先日あるご家庭で「一番暑い夏は越えましたね。もう秋ですからね。」というと
「少し季節が早いのですか?」と尋ねられました。
お尋ねの理由はわかります。福岡では、また夏まっさかりというほどの暑さなのに、
もう秋ですからねというのは不思議ですね。
理由は、週の半分くらいを七山に戻って過ごしているからです。
実はわたしも七山に来たばかりのとき、山の手入れについて土地の方とお話しているときに
季節の違いを知りました。
自分が夏だと思っていた8月の中旬は、山の人にとっては秋の始まりなのです。
単なる価値観の違いではなく、肌を通して季節の違いを感じます。
8月7日に立秋を過ぎて、七山ではすっかり秋の風を感じられるようになりました。
まだ蝉の声が一日中響いてはいますが、ツクツクボウシの声が聞こえるようになりました。
この声を聴くと秋が近付いているというお知らせを受け取ったような気持ちになります。
棚田の稲穂は頭をしっかりと下げています。
栗や柿の実は枝がたわむほどになり、いくつかは青いまま落ち始めています。
雑草は夏枯れを終わり、まだまだ最後のひと葉を広げようとします。
山の斜面にオオスズメバチが巣を作ってしまい、山歩きのコースの変更を迫られました。
これが最近の一番の山の悩みです。
ハチは10月にかけて巣を大きくしていきますので、ハチの数が増えるのはこれからです。
これも季節の流れです。
この季節の移り変わりは、街中のファッション店の季節の先取りと同じ速さですが、
肌を通して伝わってくる感覚は全然違います。
この季節感を全身で味わえるようになって、やっと私も8月のこの季節に秋が始まったと
思えるようになるのに何年もかかりました。
犬たちが季節を情緒的に受け取っているのかどうかはわかりません。
ただ、犬たちが太陽や風の移り変わりを毎日感じていることは確かです。
過去にも未来にも執着しない犬という動物ですから、冬のことをうらやむこともありません。
早く涼しい秋になればいいなと思うこともありません。
ただ、今日の一日を体で感じることが彼らのできる最大のことであり、そして最も有意義なことです。
こうして外気にあたって季節を感じることが動物の幸せであると思えるようになったことは、七山という土地で過ごす時間をいただいたことで体が学んだ大切なことです。
考えると自分にとっては約50回(ここは曖昧に)の夏を越したということ。
犬たちは多くて10数回の夏を越すだけです。
犬の寿命を考えると、犬によっては6回、7回、8回の夏だけだとしても不思議ではありません。
しかし、これはやはり回数ではないと思うのです。
どんな夏をどういう風に過ごして越したのか、やっぱり毎日の生きる質を思います。
人と比べるとほんのわずかな回数しかない犬たちのそれぞれの季節が、自然とともにあり、季節を体感できるものであるための環境作りは決して簡単ではありません。
でも、どんなことも思わないと変わりません。
まず、犬にとって大切なことは何かを思い、考え、そしてそれを実現しようと願い、行動する。できなくても今日できることをひとつやってみる、そのくり返しです。
犬の生きる時間の短さを思うと、なかなか人の成長は追いつかないのですが、
気づいて変化しようとする飼い主と共にいるだけで、犬は気持ちが楽になるのではないでしょうか。
活発なハチを横目に、秋はやっぱりお山のシーズンです。