グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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犬に寄り添い自然に近づいた人のこと:昭和の犬の映画「ベンジー」のドッグトレーナーとの出会い

 映画やドラマの中に犬を含めて動物が登場すると、ついその動物の行動の方に注目してしまいます。注目する理由は、映画の中で動物がどのように使われているのか、その映画の撮影中に動物がストレスを感じていないかどうかを読み取ろうとしてしまいます。

● 子供のころに見た忘れられない犬の映画

 もちろんこうした見方をするようになったのは犬のトレーニングを仕事にするようになってからです。それまでの学生時代に見たものはただ脚本を通して擬人化もしくはヒーロー化した犬を見て単純に感動していました。小学生時代に見た犬が登場する映画の中で最初に感動した画があります。アメリカ映画の「ベンジー」という映画です。
 1960年代の映画であったと記憶しています。映画「ベンジー」のストーリーはいたって単純なもので、ベンジーがヒーローとして子供たちと自身の彼女犬を助け出すという子供にはわかりやすいものでした。ベンジーの主役だった俳優犬(フィルムドッグ)は、カリフォルニアのアニマルシェルター(保護施設)で子犬のころに保護された犬で、ヒギンスと名づけられていました。
 考えるとすでにこの時代にはアメリカでは保護施設が犬で満杯になり、保護施設から請出して再び家族として迎える保護犬というものが存在していたことになります。曖昧な記憶ですがベンジーを演じたヒギンスが捨て犬だったのにスクリーンのヒーローとして活躍したことは、映画の宣伝に多いに使われていました。当時小学生の自分にとっても、とても衝撃的なことでした。そのヒギンスですがテリア種のミックス犬でそれまでにヒーローとして知られていたシェパードなどの立派な犬とは容貌が明らかに違うことも新しい価値観として注目されたのかもしれません。

 犬のトレーニングの仕事をするようになってからは一度だけベンジーの映画を見ました。レンタルビデオショップにあったのかと思います。ドッグトレーニングとして見ると、その行動の正確さは本当に見事でどうやって教えたのかといつも不思議でした。それは、犬の芸当に関心があるからではありません。家庭犬にお互いの楽しみを越した芸が必要だも思ってはいません。ただ、このヒギンスとトレーナーはどんな関係だったのだろうかという関心が高まってしまったのです。


● ベンジーのトレーナーとの出会い

 そのベンジーの映画でフィルムドッグトレーナーのひとりとして参加したドッグトレーナーと福岡で会う機会があったのです。経過としてはこうでした。グッドボーイハートの博多駅南校があったころに、博多でフィルムドッグのセミナーを開催したいので場所を貸していただけないかという相談を受けました。生徒さんたちも楽しめるような内容であればという確認をして、セミナー会場として使っていただくことになりました。一般の方とグッドボーイハートの生徒さんも数名参加されていたと思います。そのセミナーのドッグトレーナーのうちの一人がベンジー(ヒギンス)のトレーニングを担当していたと紹介されたのです。ヒギンスはとても学習能力が高く積極的に取り組む特別な犬であったようです。とても楽しい時間だったと語られていました。
 フィルムドッグセミナーでは行動を起こしたら報酬を与える正の強化法が使われていました。ヒギンスも同じように報酬で行動を強化されていたのかどうかはわかりません。ただ、担当のトレーナーがその犬からたくさんのことを学んだといわれたのは印象的でした。
 会場を提供した者ということで個人的にそのトレーナーの方に紹介されました。紹介の際に知人が「オポという犬を飼っていらっしゃるんですよ。」と伝えてくださいました。「オポ?あのイルカのオポですね。」という返答をいただきました。それまでオポという名前を聞いて「イルカのオポ」と返されたことは一度もありませんでした。そのトレーナーさんがイルカのオポのことをご存知だったことを知り、それだけで本当にうれしくなりました。


