以前、東京から引越して来られた生徒さんからこんな話を聞きました。
「福岡に来て道を聞かれたのでビックリしたんです。
東京では他人に道を聞いたりするなど、話かけることが許されないんです。」
ということでした。
実はわたしも小学生低学年まで東京暮らしの経験があるのですが、
人に道を聞くこともできないような印象はあまり持っていませんでした。
ところが、この話は他の東京から来られる方に聞いても全く同じでした。
東京では人に話かけることが失礼な行為だというのです。
東京ならではの人付き合いと、マナーのルールだということでしょう。
この話を聞いて、東京の街中を散歩する犬たちの不思議な表情や行動に納得がいきました。
東京で見た犬の散歩風景というのは、簡潔に言えばどの犬もとても「おりこうさん」に見えるというものでした。
東京の都心の公園を散歩する犬たちは、お互いに顔を見合うこともなく、全く相手を無視して通り過ぎていきます。
そのため、犬と犬がすれ違うときに吠えたり、リードを引っ張ったりする姿を見ることも少ないのです。
犬同志が吠えあうなどほとんど見ることはありませんでした。
犬と犬が顔を合わせずにお互いに相手との距離をとって通り過ぎるように、人と人も全く関わらない意志をあらわしているようでした。
犬は散歩中に他人に話しかけられることもなく、他の犬が近付いてこられることもないため、落ち着いて歩いているように見えます。
あまり動物らしい行動とも言えないのですが、人と人の関係性と距離感が犬に影響を与えていることは間違いありません。
少なくとも、散歩中に自分のスペースを侵されないという一定の安定のもとに散歩をしているのでしょう。
この東京の犬の散歩風景は、福岡の散歩風景とは全く違うことに気づかれたでしょうか?
福岡のようなローカルな場では、散歩中の犬に話しかけるのは普通のことになっています。
「かわいいですね。」
「触ってもいいですか?」
話かけ方はそれぞれですが、犬を通して飼い主同士が関係を作っていくのも福岡では日常の風景なのです。
これは、良い部分もあるかもしれませんが、犬にはストレスを与える行動になっているという事実もあるのです。
飼い主が飼い主に話しかけるというよりは、犬の方に接触を図ろうとするからです。
犬の方をみて大きな声を出すとか、
犬に近付いて興奮させて飛びつかせるとか、
犬の頭をなでるとか、ひどい場合には犬にオヤツを与えたりもします。
これらの行動は全て犬の最小のテリトリーであるスペースを侵害する行為になります。
そのため、犬は人が近付いてくるたびに落ち着かなくなり、散歩行動自体が不安定になっていくのです。
善意で犬に話しかけたりなでたりしている人々からすると、こうした行為が犬にストレスを与えていると受け取ることは難しいかもしれません。
これを理解するには、長い犬の行動と習性についての説明を受ける必要があるからです。
こうした人の行為によって、犬は散歩中に落ち着かなくなるのです。
犬は吠えたりとびついたりリードを引っ張ったりするようになってしまいます。
もちろん、個々人によって犬に対する行動はそれぞれに違いはあるでしょう。
犬に対して反応を示さず通り過ぎていく人々もたくさんいると思います。
しかし、一部の人間でも、犬に対して積極的に手や声を使ってアプローチしようとする人々がいることを否定はできません。
結果、東京の犬の散歩風景と福岡の犬の散歩風景には違いが見られるようになってしまいました。
犬たちの都心の散歩スペースは大変小さく、その中での社会活動には無理があります。
飼い主を含む犬と犬の関係を進めたいなら、もっと身近な人と人のつながりについて考えてみてはいかがでしょうか?
散歩中に他者と関わらないというルールでいることにも窮屈さはありますが、
それが東京という都心が出した答えが、不自然であっても今の犬にとっては最適な場合もあります。
あとは個々人が犬がストレスなく楽しく飼い主との散歩ができるように考えていくしかありません。
散歩は犬にとって貴重な時間であることは言うまでもありません。
その散歩タイムをより良いものにするためにできること、考えていきましょう。