昨日のブログ「子犬を飼う前に」に引き続いて、犬を飼う前に知っていただきたいことをお伝えします。
純血種を飼うのか、雑種を飼うのか。
純血種を飼われる方の場合、専門用語では「形態」といわれる、つまり外見の好みで飼われることがほとんどでしょう。
他人が飼っているのを見て買いたかったというのも、人が買っている犬が可愛いからと理由も多いでしょう。
これは犬を飼う価値観の問題です。趣味的な選別ではありますが、そうした外見で選ぶという価値観が存在していることは認められることです。
ここでは、なぜ自分はこの犬を選ぼうとしているのかということを客観的に見ることができるようになってくださればそれで十分だと思います。
小型犬の場合には、外見で選ぶ傾向が強くあります。
そのため小型の純血種には「ブーム」があります。ひとつの犬種を有名人などが飼いはじめてブログやインスタグラムで紹介されると、同じような犬が欲しくなる、SMSでは広がりやすいものです。
人が飼っているのを見て他の人も欲しくなる、これをくり返していくと一種のブームが起こります。
小型犬のブームは、犬を集合住宅で飼育できるのが一般的になってきた30年くらい前からはじまりました。
最初のマルチーズやシーズーはまだ、お座敷犬と呼ばれるところがあり、少し特殊な犬として扱われていました。
犬を室内で飼育したり抱っこしたりする飼い方が趣味的であり、皮肉をこめて「お座敷犬」の名前がついたのかもしれません。
しかし、その後、小型犬の室内飼育は瞬く間に広がっていきました。
最初に少し広がったのはチワワでした。このころチワワはまだ今のように超小型化されておらず、体重は5キロくらいありました。本来のチワワは屋外でも元気にまた番犬としても優秀なほどの強い気質を持っていました。
そのため抱っこされるのをいやがったりとすぐには愛玩化されなかったようです。
そのうちにブームになったのはミニチュアダックスです。
これはよく増えました。ダックスフントは短毛でサイズも大きく愛玩用ではなかったのですが、このダックスにロングコートをつくりさらに小型化して愛玩犬として人為的に繁殖したのがミニチュアダックスです。
声質が太くよく吠えるため吠えの問題はいつも抱えていますが、愛玩化した犬としては非常に増えました。
そのうちあまり吠えない気質のミニチュアダックスも出るようになりましたが、おびえのひどい犬も多くなりました。
ミニチュアダックスの数が増えすぎたあとブームになったのがトイプードルです。トイプードルはもともとあった犬種ですが、プードルカットが好まれなかったものを、テディベアカットにされたことで本当のぬいぐるみのような犬になり、爆発的に販売されています。今でも街中では最も多く見られる小型犬ではないでしょうか。
そして、現在増えているのは小型化されたチワワです。特にロングコートのチワワですね。
性質的にはチワワではなく、パピヨンのようになっているチワワもいます。顔つきも少しパピヨンに似てきました。
パピヨンはヨーロッパで愛玩犬として繁殖されている犬で、ペットショップでも見られ飼っている方も多いですが、性質的に神経質なところがあるためか、あまり数は増えていません。
キャバリアも小型の愛玩犬で人気がありますが病気が多いためあまり増えてはいません。純血種はそれぞれに遺伝的に欠陥がありますから、病気になりやすく健康に過ごしにくいということも考える必要があります。キャバリアの場合には心臓に負担がかかりやすいため、行動が比較的ゆっくりで大人しい犬が多いのもそうした理由からです。性質が大人しいというよりは身体的理由でそのような動きになるのでしょう。
他には、短頭種たちです。パグ、フレンチブルドッグなど、犬としてはかなり形が崩されているため不具合のあることも多いのですが、変わっていてかわいいと受け取られるのでしょう。
純血種の犬たちが人の好みによって、また人のつくるブームによって変わっていくことがわかりますね。
犬という動物が愛されるのはうれしいことなのですが、外見で選びすぎたり、選別しすぎたりすることの危険性も知った上で行って欲しい事です。
純血種を選ぶ場合には、愛玩が目的なら愛玩犬を選べば良いでしょう。
小型犬はほとんど愛玩を目的として人為的に繁殖されています。
大型犬や中型犬で愛玩を目的としているのは、ゴールデンリトリバーや、いわゆる飾り毛のあるスパニエル系の中型犬です。