● 犬と寄り添うことで出会った世界への共感

 そのベンジー担当のトレーナーさんがお昼休みにいくつかの民芸品を販売されていました。通訳の方によると先日結婚されたばかりだとのことで、その家族がこの民芸品を作っているということでした。写真を見せていただくとそのご家族は衣服を一部しかみにつけていないような部族の方だったのです。トレーナーの彼女は白い色のアメリカ人だったので少し驚きました。おみやげの民芸品の中から、いろんな動物の顔をしているお面というのを購入しました。お祭りのときに部族で使うらしく運気もあがるよといわれた物です。現在はグッドボーイハート七山校の玄関ホールに飾ってあります。

 個人的に深くお話しできなかったのは残念でしたが、犬に対する気持ちや姿勢、犬を通して学んだ時間、そんなことが新しい世界のパートナーとの出会いにつながったのではないかと思います。セミナーが終わって帰られる間際に「ヒーリング用のベッドが置いてあったけど、あれは何に使うのですか?」と尋ねられました。控え室に使っていただいた部屋に折りたたんだ人用のヒーリングに使うベッドを立てかけてあったのを見られたようです。「わたしが飼い主さんにヒーリングをさせていただくためのベッドです。」とお伝えしました。彼女は「本当にすばらしいこと。いつかいっしょにセミナーをしましょうね!」と言って立ち去られました。

 犬のトレーニングの仕事をしているのに、犬のヒーリングや人のヒーリングまでするようなったことで、人によってはわかりにくいと感じられることもあるとは思います。しかしこのとき、犬を通して学び同じ道を歩いている人がいるのだという心強さを得たのです。ありがたく不思議な出会いでしたが、ベンジーという犬が引き寄せてくれた貴重な出会いであったと感謝しています。
 

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犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「どうやって褒めたらいいのかわからないんです」という方は必読です

 昨日のブログ<犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「ごほうびがないとしないんです!」という方は必読です>に続いて、ごほうびトレーニングの大きな落とし穴についてお話します。
 今回はよくある質問「どうやってほめたらいいのかわからないんです」についてです。この疑問をいだいている飼い主さんは、おそらく犬のこと、そしてトレーニングの仕組みをかなり誤解していると考えられます。


●ごほうびトレーニングの報酬は何なのか?

 ごほうびトレーニング(陽性強化トレーニング)を取り入れている飼い主さんからの質問に「どうやって褒めたらいいのかわからないんです。」という質問があります。これはトレーニングの手順が曖昧になっているために起きる間違いです。

陽性強化法の方程式はこうです。↓

  犬にオスワリという → 犬が座る → 報酬を与える


この報酬の部分に「褒める」を置き換えるとこうなります。

  犬にオスワリという → 犬が座る → 報酬を与える=褒める

 どのように褒めたらいいのかわからないという飼い主さんは、報酬として褒めるという行動を使っています。ごほうびが「褒めること」なので、犬が褒められていることを喜んでいる場合でなければこの方程式は成り立ちません。

 これは正の強化(陽性強化)法を用いた行動修正や行動学習における報酬の原理です。つまり報酬=ごほうびとして使用するものは、動物に行動を起こさせることができる「適切なもの」であるという原理です。報酬が行動を起こさせる動機にならなければ学習は成立しません。
 さて、そこで質問ですが、報酬として飼い主が褒めるという行為を与えることは、報酬として適切なのでしょうか?褒める行為を報酬に使った結果、犬がオスワリといっても座らなくなったのであれば報酬としての効果はなく適切ではなかったということになります。


●なぜ飼い主は大げさに犬を褒めるのか?

