に戻る方法ではなく、犬の場合にはもっとシンプルに今までやっていたことを止めてしまうという単純な変化としておきます。
少しストレスを受けたときに「行動と思考がストップ」してしまうという状態になるのです。
子犬であれば小さな事がストレスの原因になります。
たとえば、小さな階段ののぼりおりをして遊んでいるうちに、階段を踏み外して落ちてしまうことがあります。
子犬は一瞬行動を止めじーっとして動かずほんの10秒くらいですが動かなくなる硬直という状態に入ります。目線は一点を見つめているようにじっとしています。
10秒もたつと再び体を動かし始め、前と同じように遊び始めます。
今おちた階段を怖がっているような様子もありませんし、泣きながら人の方に走ってくるということもありません。
これは子犬の中に回復力が働いた結果の行動の変化です。
階段を落ちるという行為でストレス状態に陥り、一旦は行動と思考を停止させますがすぐに回復して元の自分を取り戻します。
こうした小さな回復が子犬には始終起きており、くり返すうちに回復力がついてきます。
これはまさに社会化の過程であり、こうした行動の積み重ねが犬の環境に対する社会化を発達させていきます。
しかし、前者と同じ状況に至った子犬を、じっとしているときに抱き上げてしまい「大丈夫、怖くないのよ」と摩ったり触ったりしてしまうと、子犬は自力で回復するのを止めてしまいます。
人にも同じことがいえるのかもしれませんが、落ち込んでいるときに周囲の力によってしか回復できない子供は、大人になってからも回復力が弱く落ち込み時間が長くなってしまうかもしれません。
この過程は犬でも同じことです。
成犬になって回復力が低いなと感じられる犬の反応は、少しのストレスでパニックを起こす、吠えるなどの声を出す、飛びあがるなどの興奮行動したり、逃走する傾向がすごく高くなっていきます。
場合によっては攻撃的になりあたりのものに攻撃的な行動をするため、吠える噛み付くなどの行動をしてしまうこともあります。
八つ当たりのように感じる犬のこうした行動も、自力回復の発達が不十分な状態で起きてしまいます。
回復力が育たなかった理由は人の抱き上げ行動だけではありません。
犬の幼少期に長い時間、サークルやケージや室内に閉じ込められた状態となり、そもそも回復が必要な行動をする機会すら与えられていなかった場合です。
これは大変多くなっています。
犬は小さくなりすぎていることや、床面が硬く怪我をしやすくなっていることなどから、子犬が転ぶことすらできなくなっているからです。
子犬は斜面でもよく転びます。ころころと鞠のように転んでしまうこともあります。
しかし子犬はとても柔軟で回復力がスクスクとついてきますので、転ぶたびに強くなっていくのを見ることができます。
子供の頃は失敗するのが当たり前ですから、恥ずかしくもないし、あったとしても大人になると忘れてしまいます。
やんちゃが過ぎると大ケガをすることもあるのでもちろん注意は必要でしょうが、まったく無傷で育ったのであれば、心の回復力をどのように育ててきたのか不安になります。
子犬のときには自力回復が大切な学習になっています。
どこまで放置すればいいのかと悩まれるところではあるでしょうが、とりあえず小さなことは待つという姿勢で見守ってあげてください。
回復力は動物の底力であり、動物の精神的な回復力の高さは、肉体的な回復力にもつながっていると思います。