先日から何度か犬語セミナーに犬と犬がじゃれあう行動を見ていただいたことで、みなさんがよく言う「ワンプロ(犬のプロレス)」についての質問を受けるようになりました。
他の犬が苦手という犬を持つ飼い主の中には、小さいころに犬と会わせていなかったから犬とうまくやっていけないと思っていらっしゃる方が多いようですが、これは疑問です。
なぜなら、小さいころならその犬はちゃんと他の犬とコミュニケーションがとれたという確証はあるでしょうか?
わたしの見方では1歳前後になって他の犬とのコミュニケーションに問題を持つ犬は、この犬が生後3ケ月のときであってもうまくコミュニケーションが取れたとは思えないからです。
むしろ、社会性の育っていない犬同士をかかわらせることの方が犬に対する社会性を落としてしまうことになります。
犬は生後6ケ月くらいまでは攻撃性の表現も限られています。
乳歯をもちテリトリーを守る体になっていないためです。
ですから生後6ケ月未満の犬たちを遊ばせようとすると、とびつき、あまがみ、追いかける、走り回る、吠える、などの行動がたくさん見られます。
「ワンプロ」をたくさんさせた方が他の犬への社会性が高まると思っていてドッグランに連れていかれる方も多いようですが、これは大変危険なことだということをお伝えしておきます。
規律のない社会的なコミュニケーションは、ただの暴力でしかないのです。
人の子供を例にして少しお話します。
人間の子供たちにもお互いを掴み合ったり、押し合ったりして競う遊びをする時期があります。
最近では子供同士のトラブルを避けるためか親の方がすぐにダメ出しをしてつかみ合う経験をしたことがない子供もいるかもしれません。
これもまた危険なことで、どの程度人に手を出したらいいのかを知る機会がなくなってしまいます。
しかし、日本には「相撲」という競技もあります。
女子はなかなか参加する機会がありませんが、子供相撲は私が子供のころには神社の中にあった土俵でよく開催されていました。
突きあい、押し合い、投げ合い、など子供でもわかるルールでできているのが相撲です。
そして相撲の最も大切なことは「礼で始まり礼に終わる」戦いだということではないでしょうか。
犬と犬が体をぶつけ合い競うワンプロもこの相撲と同じように礼儀を育てるものであれば絶対にする価値があります。
この犬と犬のかかわりの中では、お互いそれぞれに強くなっていきます。
その強さは体の強さだけでなく、心の強さにも影響します。
犬と犬の絡む遊びの中にもちゃんとしたルールがあるのです。
そのルールを違反しようとしているときは、犬は少し興奮気味なときです。
そのようなときは間に入って礼を取り戻させる、落ち着かせるなどの手伝いが必要です。
本来なら親犬や同じ役割を果たす大人の犬たちがやっていたことですが、今はそれをする犬の存在がなかなかありません。
同じ群れとしてきちんと規律だった関係でなければできないことだからです。
それでその役割を飼い主である自分がやらなければいけないのです。
お預かりクラスで犬と犬を遊ばせるときには、その行事の役割を私が担っています。
犬の行動を見逃さないようによく見ていなければいけないので、行動を見る目は鍛えられました。
お互いを高めあうワンプロ。
そのためには家庭での礼儀作法が必須です。
それが家庭犬のしつけです。
犬のしつけが進めば、犬の社会性があがり、犬の世界は広がります。