 しかし、飼い主はこう考えるのです。自分の褒め方が足りないのだと、犬にわかるように褒めなければいけないと思ってしまうようです。飼い主は「褒めるというごほうび」をもらって喜んでいる犬の反応を得ようとして大げさな褒め方をします。大きな声で「おりこうさんね~~」とか「グーッド」といいながら犬の顔をくちゃくちゃになるまでなで回します。この飼い主の興奮に対して当然犬は興奮します。ハアハアいったり、とびついたり、走り回ったりすることもあるかもしれません。この犬の反応を見て飼い主は犬が喜んでいると思います。飼い主の「褒める」という報酬を喜んで受け取ってくれたのだと勘違いするわけです。

 しかし、そのうちにオスワリといっても犬は座らなくなります。むしろ、犬の方は座るともみくちゃに撫でらるという嫌なことをされるわけですから、警戒して座らなくなることもあります。撫でられたあとにブルブルと身震いをすることもあるでしょう。飼い主の興奮にストレスを感じ自分を落ち着かせるシグナルまで出しています。ところが飼い主は褒め方が足りないから犬が座らないのだと思って褒め方はもっと大げさになります。それでも結局のところ犬はオスワリをしなくなり、今度はオヤツを手にもってオスワリをさせるという形に変えます。報酬の種類を変えて対応をするわけです

 報酬を食べものに変えるとオスワリする確率は高まります。飼い主に褒められることよりも、オヤツの方が犬にとっては座る行動を起こす動機が高まるからです。ところが犬によってはオヤツを見せてもオスワリをしなくなります。この流れについては昨日ブログに書きましたので復習してください。
 

● 飼い主が犬を大げさに褒めるようになった理由は他にもある

 大げさに褒めるやり方が広まってしまったのは他にも理由があります。それは、本やネットの情報です。本やネットやテレビで紹介されるしつけ方について質問されることがあります。その多くはいい加減で曖昧なものばかりですが、その中には「犬が行動したら(オスワリしたら)大げさに褒めることが大切です」というものがあります。

 なぜこのような情報が広がってきたのかというと、トレーニングのある現場では大きな声で犬の胸を軽く叩きながら褒めるような仕草を交えて犬に声をかけているドッグトレーナーを見かけることがあるからではないでしょうか?この手法は正の強化ではなく、多くは負の強化のトレーニングのために使われています。

負の強化(陰性強化)法の学習過程は次のようになります。

  犬にオスワリという → 犬に嫌なことが起きる→ 犬が座る → 犬の嫌なことがなくなる

犬のトレーニング(訓練)に使用される、鉄製のチョークチェーンやハーフチェックという犬に一定の刺激を与える道具を使用してオスワリを教える場合にはこの負の強化法が使われています。

 犬にオスワリという → 犬の首がチェーンで一瞬締まる → 犬が座る →チェーンが緩む

この原理が負の強化トレーニングです。国内でも正の強化(陽性強化)トレーニングが普及する前は、この負の強化(陰性強化)トレーニングで犬の訓練やしつけが行われることも多くありました。現在でもこうしたやり方は学習の方法のひとつとして使用されています。

 このトレーニングは犬の性質やトレーニング道具(チョークチェーンやハーフチェックの首輪)の使う技術によって犬のダメージがかなり違ってきます。犬は首にショックを与えられるという嫌なことを体験します。犬によっては精神的なダメージを受けてしまい、オスワリどころか他の行動を起こさなくなるほどへこんでしまうことがあるからです。オスワリのあと全く動かなくなってしまう犬もいます。ところが、他の行動もこの方法で教えていくためには犬に何かの行動を起こしてもらう必要があります。そのため回復を図るために大げさに犬を褒めることで回復を図ろうとしてするようです。

 もちろん、大げさに褒める必要があるのは技術のないトレーナーです。チョークチェーンなどを使った負の強化法のトレーニングの技術が高ければ、どの道具が犬に与える影響も予測できるので選択を間違えることも少なく、またチェーンの締め方と緩め方も調整できるため犬のダメージも少ないのです。ということは大げさに褒める必要はないということです。一般の飼い主さんにはあまり向きません。自分の技術が上がるまでに犬に与えるダメージが大きすぎるからです。


● 褒める報酬がいらないなら犬はどうしてオスワリするの?

