生徒さんが郊外の戸建てに引っ越したため、環境整備のトレーニングのためにご自宅に伺いました。
犬は9歳の小型犬で、子犬のころからご家族といっしょに、高層マンションに暮らしていました。飼い主さんはマンション暮らしを始めてから犬を迎えることになり、マンションの規定にある「共有部分は犬を抱くかクレートにいれること。」というルールをクリアするために、小型犬を選んだとのことでした。
犬と一緒に暮らしながら、犬の行動についての勉強を重ねる中で、犬の生活にいろいろとストレスもかかっていることを受け止められるようになりました。グッドボーイハート七山校では、犬といっしょに山歩きをするような機会も増えてくると、犬の表情や行動の変化に気づくことも多くなり、お庭のある家でいっしょに暮らしたいと思いが高まってきます。そしてついに戸建てに引っ越すことを決められました。
念願の庭付き戸建て家での生活ですが、最初から思い描いたとおりというわけにはいきません。動物は環境の変化に敏感だからです。それがどんなに良い環境のほうに移ったとしても、今までとは異なる環境に変化したことにストレスを感じてしまうのです。今回は、移転直後にお話を伺ったときにいくつかのアドバイスができる点に気づき、よりスムーズに新しい環境に適応できるようにするための指導のためご自宅に伺いました。
新しい家には庭というスペースがあります。犬が生まれてはじめて経験することは、屋外のなわばりの境界線です。庭の前には道があり、人や犬が歩いているのが見えています。「すぐ外に他者がいて、自分のなわばりが内側にある。」この境界線はどんな動物にとっても緊張感を伴うものなので、できるだけ互いに刺激しあわないようにするのが大切です。
柵があったとしても犬には柵の意味がすぐには理解できません。そこから家族やまた他者が出入りする場所ではない、境界線は守られていると犬が理解するようにする必要があります。たとえば、見えないように工夫をするなどです。犬は臭いで相手との距離をはかっていますが、見えない、つまり自分の姿が見られていないという状況では落ち着いていることができます。逆に見えている、つまり自分が見られているという状況では防衛的行動が高まっていきます。
排泄をどこでさせるかという問題もあります。マンションでは散歩に出て排泄をする以外は、室内のトイレシーツで行っていました。今は、庭に出て排泄をすることができます。ペットドアをつけてあるので、戸口が開いていればいつでも自分で排泄に出ることができます。このような空間があるのに、室内で排泄をしなければいけないのは、庭がなわばりになっていない、もしくは室内マーキングをしているということです。
庭での排泄の仕方をよく見ていると、室内のトイレトレーを撤去できる状況かどうかがわかります。トイレトレーの撤去は、犬に習慣化した不要なマーキング行動をさせないことで、ストレスを軽減させるためです。家族との関係性にも影響します。排泄については天候による排泄行動の変化など、順番を経ながら行う必要があります。
室内のスペースも整えていきます。今まではマンションの高層階だったため、窓の外をみても何も見えません。ところが今度は、窓の外に庭や庭の前の道が見えます。犬の視点に立って、どのスペースが犬が落ち着いて過ごせるのかを考え、犬の臭いのついたベッドやクレートなどをいくつか配置していきます。留守番のときはどうしているかも確認しました。
庭で過ごす時間が増えていたので、散歩に出る時間が少なくなっていたようです。庭があっても散歩はとても大切な時間です。犬が老齢の場合には別ですが、元気な犬にとっては、散歩行動は健全な関係と生活のために必須です。
都市環境での生活では、散歩コースは車の多い大通りでした。自転車は走っているし、騒音もすごいし、犬は散歩を楽しめていないようでした。新しい環境では、家のすぐ後ろが森になっていて、家を出るとすぐに山道へ入ることができ、自然とふれあう散歩ができます。
森が近い環境を選ばれたのも、犬の生活を思っての飼い主さんの思いでした。引越し後も散歩に出るようになり、犬の行動もさらに落ち着いてきたようです。
マンション住まいの方が庭付きの住居を敬遠される理由のひとつが「虫がいますよね…」ということです。虫はいるものと諦めるしかありません。害を及ぼす虫については自分たちの方法で駆除するしかないというはなしです。
七山に来られた当初は虫を見ただけ「キャー」と反応の高い飼い主さんでしたが「昨日、ムカデがいたんです。すごい大きい奴が。」と比較的落ち着いて話されました。「凍結するスプレーでやっつけました。」とのこと。飼い主も強くなりますね。
他にも「目覚まし時計がなくても自然に目が覚めるようになりました。」といううれしい変化もあったようです。新しい生活環境に慣れていない部分もありますが、犬の表情や行動は明らかに以前と違います。
心地よい風が吹きホトトギスの声が聞こえるこの庭と家で、飼い主さんと犬がどのような時間を過ごしどのような関係を結ばれていくのでしょうか。心地よい環境をじっくりとあじわうには時間が必要です。環境を整えていくこの変化のときも含めて、ぜひ楽しんでいただきたいです。
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熊本被災ペット支援ネットワーク
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