ドッグインストラクターという商業柄当然のことですが、家庭内での犬の行動を比較するのが習慣になっています。
犬のしつけ方教室というと、オスワリがどのくらいできるのかとか、散歩中に人の横について歩けるのかなどの行動ばかりを観察していると思われるかもしれませんが、実はそれだけではありません。
犬に対するしつけやトレーニングで大切なことのひとつに、その犬の個性をよく把握しておくということがあります。
直接的にその犬を理解するという目的と同時に、犬の行動をあらかじめ予測するために役立ちます。
人側がこうしたら犬はきっとこう反応だろうなという行動をある程度予測することで、犬に対してどのように接すればいいのか、どのように学習を促していくのかという過程を組み立てていくからです。
こうした犬の理解のための観察素材としては、散歩の様子やオスワリの学習よりももっと日常的な行動についての情報の方がより重要です。
それでよく飼い主さんとの会話の中でいろいろとお尋ねしています。
先日は、人が食べているときにテーブルの下に落としたものを犬が拾いに来ますよねという話題になりました。
人の食べこぼしを犬が食べることを許すかどうかというのは、ご家庭によってルールは様々でしょう。
犬のしつけとしては、食べ物を落としたときに「それダメだよ」とゆっくりと声かけして、犬が食べずにいられれば十分にしつけができているといえます。
わたしの飼っていた犬については、人が食べても良いと許可したものについては、拾っても良いというルールを導入していました。
床に落ちたものを食べさせても、それが拾い喰いという悪しき習慣につながるわけではありません。
落ちたものが犬が口にしてはいけない食材であることもあるでしょうから、食べてはいけないといわれたときにはきちんと応じるというのは最低のルールとして必要です。
ところが、犬の中には人の食べこぼしを拾いに来る犬の中にはそんな制止の余裕のない犬もいるようです。
人が食べこぼした食べ物がテーブル下の床に落ちる前には走り出し、落ちた瞬間には即座にその食べ物を口にしてしまうという早業犬も案外いるようです。
飼い主の報告によると、それらの犬たちは猛ダッシュで走ってきて食べ物を拾うと別の場所へ走っていき一気に飲み込んでしまうというのです。
行動の様子からすると、誰かに取られまいとして慌てて食べているということですが、競い合っているのは多頭飼育されている犬の場合もあるでしょうし、飼い主の場合もあります。
これらの早業犬たちとは違って、状況をよく確認した上で、落ち着いた行動で落ちた食べ物を拾って食べる犬たちもいます。
このケースでは、飼い主が食べ物を落とした瞬間にそれを見ている間は犬は顔を背けており、飼い主が落ちたものがわからずに放置してしまうと、犬の方が行動を起こします。
しかし、その行動は食べ物に走ってくるというものではありません。
ゆっくりと立ちあがった上で食べ物の落ちている方向になにげなく前進してきて、少し鼻をおとしながら偶然のように食べ物を拾っていきます。
飼い主から「ダメだよ」と指摘がはいればいつでも行動を変化させることのある余裕を感じられる行動で、状況がいつ変化するかもしれない状態での行動への配慮が見られます。
この二つのタイプの犬は、どちらも落ちた食べ物を食べることを目的とした行動ですが、その行動のパターンには飼い主との関係や犬の性質(性格)を見ることができます。
こんな、日常のなんでもない行動について飼い主さんに質問をくり返していくと、犬の個性がより理解できるようになります。
そしてなによりも、最初は的確に質問に答えられない生徒さんたちも、質問をくり返すうちに観察力が増していくという学習が起こります。
今までとは異なる面から犬の行動を観察できるようになるということが、飼い主として最初に必要な学習事項なので、楽しみながら犬を観察していただきたいです。