先日のブログ記事で動物福祉についての話題を取り上げました。
以下の講義をEラーニングで受講させていただき、その中から犬との暮らしに役立ててただけそうなことがありました。
公益社団法人日本動物福祉協会主催「第8回動物福祉市民講座」
講義題目「乳牛のアニマルウェルフェアを分かりやすく」
講師 瀬尾 哲也 先生【帯広畜産大学 畜産学部 准教授 / (一社)アニマルウェルフェア畜産協会 代表理事】
瀬尾先生の講義の中では、畜産の現場でアニマルウェルフェア(動物福祉)を実現させるための指針としていくつかの具体的なチェック項目について紹介されました。
動物の健全な身体の維持に関わるチェック、そして動物の健全な精神の維持に関わるチェックがあります。
身体のチェックは分かりやすいものが多い中、健全な精神については知るにはどうしたらいいのかと思われるかもしれません。
そのチェック項目はグッドボーイハートの生徒さんならみなさんが持っているストレス性行動のチェック項目と同じようなものでした。
たとえば、牛の場合には次のような異常行動をする牛がいないことが基準をクリアしていると紹介されました。
その異常行動とは、
・犬座姿勢(オスワリの形で座る)
・舌遊び
・異物舐め(牛舎の柵などを長く舐める)
などが紹介されました。
しかも基準をクリアするためには、こうした異常行動をする牛が一頭もいないという数字だったのです。
異常行動のチェックは動物を管理する上では必須の項目だという認識はありましたが、その数が「一頭もいない」という厳しい数字であることを始めてしりました。
犬であれば、
・長い時間手をなめる
・サークルやケージの柵をなめたりかじったりする
・2本脚立ちをする
といった行動が上記の牛の行動と同等のストレスシグナルです。
多くの家庭犬たちがこの異常行動をしていますので、飼い主としては冷や汗の出るところです。
理由については後述します。
他のストレス値として、人に対する逃走反応スコアについても紹介されました。
人に対してどの程度の恐れを抱いているのかという反応のスコアです。
牛の場合には、後ろに身を引く距離で測るそうです。
犬の場合にも同じように後ろに身を引く行動でも測りますが、逆に人に飛びつく(攻撃のパターン)行動でも測ることになります。
また管理に関する基準の中には、尾を切る「断尾」が一頭もないことが基準とのことでした。
多くの犬たちがいまだ尾を切り落とされている家庭犬が本当に動物として尊重されているのかを真剣に考える必要がありそうです。
では先の犬の手舐め行動(ストレス性行動の中の自虐行動)は牛舎で飼われている犬よりも多い理由について説明します。
犬は他の家畜化された動物たちとは一線を画す動物であることを動物行動学者のコンラート・ローレンツ博士がその著書に書いています。
牛や豚のように長い歴史をかけて管理される家畜として人為的な繁殖してきた動物と犬では異なるのです。
犬はその多くが(純血種の多くもまた)本来の犬としての機能性を人が役立たせてきた動物です。
家庭の中に長い時間にわたり閉じ込めたり犬としての活動をする機会を失うとストレス性行動が多発します。
そのため牛では一頭も見逃されない舌遊び的なストレス性行動が、家庭の犬では多発することになります。
他にも不十分な計画による人為的な繁殖や、繁殖の過程も犬たちの将来の行動に影響をしていることでしょう。
牛の方が明らかに犬よりもきつく管理された動物であるにも関わらず、犬の方がストレス行動が多いという事実には驚きと反省が必要です。
その他、瀬尾先生のお話の中には犬の行動について理解を深めるためのいくつものヒントや、これまでそうではないかと予測していたことに対する革新的な後押しをいただきました。
今後また記事として記録していきます。
今回は貴重なセミナーを無料で提供して下さった瀬尾先生と日本動物福祉協会、そしてセミナーの開催をご連絡してくださったGBH生の皆様に感謝いたします。