子犬の社会化を知っていますか?
子犬の社会化という言葉が一般の飼い主さんにも広がるようになりました。「犬の社会化って聞かれたことがありますか?」という質問に、ほとんどの飼い主が知っていますと答えられるようになりました。
子犬のころにたくさんの人や犬に会わせたり、いろんな場所に連れて行ったり、抱っこ散歩をした方がいいというのが、多くの飼い主さんが考えている子犬の社会化です。
しかし残念ながらこうした表面的な取り組みは、子犬を社会化するどころか逆に子犬の社会化を後退させてしまうことになります。
子犬の社会化って一体どういうことだろう
子犬の社会化の仕組みをもう少し深く考えてみましょう。社会化とは、個体が(つまり犬が)環境の変化に対して安全を知り落ち着いて日常を継続できる力のことを言います。
様々な環境の変化に適応できるようにすればよいのだと、子犬のときにたくさんの刺激を与えることが社会化だと思うのはあまりにも単純かつ無理な提案です。
大切なのは、子犬の脳(思考と精神)が環境を変化することを安全だと受け入れていく過程の繰り返しの方です。
犬はあくまでも犬、人とは脳の構造も違います。
犬の脳は大脳皮質よりも大脳辺縁系が中心となる脳を持っています。原始脳とか昆虫脳といわれる脳の方で、知っていることを思い出すように発達していく脳です。
例えば、子犬はアスファルトを歩くことを嫌がりますが、土や草のある場所を歩くことができます。
これは、子犬の脳が土や草の自然の地面は知っていても、アスファルトという地面を知らないということです。
子犬がにおいを嗅いだときに食べられるものと食べられないものを区別できるのも、それを教えてもらったからでなく、そもそも脳に入っている情報を引き出すように与えられた環境を区別する能力を持っているからです。
ということは、子犬の社会化とは子犬にとってなじみのある環境に子犬を置き、子犬の受け取り反応を確認しながら子犬の中に安心を積み上げていく過程ということになります。
子犬の社会化で間違っていること
ここにすべての情報を書くことはできませんが、やってしまいがちな子犬の社会化学習のうち間違っているものをここにあげます。・子犬をたくさんの人にあわせたり、触らせたり、抱っこさせたりすること。
・子犬をたくさんの犬に会わせること。
・子犬をドッグランに連れていくこと。
・子犬を抱っこして散歩すること。
・子犬のために来客を招いたり子供と関わらせること。
これらは子犬にたくさんの刺激を与えることで、子犬に日常ではない状態を提供することになり子犬を不安にさせたり興奮させたりしてしまいます。
子犬にとって人や犬は知っているものだと思われるかもしれませんが、とんでもありません。
子犬にとっては人という動物はなじみはあるものの理解できない存在です。人のコミュニケーションや人という動物を時間をかけて受け入れているのです。
また子犬にとって犬はなじみのある動物ですが、知らない犬は子犬の敵です。子犬がフレンドリーに成犬に近づける状態であっても、成犬の方が子犬を拒絶する場合に受ける子犬のダメージはとても強いものです。
子犬の社会化のためにできること
では、子犬の安定した気質に成長させるためにできる社会化とはどのようなものなのでしょうか。それは、子犬が原始から知っているものに触れる時間を身近な環境の中で見つけていくということと、子犬にとって一番必要な群れ(グループ)が人の家族であるということを時間をかけて伝えていくことです。
人の家族が自分の群れであることを知るのは、飼い主が子犬を抱っこしたり触ったりすることではありません。飼い主からするこの愛情表現は犬でしかない子犬にとって早すぎます。
子犬にとって大切なのは、人としてきちんと子犬の生活を管理すること。
管理するために必要な道具を理解して受け入れさせていくこと。
コミュニケーションをとるときには子犬の親だったらどうするかを考えて最低限のルールを教えていくことです。
親犬は生後3ケ月の子犬の飛びつきを許可することはありません。
飼い主が喜ぶ子犬の飛びつき行動は、親犬にとっては断固拒否する行動なのです。
こうした違いが子犬の社会化のベースを作っていきます。
子犬の社会化のベースを作っているのは外の世界ではなく飼い主自身であることを知れば、問題はとてもシンプルです。
子犬と暮す方は子犬の社会化を楽しんで下さい。
ただそれには、適切な環境、関係性、そして時間がとても必要ではあります。
子犬時期は二度と戻ってきません。
成犬になってしまった場合、社会化を育てるのには大変時間がかかります。
それでも犬の幸せな時間をとり戻したいと願う飼い主なら、そのために多くの時間を使って下さい。
犬はとても素直な生き物です。
きっと自分の周囲の環境の変化にちゃんと気づいてくれるはずです。