「吠えたときどうしたらいいですか?」という質問をよく受けます。
特に、トレーニングクラスが始まる前の方、トレーニングクラスをスタートさせたばかりの飼い主さんから多いご質問です。
残念ながらこの質問に対する明確な答えがありません。
「犬が吠えたとき、どうしたらいいですか?」と同じ傾向の質問は他にもあります。
「犬が咬みついたとき、どうしたらいいですか?」
「犬が飛びついたとき、どうしたらいいですか?」
「犬がいうことをきかないとき、どうしたらいいですか?」
「犬が呼んでも戻ってこないとき、どうしたらいいですか?」
最後の質問などは、どうしようもない状況になってしまっているので、犬が戻ってくるまで待つしかないということになってしまいます。
これらの質問に対する明確な答えはありませんが、質問の内容を少し変えるだけで答えが見えてきます。
「犬が吠えたとき、どうしたらいいですか?」は、
⇒「犬が吠えないようにするために、どういいですか?」。
「犬が咬みついたとき、どうしたらいいですか?」は、
⇒「犬に咬みつかれないようにするために、どうしたらいいですか?」。
「犬が飛びついたとき、どうしたらいいですか?」は、
⇒「犬に飛びつかれないようにするために、どうしたらいいですか?」。
「犬がいうことをきかないとき、どうしたらいいですか?」は、
⇒「犬がいうことをきくようにするために、どうしたらいいですか?」。
「犬が呼んでも戻ってこないとき、どうしたらいいですか?」は、
⇒「犬が呼んでも戻ってくるようにするためには、どうしたらいいですか?」。
こういう風に考えられるようになると、犬のしつけはぐんと進みます。
犬が間違ったことをしてしまったあとに「違う」を連発しても、犬は正しいことを覚えないということなのです。
犬には否定形「○○をしない」は伝わりにくいのです。
「吠えてはいけない」を教えるなら、「吠える必要がない」ということを教えなければいえません。
「リードを引っ張ってはいけない」を教えるなら、「リードを引っ張らずに歩くこと」を教えなければいけません。
人の心理学の講義でよく使われるのですが「ピンクの像を想像しないでください。」というフレーズを聞かれたことはないでしょうか?
「ピンクの像を想像しないでください、と言われているのにすでに私たちの頭の中にはピンクの像がいますね」という話で、人の潜在意識(無意識)領域では否定形を受け入れないということの説明で使われる例文です。
人の潜在意識には五感(視覚、嗅覚、触覚、嗅覚、味覚)を通して幼少期に蓄積された情報を元に習慣化された考えや感情、行動のパターンのことを言うらしいのですが、犬の意識はこれに近いと考えてあげると良いです。
犬の無意識とは、幼犬期に五感から蓄積された行動のパターンの他に、犬が生得的(生まれたときから遺伝的に習得している行動がベースとなっています。
犬の過剰な吠え(みなさんのいうところの無駄吠え)、咬みつき、飛びつき、散歩中の興奮などは、すべて犬のストレス性行動です。
犬が吠えたり、咬みついたり、飛びついたりするようになったのは、犬が生まれ持った遺伝的な行動に対してストレスを与えるような環境があったからそうなったのだということです。
犬は環境に対して素直に反応して行動や感情のパターンを身に着けてしまっただけなのですが、それが興奮しやすいとか、怯えやすいといった行動のパターンになってしまったのです。
これらの犬の問題行動に対してできることは、吠えていることを叱ることではなく、犬が吠えないようにするためにどのようにしていったらいいのかを考えることです。
もちろん、それは一瞬では達成できません。
1回のトレーニングでも絶対に無理です。
今まで続けてきた悪い行動の習慣化を断ち切って、新たな犬が落ち着いていられる行動の習慣化を身に着けさせる必要があるからです。
それでも犬は元のパターンにすぐに戻ろうとします。
何しろ小さな年齢で身に着けた犬の行動のパターン(無意識の行動)は、結構根強く残っており、簡単に方向を変えることができません。
それでも、やはり犬は変化していきます。
吠えて興奮したり、人に咬みついたり、リードを引っ張たり、飼い主に叱られたりすることよりも、犬にとっては落ち着いて安心できる環境があればそれに適応しようとするからなのです。
何よりも、犬の脳は「安心&安全」を求めていますし、犬には服従性という素晴らしい性質があります。
これこそ生得的に身についた犬の勲章ともいえる習性で、これを引き出された犬は素晴らしく落ち着いています。
「犬が吠えないようにするために、自分にできることは何か?」を考えられるようになったら、犬のしつけはすごいスピードで進んでいきます。
犬は飼い主さん次第でどのようにでも変化していく、これもまた犬の特性でありすばらしい柔軟性なのです。