犬のしつけやトレーニングについてのご相談の中で、とても多い間違いが「犬を訓練してください」というご依頼です。
犬の問題となる行動や犬のしつけを、ドッグトレーナーが家庭を訪問して瞬時に解決してしまうと勘違いをされていることがあるのです。
テレビ番組の中で、ドッグトレーナーが家庭を訪問して犬をトレーニングすると犬が瞬時に変わってしまう様子を見てそう思うのかもしれません。
犬のしつけや問題行動の解決のためのトレーニングをドッグトレーナーが犬に教えることで解決してもほとんど意味がありません。
意味がないどころか、飼い主は愛犬のことを理解し関係を作るという大切なチャンスを失ってしまいます。
こうした思い違いは、犬のしつけや問題行動の解決を犬だけの問題だと思っているところから起きてしまいます。
犬の困った行動は、犬の問題ではありません。
むしろ、犬を飼育するまさに、犬を飼い育てている環境に問題があります。
その環境のもっとも重要な因子が飼い主なのです。
そのため、飼い主が犬のしつけに主役となって取組むことでしか、この問題は解決しないのです。
思い込みのきっかけになったかもしれないテレビ番組はどうなの?と思われるでしょうか。
犬に関するテレビ番組の裏にはいろんな仕掛けがありますから、放送されていない時間に何か一時的には即効性のある対処法を用いた可能性もあります。
もしそうでないとしても、犬は非常に警戒心が高く人の見分ける力があります。
家庭で問題行動を起こしている犬ほど、人との関わりが強く人をよく観察する力を持っているのです。
ドッグトレーナーやドッグインストラクターといった職業の人間が、一般の人と明らかに違うということを犬たちはすぐに見破ります。
そのことが一時的に犬の行動に影響を与えるのです。
散歩中に他の犬に吠えていた行動が、ドッグトレーナーが犬のリードを持つと吠え止むといったことは全く珍しいことではありません。
これらの行動を見て、ドッグトレーナーが犬を「修理」して戻してくれるという勘違いをされるのでしょう。
ですが、これは犬のしつけとしては成功しません。
犬は飼い主のつくる環境によって行動を変化させています。
飼い主自身が犬を理解し、犬に必要な活動やしつけを提供し、犬と関係を築く時間を持たなければ、犬の問題行動は解決しないのです。
犬のしつけをオスワリやフセを教えることだけと思っていると、間違ってしまうかもしれません。
確かに、ドッグトレーナーが犬にオスワリやフセを教えて飼い主に戻すことはできます。
でも、この犬はいつどのような時にでも飼い主が要求するとオスワリやフセをするようになるわけではないのです。
オヤツがあるとする、餌のときにはするけれど、本当に必要なときには言う事を聞かない以前と変わりのない犬がそこにはいるのです。
変わっていないのは、飼い主の方だからです。
犬にきちんとしつけをして犬が社会的に安定して生きていくことができるように成長を促すのは、飼い主の役割です。
ドッグインストラクターとして私ができることは、飼い主さんに学びの機会を提供することだけです。
犬のしつけは、犬との関係をつくる貴重で楽しい時間です。
しつけやトレーニングの時間を通して、犬を今以上に理解することができ、そして犬との関係性が深められます。
早くよくなればいい、誰か犬のしつけをやってくれないかなという気持ちは、犬と向き合うことを避けていることになります。
そしてこのことに一番気付いているのは、犬自身なのです。
犬とどのような関係を築いていきたいでしょうか。
犬はあなたの家族の一員なのでしょうか。
犬のしつけには毅然とした態度やたくさんのエネルギーも必要ですが、費やした以上の喜びが戻ってくることは、犬と向き合った方だけが体験する特権です。
犬と暮らすすべてのみなさんに知っていただきたいことです。