動物の行動の読み違いが、そもそものコミュニケーションの行き違いにつながります。
犬という異なる種の動物に対しての理解が進まないのはほとんどがこの行動の読み違いによるものです。
ところがこの行動の読み違いは人と人の間でも起きているのです。
ラジオのテレフォン人生相談で50年近く相談を受けている心理学者の加藤諦三先生のお話を聞きながら、人と人の間でも起きる読み違いが犬にもあるなと思ったことを紹介します。
加藤諦三先生のお話の中で「わたしはみじめだと言うなど人に対する弱々しい態度は、人に対する最大の攻撃性の表現である」という内容がありました。
惨めだというのは、私はこんなに弱い、情けない、かわいそうだ、哀れだと思う感情です。
人は言葉で「わたしはみじめだ」と人に対して言うということは相手を最大に攻撃しているということだと加藤先生はおっしゃるのです。
相反するものは同属であるという原理がここにも通用します。
実は犬にも全く同じ原理があります。
犬の場合もこの行動のパターンで「犬の弱々しい行動は最大の攻撃の表現」なのです。
弱々しい犬の行動とはこのようなものです。
・身体を低くして近づいてくる
・鼠径部(太ももの内側)や腹部をみせるようにする
・口の口角を引き上げる
・尾を下にげてすり寄ってくる
・体をくねらせて近づいてくる
犬がこうした行動をとりながら人に近づいてくるとき、ほとんどの人が犬をなでてしまいます。
わたしはこんなに弱いのだ、という犬の行動を見て「あら~」といいながらなでてしまうのです。
ところが、同じ行動を犬が他の犬にしたときは犬はどうするでしょうか。
子犬が成犬にしたとき、成犬が成犬にしたとき、いろいろなパターンがありますが、基本的に弱々しい行動は無視もしくは拒否されています。
犬が弱々しい行動をとったことに対して相手の犬はそれに対して反応はしないというのが一般的です。
しかし、この弱々しい行動に対して無視し続ける犬に対して繰り返しこの行動を続ければ、犬によっては唸ったり威嚇してヨワヨワ犬を退けようとします。
この行動を見た飼い主は「うちの犬はおなかを見せて服従しているのに攻撃するなんでひどい」と言うでしょう。
犬がおなかを見せるのが服従行動であるというのは間違ってはいませんが完全に正解ではありません。
頭を下げる弱々しい行動も使いようによっては攻撃性の裏返しのこともあるのです。
人に対して犬がおなかを見せるときになでていたら甘噛みしたり噛みついてくるということはよくあることです。
犬が人に対しておなかを見せた時になでる人がいかに多いかというとでしょう。
犬がおなかを見せる⇒なでて欲しいのだと思う⇒犬をなでる⇒甘噛みされる(噛みつかれる)
これを繰り返してしまいことで、犬は人を弱々しい行動で思い通りにする、人のテリトリーに入り込むきっかけをつくる、そしてそもそもの目的であった攻撃をする
という行動のパターンを身に着けていきます。
飼い主は自分の犬を攻撃性の高い犬にしているだけのこのやり取りを子犬のころからずっと繰り返しているわけです。
繰り返しますが、加藤先生の言われるとおり、弱々しい行動は最大の攻撃性の表現なのです。
ではおなかを見せる犬に対してどのように対応すればよいのでしょうか?
犬と犬のコミュニケーションに学べはとても簡単な退け方になります。
好ましくないコミュニケーションは受け取らない、これがお互いにとってベストの選択です。
「わたしはこんなに惨めなんです」と他人に言われても聞き流す
「わたしはこんなに弱いのですとおなかをみせる犬」に対しても聞き流す
そして逆に、おなかを見せるくらいならもっとやるべきことがあるだということを犬に教えてあげてください。
それが犬が幸せになるために飼い主ができる最善のことなのです。