2024年4月の犬語セミナーで「犬の服従性と依存性について」についてお話したのでそのまとめをしながら、さらに深い部分まで掘り下げていきます。
●犬の性質は犬と人の関係性に影響する
ご存じのとおり、それぞれの犬の性質(性格)は大きく違いがあります。柴犬とトイプードルでは違う犬種ということで大きな違いがありますが、柴犬と柴犬、トイプードルとトイプードルと同じ犬種を比較しても個々の性質には違いがあります。
性質については「生まれか育ちか」という疑問が生れますが、そのどちらもが影響しあって出来ているのが性質であることは間違いありません。
しかしここで上げる「服従性」というひとつの性質については、かなりのウエイトにおいて生まれつきの資質の方にウエイトがあると言えるでしょう。
はっきりというと、生まれつき服従性の低いものを極端に服従性の高いものに変化させることは難しいということです。
例えば、盲導犬などの使役犬の繁殖の中では犬の服従資質という質を重要としていることなどに表れています。生まれつき服従性の低い犬を盲導犬にしようと訓練をしても決して盲導犬になることはありません。
使役犬には適性という一定の資質の枠がありその中に入っていない犬を訓練することは犬の負担にもなるため繁殖はとても重要な計画になっているのです。
となると、うちの犬は使役犬にはならないから服従性など関係ないと思われるかもしれませんがそうではないのです。
犬の服従性という性質は人と暮すすべての犬が持ち合わせている性質なのだということをまず理解します。
犬の服従性質がある変化を見せたことで今の「犬と人との暮らし」が成り立っているのですからとても大切な性質なのです。
同時に、個々の犬の服従性という特質は犬と飼い主の関係に強く影響をします。
自分の犬の服従性についてよく理解することが、犬とどのような関係を築いていくのかということに影響をするのです。
少し関心をもっていただけたでしょうか、では次に犬の服従性の起こりについてお話します。
●犬の服従性の大きな二つの起源
犬の飼い主に対する服従性とは、犬た人と暮すようになった起源ともいえます。これは歴史的な過程で、振り返ってみればなぜ犬という動物はこうして人と暮すようになったのだろうかとあくまで仮説としてしかとらえることができません。
いくつかある仮設の中で今でも最も有力であり、私もそうだと信じている二つの起源説についてはコンラート・ローレンツ先生がその著書「人イヌにあう」の中に記しているものです。
犬の服従性の起源① 子犬の母犬に対する愛着という絆
多くの家庭犬にみられる幼い子犬としての気質で、この幼犬としての気質はほとんどの犬で生涯にわたり持ち続けられているようです。この気質は犬の形に見ることもできるのですが、例えば、丸い犬の頭、短いマズル(鼻からの長さ)、垂れた耳、ふわふわした毛質などに子犬としての形が残されています。
大型犬はオオカミに近い形質をもった犬ですら頭の長さは顎の形は野生の犬科動物とはかなり違いがあります。
また鼻慣らし行動や甘え行動なども成犬になっても見られる場合が多くあります。
子犬期に人との暮らしに馴染める理由も人を母犬の代わりとして接触することができる犬という動物の特徴の一つであり、またこのことで飼い主は犬を赤ちゃんとして可愛がる満足を得ることができるのです。
ただこの犬の赤ちゃん扱いはとても重篤な犬の問題行動や犬の発達不全を引き起こす問題となりますので注意が必要です。
犬の服従性の起源② 犬を群れのリーダーに結び付ける絆
服従性の二つ目の起源は、飼い主を犬のリーダーとして服従するという性質です。これは犬のしつけでよく言われる「飼い主は犬のリーダーになって下さい。」という部分なので頭の中では理解しやすい反面、犬と親子関係でいたい飼い主にとっては馴染みにくいかもしれません。
親子関係から主従関係ということは、親子関係の愛着から上司と部下という少し緊張感のある関係へということになります。
この二つ目の起源である服従性質を持てなければ飼い主と主従関係を結ぶことはできないのですが、ところがほとんどの犬は主従関係を結ぶために必要な服従性が備わっています。
それは愛玩犬と呼ばれるトイプードル、チワワ、ポメラニアン、ダックスフントにも備わっているものなのです。
●服従性か依存性か
二つの服従性の起源について説明をしましたが、服従性と混乱されていている「依存性」について説明します。依存性は服従性とは異なります。間違いの多くは、犬の依存性を母子関係の服従性と間違えていることです。
母子関係の服従性とは、母と子という立場上の違いによる役割分担で成り立っています。
例えば、母犬がエサをとってきて子犬に与えるというもので、家庭犬は生涯これが続くことが生涯にわたって飼い主と母子関係が続く理由にもなっています。
ところが依存性というのは、犬と人がお互いを利用しあう関係になります。
犬側でいう依存性の高い行動とは、飼い主の膝に居座る、飼い主に自分に関心を示すことを要求する、飼い主について回る、飼い主のもの(匂い)に執着を示す行動などがあり、犬の飼い主に関する依存性の高まった状態が犬の分離不安状態です。
人側でいう犬に対する依存性の高い行動とは、犬をよくさわる、抱っこしたい、すりすりしたい、犬をよく見ている、犬を膝の上の乗せたい、犬の要求にすぐに応じるなどの行動がありますが、こちらも人側の犬に対する分離不安状態になっています。
依存性という関係性はお互いを利用しあう関係であって服従関係の示すところの役割分担による群れ行動とは違うということをはっきりと認識することが大切です。
依存関係はいずれ関係のひずみを発しますので、犬の吠える、咬みつく、常同行動、破壊行動、落ちているものへの執着である拾い食い行動などの重篤の問題行動が発生します。
こうなると犬と人というひとつのグループ(家族)は群れとしての機能を失い不安定な状態になります。
逆に、服従性質が発揮され犬と人が主従関係を構築するようになると、そのグループ(家族=群れ)はより強化され安定性を増していきます。
犬は飼い主を群れのトップとして尊重し、飼い主もまた犬を家族の一員として尊重するという強い絆を作ることができます。
これは犬にとっては犬という動物としての習性が最も発揮されるところで、その活動はとても生き生きと美しいものでさえありますので、犬と暮す方にはぜひ体感して欲しいと願うところです。
●なぜ学ぶのか
最後に、なぜこのようなセミナーを開催しているのかについて説明します。犬の飼い主は犬の行動学の専門家ではありません。よほどの興味関心がなければ犬について勉強をしようという気持ちにもならないかと思います。
そんな面倒なことをしなくとも吠えるのを止めさせる簡単な方法が知りたい、というのが飼い主の求めていることだということはわかります。
しかし、犬の問題行動を簡単に止めさせる方法ほど危険なものはありませんし、その問題をきっかけに知るはずだった犬の本当に知ってほしいメッセージを封じることになってしまうのです。
逆に犬の問題を犬のメッセージととらえ、自分と暮している犬の行動、習性、性質をよりよく知ることで、自分と犬との関係性が変化する可能性があるとしたらどうでしょうか。
そのことが「犬がより暮らしやすくなる」方向に向かうのだとしたらどうでしょうか。
もちろん犬のことを知ることで飼い主の方は犬と同じ、いやそれ以上に大きな喜びを得ることができると思います。
関連記事:「犬の服従性行動について」セミナーまとめより