 犬を褒めてあげることは大切なことです。しかし、犬を大げさに褒めている必要はないのです。
報酬としての褒めることは必要ありません。かといってオヤツで釣ることを推奨もしません。では報酬は必要ないのかということですが、オペラント条件付けの正の強化(陽性強化)の枠を抜け出れば犬に報酬を与える必要はありません。ところが犬の側には報酬があります。それを動機付けといいます。

 犬にとって、いや人にとっても大切な報酬は内的な動機付けによって成り立っています。つまり、できるということ、やったということ、もっと深くいえば社会に所属しているということです。犬はとても感受性が高いため、飼い主の反応によって自分の行動が適切であり飼い主に認められたことを理解できます。もちろんここには関係性が影響します。お前なんかに認められたくないよという人の前では協力的な態度は示しません。それは社会的な行動として当たり前のことです。

 人間の中は誰にでも好かれたいしよく思われたいという気持ちもときどきはもしくはいつもあることを否定できません。しかし、そういう表向きの社交性は犬にはありません。そこがまた犬の魅力でもあり信頼できる動物でもある理由です。犬の場合は好かれたいという自分の評価を気にするような行動ではありません。社会的な関係を重要視できれば、犬は必要なときに自ら協力的な態度を示してくれるでしょう。飼い主が犬に甘える行動をとっているならこの関係はなかなか獲得できません。犬を甘やかしたいという気持ちは、犬に好かれたいという気持ちの裏返しであることもあります。犬はその社会性を通して感じたことを行動で表現してくれます。そして人に成長の機会を与えてくれます。そう思うととてもありがたい存在だと思います。

 犬を侮るなかれ。犬はシンプルでわかりやすく正直なだけなのです。


2017.3.19-3

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犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「ごほうびがないとしないんです!」という方は必読です

 トレーニングクラスのときによく聞かれる質問にはこんなものがあります。「ごほうびを見せないと犬がオスワリをしないんです…」

 ごほうびトレーニングの落とし穴にはまったようです。ごほうびトレーニングはきちんと理解して使わなければ、罰を使ったトレーニングと同じように危険性があります。今回はこのごほうびトレーニングついてお話しします。


●ごほうびトレーニングって何?

 10年以上前になりますがグッドボーイハートで満席御礼になったセミナーがあります。たしか「ごほうびトレーニングの落とし穴」という名前で開催しました。当時は犬にごほうびを与えるトレーニングが流行っていた時期だったので、当校でも報酬を用いたトレーニングを導入していました。しかしこのごほうびトレーニングは注意して使わないと、大変な落とし穴にはまってしまうという危険性についてお話したものです。

 好評だった理由の中には単純に「ごほうびトレーニングに違和感を覚える」というものもありました。確かにこのトレーニングは一部の方にとっては違和感のあるものなのです。その違和感を大切にして、なぜこんな風にざわざわした感じになるのだろうと思ったら、ぜひこの機会にごほうびトレーニングの真実について考える機会としてください。

 ごほうびトレーニングとは、犬に行動を起こさせるために「報酬」=「ごほうび」を用いるトレーニングです。行動学の分野での正式名称は「正の強化トレーニング」、心理学の分野では「陽性強化トレーニング」と名づけられています。この報酬を用いて行動をさせる学習の心理について分かりやすく説明したのはBFスキナーという行動学者でした。スキナーが流行った時代はまさに行動主義の全盛期です。もちろんこれらの学問は人に対して起きたものです。しかしどのような学問もその学問を定義づけるためには状態を再現させるためのくり返しのテストが必要です。このテストにはたくさんの動物も使われています。たとえば古典的条件付けの実験に犬が使われていたのはご存知の方も多いでしょう。そう、パブロフの犬のことです。

