週末はグッドボーイハート福岡校で犬語セミナーを開催しました。飼い主さんだけを対象とした犬のコミュニケーション=行動学を学ぶセミナーです。暑さの中たくさんの方にお越しいただきありがとうございました。セミナーの追加補足を含めて、犬のコミュニケーションについてお話します。
● 犬の要求行動にはどんな行動があるのか?
犬はいろんな意味で、人がいないと成り立たない生活を送っています。どんなに精神的に自律していると感じられる犬でも、必要なものが必要な時期に与えられないとそれを要求する行動をします。
犬にとって人といることで一番大切な理由はゴハン(食べること)です。昭和初期に犬たちがまだ係留されることもなく家の付近をうろうろとして過ごしていたときもゴハンの時間になるとちゃんとそれぞれの家に戻っていったものです。
中には係留される犬も夜中になると首輪抜けに成功して放し飼いを謳歌していた犬もいたのでしょうが、こうした犬たちも朝方のゴハンの時間になるとそれぞれの庭に戻って再び係留されるのでした。この時代の犬のゴハンは、朝方もしくは夜遅い時間でした。残飯の処理をかねていますから人の一日の食事が終わった後だったからです。今の子ども達は見ることのない遠い昔の風景です。
話を元に戻します。今は係留されているか庭の囲いの中、室内の中に軟禁状態で管理されている犬たちにとっては、自由な犬たちよりも強くゴハンを待っています。ゴハンのときにはそれぞれの要求行動を見ることもできます。
ゴハンを要求する行動にはこんなものがあります。ジャンプしたりワンワン吠えたりして興奮する行動をする。鼻を鳴らしたり人について回る行動をする。人にとびつく。飼い主をじっとみている。飼い主に手をかける。
さらに興奮するとこんな行動に発展します。吠えるからギャーというような奇声に変わる。クルクルと回る。部屋の中を行ったり来たりする。ハウスに入れられるとハウスの入り口をガリガリと手でかくなどの行動です。
要求行動はストップが入らないとそのまま興奮行動へと変化していく傾向が強いのです。なぜなら要求が通らない状態が続いてしまうわけですから、ストレス値がほんの少しの時間に上昇してしまいます。そのため要求行動がとびつく吠えるなどの興奮行動に発展するとエスカレート式に行動が強くなり、その結果ゴハンにありつけるとなると、犬は意図せずこの行動を毎日学習してしまいます。
これに対して、ゴハンの前にじっとオスワリしたりフセをしてゴハンの時間まで待つとか、ハウスに入って静かにゴハンを待っている犬たちがいます。ゴハンが来るまでのほんの少しの間、犬は自らの要求と興奮を抑えてその時がくるのを待ちます。いわゆる自制状態になります。自制の結果、ゴハンにありつけます。自制しているときには、飼い主を観察することもできます。そのため「だれが自分にゴハンを与えているのか」を理解することもできます。
興奮している犬はただゴハンの方しか見ていません。そのため誰にゴハンをもらっているのかというのもあまり理解していません。いつも興奮することでゴハンをもらえ、要求を通す状態を強くしてしまいます。ゴハンの与え方というよりは、犬がゴハンをもらうという行動に対して「犬のしつけ」として厳しく指導するのは、犬にきちんとした理解力をつけさせ関係性を築くことが犬の安定につながっているためです。
● 要求行動を受け入れて甘えさせても犬には安定はない
ゴハンを与える以外にも、犬が人に要求する行動はたくさん見られます。特に室内飼いの犬では一日中こうした行動が見られます。飼い主に手をかける、鼻を鳴らす、とびつく、口をなめる、膝の上に乗ってくる、お腹を見せるなどの行動は、飼い主さんに対する要求行動です。よくみなさんが言われる言葉では「かまってほしい」という行動であるともいえますし、甘え行動ともいわれます。
「かまってほしい」というのは、犬がひとりでは何もすることがないという室内での退屈な犬の生活を表していると同時に、別の意味では飼い主に構ってもらわないと落ち着かないという依存的な関係が強くなっているという不安定さのメッセージでもあります。犬のかまって行動はそのうち飼い主の膝の上にじっとしていることで安定をみたように勘違いしてしまいますが、実はこれは真の安定ではありません。
飼い主の膝を居場所とする犬は、飼い主が動いたり他の人と接触することを阻止しようとします。飼い主の後ろをついて回る、とびついて要求をくり返す、鼻をならす、家族や来客に吠える、帰宅すると興奮する、そしてストレスはさらに上昇し、ついに誰かに咬み付くという結果になるでしょう。
要求行動が高まり、適当に相手をしてごまかそうとしても犬の興奮がおさまらなくなることがあります。犬が飼い主に対して甘咬みする、髪の毛にかみつく、洋服にかみついてくるという行動をエスカレートしているときには要注意です。ここまで関係が悪化してしまうと強く叱っても犬は吠えたり飼い主に威嚇したりして全くいうことを聞かなくなります。
● 犬の要求行動や興奮行動を叱ったら吠え返してくる犬、なんでなの?
