トレーニングのご相談やカウンセリングの際に飼い主さんによく言われることがあります。「うちの犬はオスワリとかフセはちゃんとできるんですけど」。オスワリやフセはちゃんとできるのに、やってほしいことができないとか、他に困ったことをしてしまうということです。特に室内犬にこの傾向があるように思えます。
子犬を飼い始めたときは、飼い主さんも気合や楽しみがいっぱいです。犬が家に来たら、早速オスワリやフセを教え始めるでしょう。大好きな食べものやオモチャを犬に見せれば、犬はこちらをみます。それを使ってオスワリやフセを教えるのはそれほど難しいことではありません。早ければ数回で覚えてしまうかもしれません。犬が幼少期であればあるほどその覚えは早く「うちの犬は頭がいい!完璧!」だと感動されることでしょう。そして、これで犬のしつけは十分にできていると思い、目の前で起きている少し気になることも、犬が年をとって落ち着いてくればそのうちに止めてくれるだろうという、淡い期待を持ってしまいます。もしくは、成長と共に生じてくる「吠える」「興奮する」という行動も、「オスワリもフセもちゃんとできる。しつけはきちんと教えてあるから大丈夫。」と思って見逃してしまうかもしれません。
ところが、犬の少し気になる行動はなくならないばかりか、新しく生じた問題となる行動や困った行動などが出てきてしまいます。
「オスワリもフセもちゃんとできるんです。子犬のころにパピー教室に通ってちゃんとしつけをしたんです。」飼い主さんにとっては何でもものをおぼえるお利口さんの犬が、どうして困ったことをするのだろうという状態になり、飼い主さんも混乱してしまうようです。
こうしたケースで犬が困った行動を起こしてしまうシチュエーションは、飼い主さんが犬の相手をしていないときです。たとえば、犬がそばにいるのに家族と話している、散歩中に人とお話する、他の犬の相手をする、電話をかける、パソコンをする…などですね。飼い主さんが犬をしっかり見ていて、「オスワリ、おりこうさんね~。」とか「フセ、イイコだね~。」といっているときは、ちゃんと言う事を聞いてくれます。犬は「わたしを見て!」「ボクに声をかけて!」という状態ですから、相手をしなくなると、ものを破壊する、吠える、マーキング、テーブルの上にのる、などと、飼い主が止めに入らなければいけない状態をつくっていきます。飼い主の気を引く行動をしてしまうのです。
では、どうしてこんな問題が起きるのでしょうか。
犬のしつけとトレーニングについて誤解されていることがあります。それは、犬のしつけやトレーニングは犬のしつけ方教室に通って犬にオスワリやフセを教えることだと思われていることです。同様に犬に合図を言って行動をさせる芸やトリックのトレーニングは、一定の目的を果たしてくれることがありますが、やりすぎると本来の目的を見失ってしまいます。
なぜかというと、たとえば「オスワリといって犬が座るように教える」というトレーニングは人から犬に話しかけ相手が聞くというコミュニケーションではありますが、一方通行のコミュニケーションなのです。犬が人に話しを聞いてもらえる対等性のあるコミュニケーションではありません。
そのため犬はいつまでたっても感情が満たされず、犬の方から飼い主に関心をむけさせるようなコミュニケーションをとろうとします。そしてそのやり方は激しく非常にイライラとしたもので、飼い主さんをも苛立たせるものになっています。他の犬にも同じように働きかけますので、他の犬をイライラさせたり遠ざけたりするような結果になってしまい、犬はますます孤独になってしまいます。
それが一時的なものであれば、こちらの接し方を変えるだけで自分を取り戻し正常なコミュニケーションが復活します。ところですが、成長過程で一方通行のコミュニケーションを受け取り続けると、成長期にきちんとしたコミュニケーション力が育っていない、つまり社会性が未熟な状態となり、問題は多少複雑になっています。
ここまで、理解していただけたでしょうか。
で、どうすればいいの?というのが一番知りたいところでしょう。
まず、合図を出して反応させるトレーニングを終了してみてください。そして、犬の行動について勉強してください。犬の行動はすべてがコミュニケーションや表現方法であり意味のないものはありません。どんな行動も関心をもって見守りその意味を知ってください。行動の意味がすぐにわからないこともあります。そのときは一旦「わからない行動ファイル」にいれておいて、引き続き観察を続けます。そうすると他の行動と結びうつきその行動の意味がわかるようになります。ネットや本の情報に頼りすぎないでください。犬という動物として本来はでにくい行動を、人との生活の中で身に付けています。その環境の中で生じたコミュニケーションは個性の高いものになっています。飼い主さんの影響をたくさん受けているのです。
問題があっても、すぐに解決しなくても大丈夫です。自分の犬を知りたいと思う気持ちがあれば、きっとそういう人たちとの出会いが増えていき、犬への理解につながる輪ができあがっていくと思います。
期待はするなかれ、でも希望は大きく持ちたいものです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
熊本被災ペット支援ネットワーク
http://kumanimal.blog.fc2.com/blog-entry-3.html