鹿肉ジャーキーヤクトの猟師さんとの話で、今回また猟犬の話で盛り上がりました。そしてついに今回すごい話を聞いたので、みなさんと共有して日本の動物について考える機会とします。
●猟犬と聞いてどんな犬をイメージしますか
猟犬といってもいろんな種類の犬が猟に使われています。日本の鹿猟や猪猟をしている猟犬と聞いたとき、どのような形や色の犬をイメージしますか?
ハウンド系の耳が垂れていて白っぽくてぶちがある犬、茶色の犬とか、ビーグル系の同じく耳が垂れていて白っぽい下地に茶色や黒のブチのあるこんな洋犬を想像するでしょうか?
それとも、毛の色が虎柄で耳の立っている日本の甲斐犬や四国犬を想像しますか?
ラブラドルリトリバーなどのリトリーブ犬を想像される方もいるかもしれませんね。
●国内の鹿(シカ)・猪(イノシシ)猟に伴われる犬たちについて
現在、国内の鹿猟や猪猟に伴われている犬の種類は、大きくふたつのグループに分かれています。そのふたつは洋犬グループ、和犬グループです。
洋犬グループの方は前述したハウンド系やポインター系、セッター系の犬たちです。すべての使役犬にいえることですが、犬は使役の目的にあわせた能力によって分けられていました。そのため、ハウンド系といっても形も色もさまざまですが、よく見かける形として耳が垂れていて、尾が少し曲がりながらもまっすぐとあがり、色は白地にブチや、茶色で鼻部分が黒いような形態を持つ犬たちが多いようです。
実際に、山をウロウロとしている猟犬を見かけたり、車のケイジに乗せられて移動中の猟犬もよく見かけられます。佐賀地域では3月の猟期の終わり時期になるとこれらの猟犬が山に捨てられることがあるので、自治体の保健所には猟犬風の犬が収容されているという事実もあります。
ところが猟の歴史をよく調べてみると、こうした洋犬の猟犬たちは西洋式猟の普及のときに猟銃や猟の道具といっしょに販売され普及を広めていったようです。猟という仕事はそもそも山奥深くに住む日本の「マタギ」といわれる人たちの仕事であったところから、西洋文化の侵入によってそれまでマタギではなかった人たちが仕事として猟を始めるようになったのかもしれません。
これらの西洋式猟とは別なスタイルで日本古来の猟を支えていたのが和犬の猟犬たちです。和犬の猟犬も必ずしも純血種ではありません。地域によってサイズが違いますが、毛色が茶色ベースで立ち耳に立尾、犬によっては巻き尾の犬の写真も残っています。四国犬、柴犬、秋田犬、北海道犬、甲斐犬などの雑種や全くの雑種も猟としての能力があれば猟犬として猟に伴われていたようです。
●猟犬でも違う猟のスタイル
こうした猟犬の種類の違いはただ形や色が違うだけではありません。猟の仕方そのものに違いがあります。今までに鹿猟や猪猟の話を聞いたときに、いつも不思議に思っていたことがありました。たとえば、ポインターやビーグル風の洋犬たちは、猟のときにワンワンと吠えながらとても興奮して走り出していくらしいのです。こうした光景については猟師に話を聞いたこともあるし動画で見たこともあります。ですが、これはとても不思議な行動に思えたのです。なぜなら、ワンワン吠えて追い立てれば獲物となる鹿や猪を興奮させてしまい、追いかける側に危険が及ぶ恐れもあるからです。西洋の犬だけがこうした行動を取るのだと思っていたのですが、その後に和犬の猟犬も獲物を見ると走り出しワンワンと吠えて追い立てるという話を聞いたときには、やはり猟犬とはそんなものなのだろうかととても複雑な気持ちになりました。
ところが今回ヤクトの猟師さんから「とても猟が上手い猟犬」の話しを聞きました。つまり、獲物を見ても走り出したりしないということだったのです。これを聞いて本当にうれしかったです。やっぱりそうだ、そんな猟犬がまだ日本にいたのだと知った瞬間でした。実際に鉄砲をかついで犬のサポートで猟をしている猟師さんの話なのでワクワクしました。
