先日のブログ「<人イヌにあう>服従するという言葉の意味を理解できないわたしたち人間と犬」の続きになります。
このブログを読む前にひとつ前のブログをご覧になると話の流れがわかりやすいです。
イヌにとって人と上手く暮らしいく上で大切な二つの特質として、ローレンツが挙げているのは次の二つです。
ひとつは犬が動物としてはとても幼稚性を継続させているということ。
二つ目は犬の群れに従属し主従関係を大切にするということ。
この二つの性質については飼い主としては理解しやすいものだと思います。
どちらもイヌが人と暮らしていく上で重要な性質ですが、同時にこの二つの性質は人がイヌと暮らしていく上でも重要だということを強調しておきます。
このふたつの性質をどちらも欠いたイヌについてローレンツは次のように述べています。
引用:
たいていの性質上の特質と同じように、子どもっぽさは、その程度によって長所にも短所にもなるものである。
それを完全に欠いているイヌの独立性は、心理学的には興味深いかもしれないが、飼い主にはたいして喜びをあたえてくれない。
というのは、このイヌたちは手に負えない放浪者で、ごくたまにしか家に居つかず、飼い主の家を尊重しないからであるーこのような場合、飼い主を「主人」というわけにはいかない。
年をとるにつれて、このようなイヌは危険なものになりがちである。
典型的なイヌの従順さを欠いているため、かれらは他のイヌにたいしてそうするように、人に噛みついたり脅かして追っ払ってしまうことを「なんとも思わない」からである。
引用終わり
こうしたイヌは一般的に家庭犬としては不向きであり、管理することすら難しいので家庭犬として繁殖されることもありません。
人が飼うことの難しい野犬にはこの性質が非常に濃く出ていて、彼らは人に対して怯えを示すばかりでなく、室内でマーキングしたりモノを壊したり、すみっこに固まっていたりする行動を示します。
保護施設でも人になつきにくい性質が子犬のころから出ていますので、一般的な飼い主の手に渡ることは珍しい犬といえます。
ここで、みなさんは「やっぱり犬は誰でも尾を振って近づいてきて飛びついたりお腹をみせたりすり寄っていく犬がいいのよね」と思われるかもしれません。
室内で犬を飼う方、特に小型犬や大型犬でも室内飼育をすすめられるような犬と暮らしている飼い主の多くがイヌに求めているのはひとつめの「犬の幼稚性」であるからです。
犬が誰にでもなつきやすく、興奮しやすく、すり寄っていきやすく、そして飛びついたり甘えたりする行為が最近は好まれるようです。
こうした気質は外で番犬とする上では決して奨励される行為ではないからです。
家の庭や玄関先に番をはる犬は、特定の人にはなつきやすいけれど、他の人になつくのには時間がかかるという性質をもつからこそ番犬となるからです。
二つ目の性質は室内飼育の犬たちには求められないため、幼稚性だけを高めた犬が増えていきます。
こうした犬についてローレンツはこう述べています。
引用:
この放浪性やそれにともなう主人や場所にたいする忠節の欠如を非難するからには、私は、子どもっぽい依存心が病的なまでに残っている場合には、それが完全に欠如しているときに起こるのと驚くほどよく似た結果を示すことがあることをつけ加えておかなければいけない。
引用終わり
この文章を10回は読んでください。
こうした文章は文字で追うことはできても、頭の中にいれるのには時間がかかります。
人は自分が拒否をしたい内容が書いてあるとそれを排除してしまおうという生理的反応を起こします。
子供っぽい依存心が残っている、というだけならまだしも、「病的なまでに」という原文がどのような表現かは不明ですが、病的なまでに子供っぽい犬たちを私はたくさん見てきました。
さらにつづきます。
引用:
たいていの飼いイヌの場合、子どもっぽさがある程度残っていることがその忠節の源となるのだが、それのゆきすぎはまさに反対の結果を導きだすことになるのである。
このようなイヌは、主人に対して極端な愛情をみせるが、同じく誰にたいしてもそうするのだ。
前著『ソロモンの指輪』で、私は、このタイプのイヌを、どんな男でも「おじさん」と呼び、他人にみさかいのない馴れ慣れしさを示して困惑させる、甘やかされた子どもとくらべてみたのもである。
このようなイヌは自分の主人を知らないのではない。
その反対に彼は喜んで主人を迎え、他人にたいする以上に、あふれるばかりの愛情で主人を遇するのだが、その直後には、近づいてくるつぎの人物に向かって走り去る気持ちになるのである。
引用終わり
誰に対してでも緊張せずに接することができることと、誰に対してでもむかっていってとびついたり体当たりしたり体を摺り寄せることは違うのです。
ローレンツがここで述べている幼稚性の抜けないイヌは、人をみると走り出しとびつき、あまがみや鼻ならしをするイヌのことです。
引用:
すべての人間にたいして示すこのみさかいなしの馴れ慣れしさが病的に残っている幼児性の結果であることは、この種のイヌのあらゆる行動で立証される。
彼らはいつでもふざけすぎるし、生まれてから一年もたつとふつうのイヌなら落ち着いてしまうころにも、主人の靴を噛んだり、カーテンをひっぱってめちゃめちゃにしたりすることをやめないのである。
とりわけ彼らは、ふつうのイヌならば数ヶ月後には健全な自信にとってかわられるべき、奴隷のような従順さをもちつづける。
すべての見知らぬ人にたいしてはお義理で吠えるだろうが、厳しい口調で呼びかけられるとこびへつらうように仰向けにひっくりかえる。
そして引き綱(リード)を手にしている者を、誰でも自分の恐れ多い主人として受け入れるのである。
引用終わり
すでにこの状態に入ると室内でいろいろと自分の居場所を獲得するこの幼稚な犬たちは飼い主の膝やその周辺にまとわりついているため、決していつもいたずらをするわけではありません。
行動としては飼い主に手をかけたりかまってくれと要求したりとんだり跳ねたりするのです。
しかも何かあるとひっくり返ったりして自分が子供であることをアピールするあたりはローレンツも指摘しています。
イヌの幼稚性=子供っぽさの強さは、それが完全に欠如しているときと同じような結果を示すというローレンツの言葉がすべてを物語っていると私も思います。
みなさんはどう思われるのか。ぜひご意見ください。