 スキナーの学問の中でこのごほうびトレーニングに当てはまるのが、オペラント条件付けという学習過程です。オペラント条件付けによる学習は、行動の後に「報酬」もしくは「罰」が出たりなくなったりする原理によって成り立ちます。学習の過程は以下の四つです。

1 正の強化
2 正の罰
3 負の強化
4 負の罰

このうちの、正の強化のことを陽性強化=ごほうびトレーニングといわれています。
陽性強化トレーニングでは、犬が行動を起こすと報酬が出ます。こんな方程式になります。

  犬にオスワリという → 犬が座る → ごほうびを与える

上記のオペラント条件付けの陽性強化法を実践の行動トレーニングで使うためには、いくつかのポイントをくわえる必要があります。たとえば、ごほうびは時々与えるにすることとか、行動を起こした後にごほうびの出る合図(特定の音)をくわえておくことなどです。ここではごほうびトレーニングを実践していただく説明ではないので、これらは割愛させていただきます。


●ごほうびトレーニングの落とし穴のひとつ「オヤツがないとしないんです。」

 このごほうびトレーニングの落とし穴のひとつめは、犬がオヤツを見せないと行動を起こさなくなるというものです。自己流で始めた方の多くがこの落とし穴にはまっています。たとえば、オスワリといっても座らないがオヤツを手に持つと座るとか、オスワリといっても座らないがオヤツをポケットにいれる様子を知ると座る、オスワリといっても座らないがオヤツの臭いを感知すると座るなどもこの例です。

 これらはごほうびトレーニングの鉄則である、ごほうびを時々にするという約束と、ごほうびを見せずにするという約束、ごほうびを直接与える前にほうびの出る合図を与えておくというポイント制にしなかったことが失敗の理由です。ごほうびを見せてもしなくなるパターンには、報酬のランクを吊り上げていくような状態になっていることもあります。最初はドッグフードでしたがそのうちしなくなる、次はジャーキーを見せるとするがそのうちにしなくなる、次はチーズを見せるとするがそのうちにそれも効果がなくなるというものです。

●なぜ、ごほうびがあるのに行動をしなくなるのか?

 こういう落とし穴にはまってしまう明らかな理由は、もうすでにごほうびは報酬ではなくなくなっているという事実です。この段階になるとすでにこれは報酬ではなく賄賂です。事前に千円札を見せられてそこに座ったら千円を上げるよといわれたら最初は誰もが椅子に座るかもしれません。そのうち千円では座らなくなり、一万円札を提示されると座るようになります。しかしそのうち一万円札も価値がなくなってしまうことがあるのです。自分の身に置き換えて考えるとわかりやすいのです。

 中には、一万円ももらえるならなんどでも椅子に座るよという方もいるでしょう。ですが、これを関係性と捉えたらどうでしょうか。あなたに一万円を見せてなんども椅子に座るように申し出る人に対して信頼関係を結ぶ自信がありますか?むしろ、一銭もお金を持っていないのだけどどうしても今必要なことなのでこの椅子に座ってほしいと頼まれ、椅子に座るとありがとうといわれるほうが物事を頼んだ人との関係性を重要視したことになります。

 それは人間のはなし、犬はいくらでもごほうびをもらいたがると思うかもしれません。確かに犬の中には大変拘束されている状態が強く、人との関係性についての関心を失っている犬もいます。完全管理の状態が犬にとっては人の奴隷のような状態になるため、非常に不安定でただ欲求が食に偏ってしまうからです。しかし、犬の中には人との社会的な関係に関心を失っていない犬もいます。これらの社会的欲求をある程度備える犬達は、報酬を提示されて行動を起こすことや、報酬の予想させて行動を起こさせるどのようなごほうびトレーニングにも異質な行動をとるようになります。わかりやすいケースでは行動をしないというもの、微妙な反応ではそのごほうびトレーニングのあとにストレス行動を行うという場合もあります。若干の拒否反応や人への関心を失い始めるのもその傾向を示しています。

