家庭訪問形式のトレーニングクラスは、初期のころは犬の状態に応じて一週間に一回程度の家庭訪問を行っています。
毎回、トレーニングのステップが上がっていくのですが、その中で見られる犬の行動の変化について飼い主さんから報告を受ける時間は、楽しくもありドキドキでもあります。
しかし、変化するのは犬の行動だけではありません。
トレーニングクラスの回数が積み重なってくると、ある時点で飼い主さんの行動にも自ずからの変化が訪れてくる時期があります。
トレーニングを開始したばかりのころは、インストラクターの指導に従って飼い主さんの行動を変化させています。
こういうときはこうして、こういうときはこうして。
規則はわかりやすくするために多少厳格でもあるのです。
ところが、どうしても犬の鳴き声や要求や落ち着かない行動に右往左往してしまう飼い主さん。
「すごく鳴いているのでかわいそうになって…」
「いやがっているのでおやつを使いました…」
「ストレスになるんじゃないかと思ってさせられなかった…」
など、そもそもの犬の落ち着かない行動やストレス性行動に応じるように反応してしまうようです。
ところが、ある時点にくると何か大きく変化することがあります。
「数日前にクレートに入っているときに少し騒いだのですが、今日は見に行かないと決めていかなかったんです。そしたら何かが大きく変わった気がしました。」
ここで変わったのは犬ではなく飼い主の行動ですが、本当に変わったのは飼い主さんの気持ちです。
おそらく「腹をくくった」ということだと思います。
もうこんな関係は終わりにしよう、犬との新しい関係を作っていこうと飼い主が決めた瞬間、犬はそのことをよくわかります。
落ち着かない犬の多くは、落ち着けない人の空間で過ごしています。
決して人の性格が落ち着かないというのではなりません。
飼い主が犬のことがわからないとか、犬のことを誤解してしまっているために、犬が落ち着けない接し方をするために犬は落ち着きをなくしていくのです。
落ち着きをなくして問題行動を起こす犬を、飼い主はどのように関わっていいのかわからなくなります。
自信がなくなってしまってごまかしたり、腫物に触るようになるなど弱い心で接するようになります。
ある程度適当に相手をする、でも犬は簡単に言うことを聞きません。
何かをさせようとすると嫌がる犬を見て「かわいそう」だと言われることがあります。
それは自分の心が揺らいて落ち着かなくなるということで、結局は心が弱いということになるのです。
この人の心の弱さを犬はすごい動物力で察知しています。
犬は「飼い主さん、かわいそう」などと思ったりはしません。
むりそ「こいつ、弱いな!」ただそれだけです。
こんな弱い動物に自分を託すことなどできないと、私が犬ならきっと思うことでしょう。
「あなたの弱い心、見切った」と犬が感じた時に、犬は興奮し始めます。
犬は飼い主の鏡だとよく言われますが、それは本当なのです。
人の弱い心を映し出す犬、変えるためには強くなるしかありません。
でも、強さとは暴力ではありません。
強靭な精神、揺るがない信頼、絶対的な愛、そんな強さを身に着けていく飼い主の成長を感じることがこの仕事を続けている喜びでもあります。
犬はなんでも見切ってくれます。
安心して飼い主として成長してください。