飼い主が「ダメ」と叱ったら吠えたり威嚇してくるのはなぜでしょうか?ずばり、自分と親の関係や、会社の上司と部下である自分の関係に当てはめてみてください。自分が間違えたり横柄な態度を示したり暴言を吐いたりしたとして、そのときに受けた注意を受け入れられるか、受け入れられなくとも一旦下がって少しくさくさしてでも、自分を抑えることができるのは、相手に対する敬意かなんらかの関係性が生まれているからです。そうでなく、相手が全く普段から自分の指導も相手もせずに自分のことだけに時間を使っているのに対し、犬の方も飼い主と同じように好き勝手に振舞うことを叱られれば吠え返す気持ちもわかります。
では、どうすればいいのでしょうか?というのがみなさんの知りたいところだと思います。客観的に考えればとても単純なことなのです。犬は飼い主とのより良い行動を望んでいるだけです。なぜならそれが自分の安定につながっているからです。犬は社会性の高い動物です。同居する家族である人とやらなければいけないのは社会的な関係を結ぶことです。それは、放し飼いにされていて、どの家でゴハンをもらっても良かった時代とは違います。犬は飼い主に行動を制限されているため飼い主なしでは行動できない動物になってしまったのです。犬が飼い主と社会的な関係を築いていくことが、犬にとっても社会とのつながりの扉になっているはずです。
具体的にはどうしたらいいのかというと、まず犬と過ごす時間を増やすことが一番です。散歩、遊び、室内でのルールを教える、外飼いの場合にもフセマテやオイデができるようになるのは、飼い主との関係の上で成り立っています。散歩、遊び、ルールを教えることの中には、最初は飼い主が主導的な立場であることをわかるようにしてください。教えるという行為自体が主導権を握っていますから自然にそうなっていくはずです。ただ、リードをもって犬に好き勝手に振舞わせた散歩では、あまり意味がないどころか、せっかくの犬との時間が関係性を難しくする時間になってしまうということです。
● 犬との暮らしで飼い主に欠く事のできない大切な二つの学び
そしてその犬との関係作りに欠かせないことがあります。それは犬という動物を犬として理解する必要があるという飼い主側の必要性です。犬として理解する方法のひとつに、犬の行動やコミュニケーションに対する理解を身につけるという学びがあります。次に、犬の社会性について理解を深める必要があります。たったこの二つのことに対する理解だけなはずなのに、なかなか理解が進まないことがあります。理由は、最初に思い込みがあるからです。「犬は人のことが好き」だと思い込んでいる方は、まずそれを捨ててみましょう。そして、「犬から信頼される飼い主を目指す」と言い換えてみてはどうでしょうか。
犬の行動やコミュニケーションについては、犬の行動を撮影したビデオを見て学ぶのが一番です。肉眼だと見落としていることがたくさんあるからです。今回の犬語セミナーでは七山校でお預かりクラスを利用していただいたときに撮影したビデオも使用しました。家庭とは異なる環境で、来客と対面して遊んでもらうビデオなどですが、普段の自宅での来客に対する行動とは全く違う風景に参加した飼い主さんも驚かれていました。犬に安定した基盤である環境を与えると、犬はさほど興奮することなく人と接したりコミュニケーションをとることができるようになります。
忙しい中に癒しを求めて衝動的に犬を飼ってしまうと、犬を飼ったら癒されるはずだったのにという不満がたまってしまいそれが犬にもわかってしまいます。ただ犬を見たりなでるだけの道具として使うことは、犬を傷つけるだけでなくそれをした人も傷つくことになります。なぜなら、そこには犬の幸せな空気は流れず、人はそのときは気づかなくともきっといつかそのことに気づいて苦しい思いをされるからです。
だから、犬の行動に何か問題を感じるなら、まだ大丈夫です。まだ犬は飼い主とのより良い関係を求めていますし、これから時間をかけてその関係を良いものに変えていくことができます。犬は犬なのです。犬の権利などを主張するつもりはありません。ただ、犬との暮らしを関係を通して楽しんでください。それはドッグランやドッグカフェにはありません。あなたの生活の中にあり、そしてそれをひとつひとつ変えていくだけのことです。どこまで変化していけるのか、どこまでも楽しんでください。