●大切にしたいのは何か

 さて、そこでもう一度考える必要があります。犬にオスワリやマテを教えて行動を起こさせたいのはなぜでしょうか?犬におりこうさんになってもらいたいから、人におりこうさんな犬だと自慢したいからでしょうか。逆に、犬と良い関係を築いていきたいからでしょうか。もし、あなたが犬に何かを教える理由が、犬とより良い関係を築いていきたい、自分の犬にとっての最大の理解者でありたいと思うのならお伝えしたいことがあります。

 ごほうびトレーニングの落とし穴にはまってしまい、ごほうびを見せないとしない、ごほうびの合図がないとしない、ごほうびで行動をさせたあとに違和感が残るのなら、それは犬の方もあなたとより良い社会的な関係を築いていきたいという高い欲求を残しているシグナルです。あなたの犬はまだ報酬の奴隷には成り下がっていません。だからぜひそのことを喜んで新しい関係を築くチャンスを掴んでください。

 ごほうびトレーニングは犬の学習過程の中でいつの間にか導入されています。人もいつのまにかごほうびで強化されていることがあります。ポイントカードなどはごほうびトレーニングの良い例です。しかしそれが関係性に影響を与えるとなると抵抗を示すのも社会性の高い動物である人としてはナチュラルな反応なのです。ごほうびトレーニングで社会的関係は築けません。会社で一定の給与をもらっていても、その仕事に没頭してがんばれるのは、仕事を通して何かを身につけたり人との関わりを通して自分の中に得られる内的動機付けがあるからです。そうでない場合は仕事はただお金を得るだけのつまらない時間になってしまいます。

 ごほうびトレーニングの落とし穴、まだまだありますので少しずつ紹介していきます。


カレン0612

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犬の感情と精神の世界:犬の喜びや楽しみを考える

 犬とともに暮らしていると、犬が喜んでいるのかなとか、楽しんでいるかなといった犬の気持ちを知りたいというのは自然に起きる気持ちです。それだけ、犬と一緒に楽しく生活したいという飼い主の思いが強いということでしょう。室内で暮らしている犬でも庭で暮らす犬であっても、犬と暮らしている人の気持ちを動かす強い力を持っています。その犬に対してわたしたち人も、もっと近づきたいという思いを強くし、あなたの気持ちが知りたいのだと犬の気持ちに関心が高まります。
 ところが、この犬の気持ちへの干渉は時に擬人化という誤解と妄想の闇を生むこともあります。犬を擬人化してとらえたり、妄想の眼で見るようになってしまうと、犬のことを知りたいという純粋な気持ちが間違った方向へ向かってしまいます。人は犬を理解したつもり、でも犬は人から理解されずに毎日を過ごすというお互いに望まない結果を生むことにもなります。それだけに、犬の感情の世界へ近づくときは慎重にしたいものです。今日は、犬という動物の持つ感情の世界にわたしたち人間がどのくらい入り込むことができるのかを考えてみました。


●犬の感情の世界は人とは違う

 先日のブログ「犬語セミナーで学ぶ『犬の気持ち』:犬はただうれしく楽しく喜ぶ動物なのか?」でもご紹介したように、クラスやセミナーなどの機会を通して犬の行動について行動学的な見方を説明すると、飼い主さんの中には犬の状態が自分が今まで思っていたものと違うということに驚かれることがあります。

 たとえば、人にとびついてくる犬を見て、犬が喜んでいる、この犬は人(わたし)のことが好きだと感じるかもしれません。しかし犬の行動学として受け取れば、犬は単にとびつきという行動で興奮を表現しているということになります。しかし、興奮するというのは人にとっては喜びの表現のひとつでもあります。
 スポーツ観戦をして大声を上げて手をたたいている人は行動学的には興奮していますが、その人に感情について尋ねれば「うれしいから」とその状態を説明してくれるでしょう。こうした人の行動と比べたとき、とびついて興奮する犬の行動を喜んでいると受け取ってしまうのかもしれません。しかし、これは犬を擬似化した受け取り方です。激しく興奮している状態が喜びだというのは、動物の種や、同じ種でも文化によって異なります。犬にとっての喜びとは何だろうという深い疑問を切り離して犬の行動を見る必要があります。

