犬と関わっているといつも思うのが、犬はどのように物事を理解するのだろうかということです。
どのように理解するのかという過程は、犬がどのように知覚を使っているのかということに注目します。
知覚とは、視覚とは嗅覚など刺激の入り口にあたる部分です。
特に視覚の受け取り方についてはとても気になるところです。
なぜなら、わたしたちヒトという動物は視覚を中心として環境を把握していきます。
人の嗅覚はほとんど使われなくなってしまい、犬からすれば人は鼻のない動物になるでしょう。
逆に人からすると、私達が見えているように犬が同じものを見ていない、視覚を中心として学ぶ私達が得るように情報を得ていないということは、犬とのコミュニケーションギャップにつながる理由にもなります。
視覚の使い方にはいろいろありますが、人は視覚を通して情報を得るため、自分の気になるものや焦点を当てたいものに注目します。
その対象に対して視覚を向けるのです。
犬の中でも特に室内犬はいつも人の行動を観察していますので、人が見ている方向を気にするようになります。
犬は飼い主の行動を予測しながら自分の行動を決めていくことがあります。
そのため、飼い主が見ている方向で飼い主の行動が決まるため、いち早く飼い主の視線の先を見るようになるのです。
ところが、そうでない犬たちもいます。
このことについては以前「ナショナルジェオグラフィック」という雑誌に紹介されていたことがあります。
同誌の中では、Animal Behaviourという雑誌に掲載された記事として、犬の視線の先を見る行動について次のような実験結果が紹介されていました。
~引用ここから「ナショナルジェオグラフィック」から~
ワリス氏らが行った最新の実験は、訓練レベルと年齢が異なる145匹のボーダーコリーを対象に行われた。目的は、年齢、習慣、訓練が、犬の視線追尾に与える影響を知ることである。
ワリス氏は、自分がドアを見たときの犬の反応を調査した。すると、なんと訓練を受けていないボーダーコリーのみが、彼女の視線を追ったのだ。訓練を受けた犬は、それを無視した。訓練を受けた犬は、人の視線の先ではなく、顔に注目することを学んでいるからかもしれない。
訓練を受けていない犬に対し、ワリス氏の顔を見るように5分間訓練したところ、視線を追うという本能を無視するようになった。
さらに驚くことに、訓練を受けていない犬は、困惑した様子で、ワリス氏の顔とドアを交互に見ていたという。この行動は、それまで人間とチンパンジーでしか観測されたことがなかった、「チェックバック」(いわゆる「二度見」)と呼ばれるものである。
~引用ここまで~
要するに、訓練を受けていない犬ほど人の視線の先を見ることができるのに、訓練を受けている犬は人の顔しか見ないということです。
当たり前のことですが、こうやって実験結果として記事になると納得される方も多いのではないでしょうか。
トレーニングの方法にもよりますが、トレーニングは単純に合図に反応させることを中心にしてしまうと、犬は飼い主の言うとおりに行動するが自分では考えて行動しなくなってしまうことがあります。
つまり飼い主に依存することが行動の中心となりますので、自分で環境を把握する必要もないし、犬なりの行動をする必要性もなくなってくるのです。
よくあるトレーニングですが、散歩中に他の犬に吠えないようにするために飼い主に注目(アイコンタクト)をとらせるという方法があります。
飼い主に依存させる行動で安定を図ることで、他の犬を環境の一部として受け取らないように教えていくためです。
この行動や教えやすく他の犬に吠えるという行動を止めさせるという目的では達成が早いのですが、同時に環境を把握して適切に反応するという本来の社会化を発達させません。
本質的な社会化学習には時間と手間と環境が必要なので、ほとんど家の中ですごし少ししか散歩に出ないような生活をする中で生まれた人に都合の良いトレーニング法です。
犬の本質的な社会性を発達させることは諦めるけれど、人に迷惑をかけずに犬を飼うという目標は達成されますので、短い期間で結果を出したいためによく使われています。
こうした飼い主に依存させるトレーニングをすすめていくと、犬は自ら環境を把握することがなくなっていくのです。
犬はますます不安になり飼い主への注目度が高まるため、自分に注目させたいというトレーニングとしては成功を重ねていきますが、犬の行動としては異質ではあります。
犬が人の視線の先を見る能力があり、しかも二度見するということなどは、日常的に犬を観察していれば自然に見ることができます。
犬が視線の先を見ていたからといって、犬が視覚的にその対象を認識しているのではないかもしれません。
視線を向けると同時に顔についている知覚器官は全てその対象に向けられます。
つまり、犬の鼻先もその方向に向けられるわけですから、犬は視覚と同時にご自慢の嗅覚も使ってその対象を認識するでしょう。
そして今まさに飼い主であるあなたが何をしようとしているのかを、知覚の全てを受け取っているのです。
オヤツを食べようとおもって冷蔵庫に近付いたら、自分よりも早く犬の方が冷蔵庫に到着しているということもあるかもしれません。
犬にしつけやトレーニングを行うのであれば、犬が本来持っている能力を伸ばす方法を取り入れたいものです。
犬は人の指先を見るのかという過去ブログもありますので、あわせてご覧ください。
ブログ記事:<犬のしつけ方>人の指差しに変わる、物を差し示す犬のコミュニケーション