最近、国内の動物園を改革しようという取り組みを紹介しているテレビ番組を見る機会がありました。
番組のテーマには「環境エンリッチメント」の文字があり、興味を惹かれました。
環境エンリッチメントという言葉やその意味をはじめて聞いたのは、20年以上前に出席したセミナー会場であったと記憶しています。
記憶をたどると、当時は多数の犬を収容する施設に勤務していたころでした。
犬を収容して管理する施設では、まず犬の安全を、次に犬のストレスレベルについて、常に配慮しながら動物を管理する必要があります。
訓練所に勤め始めたのは、今から30年以上前のことになりますが、その頃にはまだなかった動物福祉という言葉を聞くようになったのが、20年くらい前からでした。
その動物福祉を実現させる具体的な取り組みのひとつが、環境エンリッチメントです。
環境エンリッチメントとは、飼育管理される動物が刺激の少なさによって受けるストレスを軽減させるために、
動物が本来持つべき欲求と行動を、上手に発揮できる機会を提供しようという環境整備の工夫です。
その機会提供を動物を飼育管理している中で行うというものなのです。
番組の中では、若い飼育員たちがそれぞれの種の動物たちが本来野生で行っている行動を実現できるような環境整備に取り組む様子が紹介されていました。
たとえば、キリンは舌を使って食べ物を取り出す行動をするということで、食べ物が舌を使わなければとれないような入れ物にいれることでキリンの行動欲求を引き出しそれを満足させようという取り組みなどです。
動物園の話となると、そもそも動物園が必要なのかという議論に発展してしまうことがあります。
しかし、現実には人が動物を利用するという行為が存在し、そのひとつに動物園という施設が現存し、
さらに、動物園という施設に現に動物がいるという事実があります。
この現実にいる動物たちにとって、少しでも動物が欲求を行動とすることができて落ち着きを得られる環境を提供することは、前向きな考え方であると思います。
実はこのも表面的なものでしかありません。
犬という動物に関わるのなら、もっと本質的な環境エンリッチメントは家庭犬にも必要です。
すべての家庭犬が、動物園の動物や施設収容されている犬と全く同じとはいいませんが、
ペットもまた人が自らの生活を豊かにするために必要としている動物であると思います。
そのペットである犬たちは、刺激を求める人を満足させるために人に飼われることもあります。
しかし、人の方はよりたくさんの刺激を求めますので、仕事も忙しく飲み会も多く、
趣味や買い物や旅行やテレビを見たり音楽を聴いたりと、何かと一日中忙しくしているものです。
そのため、犬は本当にヒマになってしまいます。
長時間、犬をひとりで留守番させることについて環境が適切であるとは思えませんが、それが現実です。
多くの犬がひとりで、もしくは関係が上手く作れていない同居犬と共に長時間の留守番をしています。
犬は暇であるだけでなく、部屋環境に順応しない状態では、物音や気配に過敏に反応するようになり、ストレスを溜め込み不安症になっていきます。
こうした乏しい犬の環境に工夫を与え、環境エンリッチメントをするとなるとこんなこともそのひとつになるでしょう。
留守中にコングやトリートボールなど探索行動のできるようなものを与える
留守中にシッティングや知人に犬の遊び相手をお願いする
留守の前と後には十分に時間をとって散歩を行い、コミュニケーションに満足を与える
犬専用のベッドやハウスなど柔らかい素材や多少高さのあるベッドなどに登れるような工夫をする
こんな工夫は、ほんの些細なことで犬の高い社会性からみると紙切れ1枚ほどの環境エンリッチメントです。
それでもしないよりはした方が良いのかと思います。
しかし、これらの環境エンリッチメントはとて環境エンリッチメントに取り組んでほしいのです。
犬が飼い主である自分とのコミュニケーションを深める学習を促進できるようにする、
そのためには犬の様々な行動への理解と犬の行動習性を学ぶ必要があります。
犬が環境認知能力を高め、安心して生活できるように導く、
そのためには、最も大きな環境要因である人とどのように関わったかが重要です。
犬が本来の能力を発揮できるような自然環境とのコンタクトを取り持つ、
犬の動物としての脳の正常な発達は、犬の環境を外側から変えることよりもより高い環境エンリッチメントになります。
こんなことに本当に取組もうと思ったら、相当の時間とエネルギーが必要です。
飼い主は少し生活のパターンを変える必要も出てくるでしょう。
犬は自分を満足させるためにやってきたのではない、私こそ犬を満足させるのだと本気の方は、恐れず挑んで欲しいものです。
そんな本気の飼い主さんに出会う機会があるのも、この仕事をしているごほうびです。