 犬が興奮行動を激しく表現しているということは犬のストレスレベルが上がっているという犬のメッセージでもあります。犬同志の反応を見ると犬の状態はもっとよくわかります。興奮してとびついた犬がとびつかれた犬に無視されたり吠えられたりして遠ざけられたり押さえつけられたりするのを見たことがあるでしょうか。これらのとびつきに対応した犬の行動は通常の犬の反応なのです。過剰に興奮する行動を犬は受け入れ難いものなのです。

 よく聞かれる話ですが、ある犬が別の犬に前両脚を上げてとびついていったところ、相手の犬がガウガウと声を出して威嚇行動をします。これに対してとびついた犬の飼い主が「うちの犬は遊ぼうといっているだけなのにどうして攻撃するの?」と怒りをあわらにします。威嚇した犬の飼い主の方も「いきなりとびついてくるのに対してうちの犬が怒るのは当たり前のことだ」と反論して飼い主同士の喧嘩に発展してしまいます。とびつかれても反応をしない犬は、相手の犬を無視をしているだけかもしれません。もしくはお互いに犬の年齢が数ヶ月と未熟な年齢で、暴力的なコミュニケーションには暴力的なコミュニケーションを返すというやり取りをしているということもあります。

 そう説明しても、やはり犬がとびついているのをどうしても喜んでいるのだと見てしまうかもしれません。興奮しているとびつき行動を犬が喜んでいるのだと人が受け取ることを一方的に間違っているとはいえません。しかし正しいともいえないのです。どんな感情や情動も高まり過ぎるのは動物にとって不利益をもたらします。そのため犬という動物の機能として、高まりすぎる状態をお互いに抑制すべき機能を持っているのです。それが社会的コミュニケーションを身につけた発達した犬の「とびつき行動」に対する適切な反応です。

 また、動物の持つ感情の世界というのは種によって異なります。犬と人はお互いに種の異なる動物で、それぞれに違った習性を持ちます。たとえば、犬と人では排泄をどこでるすのかという行動の違いがあり、その目的もちがいます。犬と人が共感しやすいのは、習性は違うが欲求が似通っているためです。しかし、欲求と感情も量り方が違う世界のものです。

 そうであっても感情の世界については十分にお互いを尊重し、すぐに理解しようと思ったり踏み込みすぎないようにすることです。あなたがテレビを見て笑ったり泣いたりすることに犬が干渉しないように、犬の感情の世界についても人はゆっくりと近づいて欲しいのです。


●共感しやすい犬の感情の世界

 わかりやすい犬の状態というのもあります。たとえば、犬が不安を抱えているのは行動でも表現されやすく表情でも見て取れ易いものです。不安なときに震えたり硬直したりする体のシステムは人と同じものです。わたしたちには共通したシステムもあるのです。

 また、犬が不安を抱えていることに影響されて人も同じように不安を抱えてしまうこともあります。飼い主が不安を抱えることでさらに犬の不安は増すわけですから、犬の不安行動が強まる理由が結局のところ人(飼い主)にもあるという落とし穴が存在することも事実です。とにかく、人は不安を受け取りやすく自分も同じような不安を抱きやすいという傾向があるようです。

 不安というとネガティブな感情となりますが、その裏には喜びがあります。つまり、犬は不安がなくなると安心を得るという喜びを得られます。犬が不安が解消すると同時に安心を獲得するということです。
 
 犬がひとりで留守番をしていて飼い主が帰宅してきたときに、玄関に走ってくる犬の表情に緩み(リラックス)があれば、少し不安だったけど飼い主が帰ってきて安心を取り戻したという喜びを得たときなのです。

