犬は一歳になったらどのくらい成長しているの?
犬の成長はとても早く生後一歳半で、人でいう年齢の二十歳くらいにあたります。体もある程度成長しきっていますし、精神的にも成犬と呼ばれる年齢になります。
ひとつひとつの個体がきちんと成長することで群れとなって社会活動が成り立つのが自然の中での犬としての動物の世界ですから、犬であればどの個体も「成長」を目指して日々を過ごしています。
人に飼われるようになってペット化が進んだ動物である犬も、動物としての犬の部分をすべて失ったわけではありません。
犬は考えて成長しているわけではなく、成長するのが当たり前の機能としてそうなっていくのです。
ところが、最近の犬たちはなかなか成長しません。
生後一歳半になっても「大人になったな~」と思える犬がなかなかいません。
むしろ、子犬になっていくというか、扱いにくくなったり、わがままになったり…。
行動学的にいえば、犬のストレス性行動が増えていったり、他の犬との社会的行動が不安定になったりといったことが起きるようになります。
子犬の出現に慌てる青年期の犬たち
分かりやすいのはその犬よりも年下の犬たちが出現してきたときです。大体、一歳から一歳半になると子犬たちが散歩に出てくるようになります。
今までは、自分が一番下だった、子犬として可愛がられていたのです。
子犬だったから許されたこともたくさんあるのに、今度は違います。
子犬に対しては自分がお兄ちゃん犬、お姉ちゃん犬と呼ばれるようになるのです。
今までは年上の犬たちを相手にすれば良かったのに、自分が年上の犬として年下の犬に対して向き合わなければならないのです。
この年下の犬の出現が、青年期に入った犬に行動の変化を起こさせるきっかけとなります。
家庭で規則正しい生活をして、飼い主から愛情としつけをたくさん与えられた犬は、年下の犬が自分の前に現れても動じることはありません。
むしろ、年下の子犬との出会いがあることで、自分の立場や役割をわきまえる機会を得られます。
子犬だった自分、年上の犬ににおいを嗅いでもらったり、服従的にあいさつをしたり、飛んだり跳ねたり、飛びつこうとしたり、と興奮して接してきたはずです。
それが、こんどは一気に逆転。
自分に対しておびえるように近づく犬、興奮してとびつこうとする犬、礼儀もなく近づいてくる子犬たちを相手にしなければなりません。
ここでは、相手が子犬だということが重要なのです。
怯える犬、興奮する犬、礼儀なく近づく犬、これらの犬が成犬であれば、相手をしないとか遠ざけるとか、防衛することもできます。
でも相手が子犬であれば、排除することはできないのです。
自分の群れの犬でなくても、同種(犬)であれば一方的に攻撃や威嚇をすることは許されません。
同種の子供を攻撃しないという種の遺伝的な情報に従って、青年期の若い犬にも大人の犬としての対応を求められるのです。
子犬に対する青年期の犬の対応で犬の社会性を知ることができる
では、青年期の犬は子犬に対してどのような行動をするのでしょうか?成熟した青年期の犬は、子犬のとびつきや甘噛みに対して辛抱強くかつはっきりとした態度で冷静に対応します。
もちろんまだ若いのですから大人の犬のように堂々とはいきません。
状況によっては、声をだしたり、飛んだり、身をかわしたりすることもあるでしょう。
そうこうしながら、大人の犬としても振る舞いを身に着けていくはずです。
逆に、成長が遅れている青年期の犬たちは子犬の出現に右往左往してしまいます。
右往左往とは行動ではなく自分の成長そのものが、という芯から揺らぐ状態です。
相手が大人のふるまいで自分を落ち着かせてくれていた環境から、相手が子犬で興奮して攻撃的に接してくるわけです。
青年期の犬であっても子犬に飛びついたり甘噛みしたりと子犬に戻ってしまう犬もいます。
子犬に対して牙をあてたり、吠えたりして子犬を遠ざけようとする犬もいます。
また子犬の対面でよだれを垂らすこともあります。
子犬との対面によって、今までとは見たことのない自分の犬の態度に驚かれることもあるでしょう。
子犬の我が犬は犬に向かって飛びついていったはず、犬が大好きだと思っていたのにそうではなかったと気付く時期にもなります。
犬と犬の関係性に飼い主が介入できること
犬と犬のコミュニケーション中に、飼い主はわが犬にどのようにふるまえばいいのかを教えることができません。他の犬と対面させているときに「ああしたらいいのに」「こうしたらいいのに」と飼い主がやっきになってもそこでは全く無力なのです。
できるとしたら、他の犬に対して攻撃的な態度や消極的な態度がでれば、対面を中止させることだけです。
では、飼い主の存在は犬のコミュニケーション力を高めることができないかといえば、決してそのようなことはありません。
むしろ、飼い主が育てた犬が今のような社会性を持つことになったという自覚をまずもっていただくことは最も大切なことです。
その上で飼い主ができることは何かを現実的に考えていきましょう。
子犬との対面をする前に、日々の生活の中での飼い主の接し方や環境が犬の成長に影響しています。
生後3ケ月から生後6ケ月にかけての一番最初の発達期に飼い主が子犬を赤ちゃん犬として扱ってしまうと精神的な発達が遅れてしまいます。
遅れてしまった成長を取り戻すためには時間をかける必要がありますが、成長を諦めないということがなによりも大切でしょう。
年齢を重ねても子犬っぽい行動をする犬、赤ちゃんのように甘える犬は人から見ると可愛いと思われるかもしれません。
しかし、それが人として見た場合はどうでしょうか。
犬が年齢を重ねて大人の犬として成長し、頼もしく子犬を守ることのできるような犬に成長をするということは、飼い主とってのメリットではなくその犬自身にとってのメリットなのです。
自分の中に育つ軸のようなもの、しっかりとした幹を持つ犬の成長は、ますます楽しみです。
犬が本当に可愛いというのは、赤ちゃん犬としてではなく尊敬に値する愛おしさだと思います。
わたしたちヒトの方が時代と共に親元を離れる年齢が遅くなってしまったのかもしれません。
子犬と犬のコミュニケーション、次回の犬語セミナーで紹介します。