まだ4月中旬なのに、山やひと月先くらいの風景になってしまいました。
暖かな日差しを思いっきり受けて、草も葉も成長したい放題になって少しあわただしくなっています。
春という不安定な季節に体調を崩す人も犬も増えているようです。
休息から活動に入るこの時期ですから、自宅ではゆっくりと過ごし屋外ではきちんと活動するメリハリをつけていくことも、健康のために必要な時間になりそうです。
プライベートトレッキングクラスに来られる方が増え始めたので、自分も山活動時間が増えてきました。
犬との過ごし方はいろいろありますが、自分にとっては犬と共に山歩きすることが最高の時間です。
一定のルールを持ちながら広い空間と時間を使って、お互いに拘束されることなく自由でありながらかつつながっているという関係性を深めることができるような気がするからです。
歩いている犬を見ると、結構大変なことになっていることがあります。
杉の枝や草の種が犬の毛にからまっていたりと、歩きにくそうにしています。
先日いっしょにトレッキングしたリンちゃんの脚にも、たくさんの種が絡まりついていました。
リンちゃんはシュナウザーという純血種で、色は真っ白です。
白色の毛が土色に変わり、脚の汚れが目立ちます。
毛はほとんどが飾り毛なので、種や杉の葉といった繊維にひっつきやすいものが絡まってなかなかとれなくなってしまいます。
同じように土も繊維の深くに絡まるため、泥状の汚れがふき取る程度ではきれいにはとれません。
犬は本来、山で生活するようにできています。
その骨格、筋肉、皮膚、被毛も、この山空間で安全かつ快適であるように歴史をかけて自然がつくってきた犬本来の体というのがあります。
ところが純血種の犬は違うのです。
純血種というのは100年ほど前にヨーロッパで始まった趣味の犬の世界から始まっています。
よく純血種=働く犬と思われていますが、そういうわけではありません。
使役のために繁殖された犬たちはサイズや性質を求められましたが、規定の体の大きさや耳や尾のタイプ、毛質の色や状態を純血種の規格として求めているのはドッグショーという趣味の世界です。
このドッグショーのために繁殖されている犬たちから、家庭犬としての純血種が広がってきました。
不思議なことですが、ドッグショーをよくご存じない人でも「チャンピオンの子」と書いて売り出されている子犬を見ると、なぜか特別にいいものだと思ってしまうようです。
ドッグショーの規格の中で人為的に繁殖をくり返される純血種犬の中には、山という環境で快適さを保つことができなくなった犬種もあります。
前述した飾り毛、毛の色、皮膚の弱さ、免疫力の低さ、体型、筋肉のつきにくい体など、不便を強いられることもたくさんあります。
こうした犬たちと山歩きをしたあとは、このあと脚を洗ったり毛から種を取り去るなどいろいろと大変なのです。
その大変さや犬が汚れるのがいやだという理由から、犬に山歩きをさせたくないと思われる飼い主もいるとは思います。
それでも、知っていただきたいのです。
山を探索しながらゆっくりと歩いていく犬の満足した表情や真の安定や落ち着きや欲求を満たすということについて、実際に犬を見て感じていただきたいのです。
犬が山を歩く姿を見れば、犬が人の繁殖によって変わってしまい、汚れや種などが絡まる毛質になったことを不便だと思う前に、もっと違った気持ちが生まれるのではないでしょうか。
真っ白なリンちゃんですが、お山では満足した表情で歩いています。
たくさん歩いても、まだまだ歩けるといった風でもあります。小さいのに頼もしいですね。
飼い主さんも、汚れても苦にされている様子はなく、「リン、楽しいね、良かったね」と声をかけています。
犬がどこでどのように過ごすのか、その権利を持っているのは飼い主なのです。
その小さな積み重ねが犬の一生になることを考えると、人の10分の一の時間しか持たない犬に対してできることはわずかなことしかありません。