年齢とともに文字が読みにくくなり困難になってくる読書だけど、やっぱり読むと心が落ち着きます。
本を読むということは、すばらしい出会いであり迷路から脱却するための脇道を見せてくれる方法になります。
のめりこんで読む本がそれほど多いわけではないけど、この本は久しぶりに何度もページを行ったり来たりしながら繰り返し読みました。
著者はオリバー・サックス先生で、神経学の臨床医です。
映画「レナードの朝」の原本となる「めざめ」という本を書いた方というと、覚えのある方もいらっしゃるでしょう。
この「妻を帽子とまちがえた男」で紹介されているのは、さまざまな脳の病気を持つ人々です。
脳の病気によって作られるそれぞれの人の生き方や世界を紹介し、皆さんひとりひとりが、人としてのアイデンティティを損なわずに生きていることが記られています。
病気によって正常に機能していない脳を否定するのではなく、どのような環境でどのように生きることで本人が安らぎや満足を得ているのか、逆に苦悩や困難を抱えているのかという様子を本によって知ることができます。
オリバーサックス先生がそういう視点で患者を見て接していることが感じられるのです。
その中で医師としてできること、またやりすぎたこともやらなかったことにも触れてあり、本を通してかかわるものの立場についても教えられることが多くあります。
この脳に病気を抱えた人についての本について関心を持つのは、やはり犬について知りたいという気持ちからです。
人も様々な環境や事故や病気などにより脳に異変を起こすことがあります。
その脳の異変により人とは違う行動をしたり、把握する環境が人とは違うものになったりします。
そして、それらは人の性格ではないのですが、続くとやがて人格の一部となるものもあります。
犬は人以上に脳にストレスを抱えやすい環境で過ごしています。
犬に対する極端な人為的繁殖、出産時に抱えるトラウマ、幼少期に過ごした環境、成長期に与えられる環境など、これらが犬という動物にとってはあまりにも自然から遠く過酷なものです。
犬も人と同じように脳を持つ哺乳動物です。
その中身の機能性や使い方は人とは違いがありますが、犬も同じように脳の機能を正常に働かせることで行動や情緒の安定をはかっているのです。
犬の脳にどのような変化が起きているのかを飼い主としては行動を通して知ることしかできませんが、オリバー先生も同じように行動を通してその人の生き方を模索していくのです。
自分たちが犬とかかわるやり方と、同じだと思うのです。
人という動物について知り、そして犬という動物についても知ることのできるこうした本が私は好きです。
すべての犬が脳の病気を抱えているとはいいません。
ただ行動の不安定さや、過剰なストレス行動を繰り返すと脳はやはりそのストレスを抱えきれず一部が損傷してしまうこともあります。
だからこそ、早く気づいて環境を整え、もし脳が傷ついても早めにその傷をいやして犬という動物として尊厳をもって生きていってほしいと思います。
そのためにできることを探し、見つかったらやってみる、それしかやることはありません。
犬のことを毎日考えたり学んだりしながらする過程の中で、考えることについてヒントをくれるのは犬について書かれた本ではないのです。