ヤクトさんが一緒に猟をした猟犬は、犬は獲物を見つけても走り出したりしない、ゆっくりと静かな足取りで獲物を後をつけていく、けれど後ろからついてくる猟師を置いていかないように距離をはかりながら追跡を続けるとのことです。そして尾根の方向に向かって獲物を押し上げるように追跡する、その後、位置をかえて上に待っているとガサガサと足音が聞こえてくるので獲物が来たとわかりゆっくりと構えることができるということでした。ガサガサという音については「犬がそんなに足音を立てないので獲物だとわかりやすい」といわれたのです。その犬って茶色で日本犬風だけど鼻先が少しすっとしているニホンオオカミみたいな犬じゃないでしょうかと尋ねるとその通りだといわれていました。GPSがいりませんよねと尋ねると、こうした犬にはGPSは使っていないということです。猟師から離れないので必要ないのです。
以前、ヤクトさんから別の猟犬の話しを聞いたときは、犬たちはワンワンと吠えながら興奮して獲物を追うため、獲物はすごい勢いで走ってきてそれに対して犬たちもすごい勢いで走ってくるということでしたが、この犬たちは西洋の猟犬たちでした。西洋の犬と和犬で違うということでもないと思います。和犬の中にも吠えながら獲物を興奮して追いかけていく犬の話も聞いたことがあります。この違いは、人側が犬の猟をどう捕らえるのかという問題であると思います。
●猟という仕事をする犬の立場にたって
使役をする場合、人の合図や人がつくった道具に頼るように仕事をする犬と、自らの犬の習性に基づいてナチュラルな形態で仕事をする犬がいます。前者の犬は人の指示のとおり動くことを要求され、後者の犬は自律して行動しながら人と協力する質を求められます。
獲物を見てワンワンと吠えながら追い立てていく猟スタイルはどちらかというとスポーツドッグの印象が強いですね。西洋の貴族たちがたくさんの犬を伴って猟に出かける絵画をよく見かけることがありますが、あれはひとつの狩りというスポーツの姿です。先日このブログで紹介したDVD「狩人と犬」の中にも主人公が猟に出かけるシーンがあります。1頭の犬を伴って猟に出るのですが新米犬のやや不安定な行動で獲物に気づかれてしまいます。この猟でもやはり少ない犬を気配を消してというスタイルでした。
気配を消して獲物を追跡してじっくりと追い詰めていくスタイルはまさにオオカミそのものです。野山に暮らす野犬であれば、同じようなスタイルで獲物を仕留めていくでしょう。人はそのイヌ科動物の習性にのっとった狩りのスタイルを尊重し、これに人の方が同伴する形での猟の姿というのは美しいものだと感じます。そしてなにより犬と人にとっては安全であり、捉えられる獲物にも不要なストレスを与えない行為です。逆に、犬たちを興奮させて獲物を追いかけさせるタイプの猟では、犬も人も危険にさらされます。
こうした猟のスタイルで猟犬を育てると人によって動物の行動を操作しようとする力が強く働きます。その力は繁殖にも及びます。犬の興奮度を繁殖に頼ろうとする傾向が出てしまいます。異常に興奮して攻撃性の高い犬を選択繁殖するわけですから、一歩間違えばとても危険な犬を繁殖してしまうことになります。こうした危険性の高い猟犬は、山近くで動いているものを見ると攻撃をしかけるので、里山での犬や住人とのトラブルにも発展してしまう恐れも十分あります。現にこうしたトラブルは発生しています。
使役犬については、人の作用を少なくして犬が本来もっている習性に基づく範囲内にとどめるのが動物の福祉に見合った態度であり、犬を尊重する姿勢ではないかと思うのです。とにかく今回は、日本古来の猟犬の姿がまだ残っていることを現場の猟師さんの体験談として聞くことができたので、それだけでも小さな光だと感じとてもうれしくなりました。