トラウマ…よく使われる言葉ですが、理解しているのかしないのかなんとも微妙なところです。
トラウマという言葉からイメージされるのは心に傷を負うということです。
文部科学省のトラウマの定義としてはこんな風に説明されています。
地震や戦争被害、災害、事故、性的被害など、その人の生命や存在に強い衝撃をもたらす出来事を外傷性ストレッサーと呼び、その体験を外傷(トラウマ)体験と呼ぶ。
トラウマ体験となる外傷性ストレッサーには、次のような出来事などがある。
1. 自然災害――地震・火災・火山の噴火・台風・洪水など
2. 社会的不安――戦争・紛争・テロ事件・暴動など
3. 生命などの危機に関わる体験―暴力・事故・犯罪・性的被害など
4. 喪失体験――家族・友人の死、大切な物の喪失など
犬の成長期における体験の中で飼い主さんが犬のトラウマになったこと原因として考えられるのは上記のうちの4番が一番多いのだと思います。
実際には、生命などにかかわる危機的な状態に至った経験をもつ犬はほんの一握りです。
その多くは保護施設や保護団体に保護された犬たちです。
保護された犬の一部はネグレクトと呼ばれる餌を与えられないという生命の危機にかかわる体験をしています。
また狭い場所に多数の犬たちと入れられるスペースを与えられないという虐待を間接的に受けてしまう場合もあります。
このケースは保護施設に飼育できるスペースが十分にないのに、多数の保護犬が収容されてしまうことで起きるもので、管理する人側もわかっていても十分にできないという理由で起きます。
意図して虐待しているわけではないのですが、結果として犬にトラウマを与えてしまったというケースも珍しくはありません。
同じ理由なのですがショップの販売やブリーダーの元でも管理の方法によってはスペースを十分に与えられない、適切なスペースを確保できなかったという理由でトラウマを生じてしまうこともまた珍しくはありません。
狭くて閉じ込められたスペースに長期間過ごすことは、本来屋外で生活する動物である犬にとってはトラウマを生じさせるには十分な環境なのです。
すべてのブリーダーやペットショップがということではありませんが、展示販売についてはトラウマ経験となる可能性があるので、まだまだ改善を重ねていただきたいところです。
子犬期のトラウマになる経験としては文部省の定義の中の5番の喪失体験も犬たちにとって起きていることです。
昨日までお乳を吸っていた母犬とある日突然会えなくなる、これはまさに大変な喪失体験です。
会えなくなる理由とは、人側の都合によって母犬と子犬が引き離されてしまうからです。
子犬をできるだけ早く母犬から引き離して販売したい人側の意向も多少働くことがあります。
母犬は正常に子育てのできる環境と能力があれば、自然と子犬を自分から離していきます。
授乳を拒否するという行動をするのです。
母犬の授乳の拒否によって子犬の方は人から与えられた餌を食べるようになり、次第にお世話かかりが母犬から人に移行されると良いのですが、工程を急ぐとそうなりません。
人側が急に母犬を子犬から取り上げてしまうと、子犬は大きな喪失体験を得ます。
これはあらゆるトラウマの中でもとてもつらいものでしょう。
こうした子犬にはお乳を吸う哺乳行動が大人になっても残りやすいですし、特定のものに執着する傾向も高くなりがちです。
執着する対象が飼い主となり問題が複雑になっていきます。
子犬期にかかえたトラウマが生涯を通して癒されないとは思っていません。
希望的な見方も含めて「いつかきっと癒されて欲しい」と願い、またその方法をいつも模索しています。
一方で子犬にトラウマ体験をさせないために知識と配慮を怠らないことです。
このために最も大切なのは、子犬を迎える側がもう少しレベルアップした知識と経験を重ねることです。
日本にはたくさん良いものがありますが、この部分では少し未熟かと思います。
勉強はどんな分類でもやるに越したことはありません。
犬を飼っている人も飼っていない人も、レベルアップした学習の機会をつかんでください。