ご相談を受けるカウンセリングクラスの中には、老犬の介護の方法やアドバイスが欲しいというものがあります。犬をはじめて飼った方は、老犬のお世話に戸惑うことでしょう。動物医療の発達や食べ物や生活の快適性や活動量が減ったことなど、人と同じ理由で犬の寿命も少し延びていることは飼い主にとってはうれしいことですが、犬の老化や介護で動物にかかる負担も大きなものなので、できるだけ安心して過ごせるようにと飼い主さんといっしょに考えながら提案をさせていただきます。
介護のやり方やアドバイスのために家庭訪問させていただく中に、ドッグヒーリングも一緒にお願いしますというご要望もあります。逆のパターンもあります。つまりドッグヒーリングを依頼されて介護のやり方やアドバイスにお答えするというクラスです。どちらも同じ内容になります。こちらからの押し付けではなく、飼い主さんのご希望の過程に沿いたいという形で最初の経過が違うというだけで受講料はどちらも同じです。今日はドッグヒーリングクラスについて少しご紹介します。
● ドッグヒーリングってそもそも何?
ヒーリングという英語を日本語に訳すと「癒し」となります。犬と暮らしている人の中には、「犬に癒される」ということを言われる方も多いですね。「癒し」とという言葉自体はここ10年くらいでよく聞かれるようになった言葉ではないでしょうか。
ところが「癒し」という世界は感覚的な世界なので説明するのも難しいのです。しかもヒーリング(癒し)というのは、あくまで人の世界で気づいてきた人の文化です。ただその文化はとても古く長い時間をかけて作られて、そして長く大切にされてきたため今こうしてここに体感することができるという事もできます。
ヒーリングや癒しという言葉は時代の流行にもまれたり、サービスの形を表現する言葉として広がりはじめ、リラックスすることだと勘違いされているようなこともあります。確かにリラックスして安心できることは、癒しを体感したときに感じるひとつのことでもありますが、癒しの感覚はもっと深いものであると感じています。
「癒し」とか「ヒーリング」という言葉をネットで検索して頭で理解しようとせずに、癒しとは難だろうと考えながらも、経験したり、感覚を磨いたりしていくことで一歩ずつ近づいていきます。犬として生きている犬は、癒しを知る道のガイドとしての存在になってくれます。
● 老犬のためのドッグヒーリングとは
今回ドッグ・ヒーリングクラスをさせていただいたのは老犬となり家族にお世話を受けながらゆったりとした毎日を過ごしている犬くんです。数ヶ月の若いころにお世話をさせていただいたご縁です。あの小さなやんちゃ坊主がりっぱなに成長した後に人のお世話を必要とする年齢となって過ごしていることは、とても感慨深いものがあります。
犬と人の中に流れている月日の速さの違いは、どうやっても埋めることができません。そしてそれを頭で理解することはできても、同じ時間の流れを共有することはできません。人が1日を終えるころに犬の方も1日を終えるのですが、その時間が私達人の時間にすると7日となると換算したとしても、なかなか理解することはできません。受け止めるべきことは今目の前にいるこの犬がその犬の年齢では老年期といわれる年齢に達していて、老化を受け入れつつ不自由さを少しずつ受け入れつつ、今日の一日を過ごしているということだけなのです。そのときについ思ってしまう「いつまでいっしょにいられるだろうか」「また少し老いたような気がする」といった不安や寂しさは犬には必要のないものです。
とはいえ、そうした気持ちになるのはとても自然なことです。悲しさや寂しさが犬といるときに芽生えてしまうのも仕方のないことです。ですが同時にもっと強い飼い主の思いもあります。それは、今こうして犬といっしょにいることができるこの時間と空間を犬にとって心地良く安らかに過ごせるように協力したいという思いです。
老犬の介護のアドバイスや老犬のドッグ・ヒーリングをさせていただくときには、飼い主さんのこの気持ちを中心にしています。その上で、ドッグインストラクターとして、またドッグヒーラーとして現実的にお手伝いできることをさせていただきます。どちらの職業名も自分にとってはどうでもいいものですが、業としてさせていただく限りにおいてはなんらかの名称が必要であるために使っているものです。犬がどのような状態であっても、自分は飼い主さんのサポーターであることに代わりはありません。
ドッグ・ヒーリングですが、具体的には手を当てるタッチヒーリングという形で行っています。手を当てながら犬の必要としているところに応じるように手当てを続けていきます。ただ手を当てているだけなのですが、ときどき不思議なこともおきます。また、動物の治癒反応が引き出されるために、ヒーリングを受けたあとにもいろいろと反応のあることもあります。どれも必要があって起きていることで、魔法のように突然起きたわけではありません。ドッグ・ヒーリングを通して犬とより近いコミュニケーションを得る時間となります。受け取ったことは全て飼い主さんにお伝えしています。くり返しますがドッグ・ヒーリングは魔術ではなくとても現実的なことを大切とした癒しの世界のことなのです。
なかなか文字ではお伝えすることが難しいので、飼い主さんにもヒーリングを受けていただくことができるようクラスを設けています。お試しクラスもありますので、興味本位であっても体験してみたい方はお気軽に受けてみてください。劇的なことは何も起きませんし、全く感覚のないという方もいます。ですが、受け取り手によっては何かを受け取られることもあるのです。
● 長生きは犬の幸せなのか
犬や猫は人に飼われるようになって長生きになってきました。動物園の動物が明らかに野生動物よりも長く生存できるという理由と同じです。人が食事や生活を管理し病気を管理することで、生きる長さは長くなったという事実があるのです。人も生活の変化で寿命が延びるようです。人生50年と歌われた時代から考えると、日本人は人生85年というくらいはあるでしょうか。だからといって人生50年の時代よりも生き生きと幸せに生きているかというと以外にそうでもないと感じます。
先に述べたとおり、犬と人は生きている時間の流れる速さが違います。だからつい欲張っていつまでも長く生きてほしいと思ってしまいます。人という動物ですからちょっとくらい欲の出てしまうことは仕方のないことだと思います。ですが欲張りが過ぎてそのことばかりに夢中になってしまうと、本当に大切なものが見えなくなることもあります。老犬になってから医療行為が過剰になる人でいう延命という作業も、やりすぎれば犬に負担をかけます。
今、老犬と暮らしている方ならそれはとてもラッキーなことです。老犬のお世話をできるくらい犬が長生きしてくれいていることは動物としてはすごいことなのです。なぜなら、まだいっしょに過ごせる時間が1分以上はあるし、今日、明日、明後日と犬に話しかける時間もあるかもしれません。身体的な変化や認知的な変化など、犬の老いの変化はそれぞれです。どの変化もこれまで犬が歩いてきた中で選択してきたことなので、それぞれに尊重してサポートしたいものです。