人と犬の間で起きるいろいろな行き違いは、種が異なる動物であるというところから起きています。
必要な環境が違う、習性が違う、求める環境が違う、そしてコミュニケーションの方法が違います。
犬のコミュニケーションは人という種とは大きく異なるのです。
そのコミュニケーションの差を埋めようと焦ってしまうと、つい犬の行動やしぐさを擬人化して捉えてしまいます。
例えば、走り回っている犬の行動を見て、犬が喜んでいると思ってしまうこと。
他にも、人に走りよってとびつく犬の行動を見て、人のことが好きだと受け取ってしまうことはないでしょうか。
犬の人に対する興奮行動を喜びと見てしまうのは、擬人化とは少し違うかもしれませんが、人の気持ちを優先させた偏った見方であることは事実でしょう。
お互いが理解しあえる関係になるためには、もう少し現実的に受け取りが可能なコミュニケーションの方法について知ることを提案します。
現実的な受け取り可能なコミュニケーションのひとつに「人の指差し」というのがあります。
「指を差す行動」は、他者に注意を促したい対象を指で差し示すことで伝える方法です。
「指差し」については、チンパンジーの研究者である松沢先生がヒト科動物のコミュニケーションとして紹介しています。
私たちヒト科動物にとって、指差しのコミュニケーションはとても重要で有意義なものです。
ところが、犬は人のように指を使いません。
例えば、犬はオヤツを指で差してあれが欲しいということはできないのです。
犬が使用することのないこの指差しですが、人との暮らしで人の指を差す方向に関心を向けるようになります。
犬が人の指差しを理解することについては、行動学者のコンラート・ローレンツも指摘しています。
こうした人のコミュニケーションに対する犬の理解は、人が意図的に教えなくとも自然に身についていくものです。
犬が人の行動を観察しながら、人の意図を読み取ろうとする過程の中で、自然に理解できるようになったものなのでしょう。
犬の方がこうして自然学習を重ねていく姿をみると、人との関係性の深まりを感じるため、感慨深いものがあります。
人への理解が高まることは、犬にとっても世界の広がる瞬間になるのでしょう。
分かり合えないと嘆くよりも、分かり合いたいと前進する方を選ぶ気持ちは、犬の中にもあるのではないでしょうか。
自分の犬は人の指差しを理解しているなと思われるなら、犬はいつもあなたを見てあなたのことをもっと理解したいと学んでいるはずです。