純血種のうちドッグショーに出すために繁殖された犬たちをショータイプといいます。ショータイプで繁殖されている犬たちは、実際の使役で使われている犬よりも大人しく扱いやすい犬になっています。顔つきや体つきは現在の審査員に好まれるように変わっています。たとえばボーダーコリーは顔が丸っこく体つきもどっしりしています。ラブラドルリトリバーも顔が丸く、脚が短く、実際に猟で活動するラブラドルリトリバーと同じ犬種とは思えません。
バーニーズマウンテンドッグやグレーとピレニーズなども同じようにショータイプがあり、繁殖者から人手に渡るのは大半がこのショーのために繁殖されたけど、実際にはショーではトロフィーをもらえそうにない犬たちです。ショータイプが飼いやすいからといって、これらの超大型犬を飼うことはおすすめしません。結局ずっとつながれたままになり、人や犬のいない夜間にひっそりと散歩しているこられの大型犬をよくみかけます。
純血種のうち使役犬を目的に選ばれる方がいるでしょうか。
実は日本には犬を使役として使う文化がありません。牧畜や牧羊、荷物を引かせる犬、ソリ犬、猟犬、などすべて西洋の文化の中で、動物を使うという形で生み出されたものです。猟犬については国内でも使われていますが、この使い方もいろいろ賛否のあるところですので、ここでは述べません。
これらの犬は一般の方が犬を飼う目的としてはないということで話を進めていきます。
次に雑種です。
雑種は繁殖に人の影響を受けていないように思えますが、実は雑種の方が長い時間をかけて繁殖に影響を受けています。
なぜかというと、人が飼いにくい雑種は生き残っていないからです。
かつては国内では人が犬を飼う法律がありませんでした。
犬は人の近くをうろつき、こびて食べ物をもらったり住む場所を与えられたりしてあとはのんびりと過ごしていました。
人に近づいて食べ物をもらうためには、人に大人しく尾をふったりゆっくり近づいていったり、その人が犬嫌いなときにはあわてて逃げるなど、多少の警戒心と、そして人を見て行動できる力が必要です。
やみくもに人に吠えたり咬みついたりする犬は食べ物をもらえないため、生き残っていくことができません。
日本が育てた雑種はみなおとなしくなつきやすく飼いやすい性質をもっていました。
こうした犬を昔は野良犬と呼んでいました。
ところが雑種の中には大変難しい犬がいます。
これらの犬は人になつきにくくおびえて、人に吠えたり警戒したり咬みついたりします。
これらの犬や野犬とよばれる犬で、山の中で犬たちだけで野生として暮らしていたものが、はぐれて里に下りてきてしまったものや、子犬のころに山で捕まってしまった子犬たちです。
野犬と野良犬は違います。野犬は犬だけの群れで動物を捕獲したり自力で生活をしています。山のサイズにもよりますが、野良犬よりも少し大きめで毛も短め、そしていつも自由に動いているため尾も巻いていません。
野生のイヌ科動物を見るとわかりますね。
活動する犬の尾は巻き尾ではなく、オオカミのようにまっすぐによく動く尾です。
尾の形だけでもその活動の様子がわかります。
野犬は今でも山に存在します。野犬はなつきにくく警戒心が高くすぐには近づいてきませんので、子犬のころから飼育したとしても人と信頼関係を結べるようになるかどうかは判断が難しいところです。人に近づいてこない子犬については、選択から外してください。そのような犬が家庭犬となることが全くできないわけではありませんが、慎重に判断する必要があり、一般の方にはおすすめできません。
野犬との付き合いに関してはみなさんも考えるところもあるでしょう。また別の機会にお話しします。
雑種に関しては、野良犬の場合には人になつきやすく飼いやすい犬たちが残っているのですから、気質的には確かに大人しいのですが、これはあくまで人との距離がある程度保てていたことが前提なのです。犬たちはリードをつけずにいつもふらふらとしていたり、夜になったらひもを外されて夜遊びを楽しんでいたという犬のことを覚えている中年以上の方もいらっしゃると思います。犬にとっても古き懐かしき思い出です。
これらの人になつきやすい野良犬たちは自由があったからこそ落ち着いて過ごせたのです。リードにつながれたり、庭で囲われて飼う場合には、いろいろと工夫が必要になっています。愛玩犬ではない、ふらふらした野良犬の良い気質を残した犬たちですが、都市環境での飼育にはむかないこともあります。こうした犬たちがまた、日本の犬としてゆるりと生活できるようになったらいいのになという希望も、わずかですが持ち続けています。
人の生活がこれからのどのように変化していくのか、人の価値観がこれからどう変わっていくのか。
人の周りにいる犬はいつも人次第です。