黒柴のすみれちゃんは子犬のときに飼い主さんといっしょにグッドボーイハートにやってきました。
飼い主さんによると「犬を飼う予定ではなかったんですけど、ペットショップで小さなケースにいれられているこのコをみて、衝動的に飼ってしまいました。実は前の犬が柴犬だったのでとてもかわいそうな気がして…」ということでした。
子犬のすみれちゃんはいろいろな困った行動をしていました。子犬は環境になじんでいないため子犬なりの問題が生じることがあります。でも、すみれちゃんの行動は単純な子犬の行動だけではありませんでした。
すみれちゃんの問題は、子犬販売の問題を抱えたケースでした。
というのは、ペットショップによっては販売までショーケースでの展示だけになることもあり、子犬にとっては強いストレスのかかる状態で子犬期の大切な時期を過ごしていることがあります。当時は動物愛護法の「子犬の販売に関する規制」がなく、こうした子犬の行動問題はとても多いものでした。
また飼い主さんは、「以前飼っていた柴犬が、犬が全くダメで近づけることもできなかったので、今回は犬になれてほしいと思っているんです…」というすみれちゃん育てへの希望も語られました。
子犬の時期の成長と発達は、犬が成長してからのコミュニケーション力や、犬同志で社会的な関係を作り上手にやっていく力に強く影響を及ぼします。子犬の頃にトレーニングに取り組んだとしても、生後1歳くらいまではその影響下に置かれるため、行動はすぐには変化しません。
実際、すみれちゃんは生後5ヶ月くらいで散歩に出るようになっても、慣れない環境に接すると硬直して動けなくなったり、ビックリして興奮するようになりました。でもこうしたことも事前把握しておくと、心の準備もありますので「やはりこういう行動がでたのか」と慌てることもありません。
飼い主さんには今できることと、これから起きる可能性のあることの両方をお話しながら、もし困った行動が出てきても大丈夫。きちんと対応していけば安定した状態を保つことができるようになりますよ、という説明をしてトレーニングを進めました。難しい散歩の練習などは多少のサポートを行いながら、飼い主さんができることをひとつずつ進めていくということが、一番大切なことなのです。
飼い主さんは毎週の宿題をひとつずつクリアしながら、すみれちゃんとのコミュニケーションを高めていかれました。すみれちゃんが、教えたことをできるようになることがとても楽しいようで、いろんなことを教えたり、話しかけたり、すみれ、お利口ね~。」と笑顔たっぷりです。
飼い主さんが犬と真剣に向き合うようになれると、すみれちゃんのできないことも笑って話せるようになっていきました。まだ不安定な犬を支える強さも、飼い主さんの力です。すみれちゃんはそんな優しく強い飼い主さんの気持ちを求めていたのかもしれません。
すみれちゃんの犬の先生はオポが担当してくれました。若くて力のあるオポはすみれちゃんにとってはビックリするような存在だったでしょうが、すみれちゃんの衝動性を一番知って引き止めていたオポ先生の対応によって、すみれちゃんにとって大切な「抑制力」を少しずつ身に付けていきました。このことが他の犬とのコミュニケーションにとっても大切な力になっていき、他の犬にもビクビクしない犬「すみれちゃん」が成長していったのです。
「抑制力」は全ての動物にとって欠かせない力です。ところがオスワリやフセを覚えることとは違って、一旦身に付けたように思える「抑制力」も環境の変化に応じて急速に落ちてしまうことがあります。過保護になりすぎるとか放任しすぎると低下しやすい不安定なものです。すみれちゃんの中に育った大切な「抑制力」を飼い主さんがこれからも育ててくださることでしょう。
もしみなさんのそばに犬の先生がいなくても大丈夫です。オポがしたことと同じことを人がやってあげればいいだけなのです。オポとすみれちゃんとの関係から私もたくさんのことを学びました。
すみれちゃんは飼い主さんの目標通り、他のワンちゃんともそれなりにかかわれるようになっていきました。たまに抑えがきかなくなって興奮遊びに発展してしまうこともありましたが、同じような性質のワンちゃんと出会ったこともあって、若いエネルギーを上手にはじけさせていました。
他のワンちゃんと一緒に過ごせるようになることが希望だった飼い主さんは、すみれちゃんをいつも笑顔で見守っていました。すみれちゃんのちょっと無礼な行動も、苦笑いながら可愛いと思ってしまうところは、飼い主さんならではの親心的反応ですね。
今では落ち着いた年齢になってきたすみれちゃんと飼い主さんの関係作りは、まだ終わっていません。これからも、すみれちゃんが何才になっても、すれみちゃんが伝えたいこと、教えてくれることをたくさん受け取ってください。
飼い主さんの「宇宙一可愛い」すみれちゃんの笑顔が、これからも続きますように。