 ところが飼い主が帰宅すると犬が走ってきて飼い主に飛びついたあとに部屋を走り回るという行動をしたときは、犬の興奮のレベルがとても高いと判断します。この犬は留守番中の不安がかなり高まっていたことを推測できます。飼い主が帰宅して安心を獲得できるような状態ではなくなっていたのです。

 ストレスは一旦上昇しすぎるとなかなか低いレベルには落ちてくれません。不安も高すぎると安心を獲得するのではなく興奮になってしまうのです。こうした行動は犬の留守中の環境を整えていくことで帰宅時の犬の行動に変化を引き出すことができます。

● 喜びや楽しみとは何だろう

 あなたにとって喜びとか楽しみとはなんでしょうか。人の場合は同じ種でありながら価値観や文化の違いの幅があるため、喜びと楽しみにも個性が反映されてしまうことでしょう。ある人にとっては、おいしいものを食べること、ある人にとっては家族と過ごす時間、ある人にとっては帰宅して映画を見ること、ある人にとってはスポーツ観戦で興奮することかもしれません。平たく見ればそのどれもが社会生活が安定していて安心して平穏な毎日が過ごせている状態の現れとしての喜びの表現ではないでしょうか。

 犬はどうでしょう。いつもリードで拘束されたり、家の中からひとりで外に出ることもできません。そして、人という種の異なる動物に育てられることで一時的に社会生活を奪われた状態でもあるのです。人の方は家族同然として迎えた犬であっても、犬の立場からみれば理解できない動物が理解できない接し方やコミュニケーションをもって近づいてくることに最初は興奮してしまいます。人と同じ状態であると見てしまうのは犬に対してあまりにフェアでないと感じます。

 こんな犬たちの世界の中に、安心を安全、そして犬という動物としての健康な欲求の表現、社会性の発達と社会生活が得られれば、犬は喜びや楽しみを得てそれを静かに安らぐ表情と行動で表現してくれるかもしれません。
 動物の本質的な欲求を人が準備することは簡単なことではありません。犬は家族同然に迎えて生活をすることを希望する飼い主にとっても、ある面で犬は飼育される動物であるという事実を認めておくことも大切なことです。そう考えると人が一方的に犬に与えている立場ではなく、犬に不便を強いる立場であるという謙虚さをもって犬の喜びと楽しみのために惜しみなく努力もできると思うからです。犬の本当の喜びと楽しみの世界に触れたと感じるまでに必要なたくさんの時間とたくさんの学びの過程は犬と暮らす者、犬を愛する者の喜びのひとつです。



ごろ寝オポ

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老犬に安らかな毎日を提供するために:老犬のお世話とケアのための訪問クラス

 老犬と暮らす飼い主さんのご自宅に、老犬のお世話やケアについてご相談を受けてアドバイスをする、老犬のお世話とケアのためのクラスのために家庭訪問に出かけました。


●老犬のお世話は何才位からどのように始まるのか
 
 老犬といっても年齢を特定できるものではありません。犬のサイズによっても個体差がありますが、一般的には7歳くらいからが老化が始まるころ、10歳になると若い老犬という時代、13歳になると老犬の中期、15歳になると十分に老犬の後半期に入るころにあたります。

 どんな動物も年とともに老化が進みます。犬も同じように老化によって体の働き方が今までと違ってきたり、長く使いすぎた内臓や体の一部に負担がかかって養生が必要になってきます。そのため、今まではできていたことができなくなってしまったり、生活の環境やスタイルを見直す必要性がでてきたり、人の手を必要とするいわゆる介護というお手伝いが始まることがあります。

 自分の犬がお世話をする必要がある状態になるのか、いつになったらそれが始まるのかは犬によって違います。飼い主側は不安を抱えやすいものですが、まずは何か変化が見られたら早期に対応の準備を始めるか、対応について相談できるような場所や人を確保しておきましょう。

 老犬の中には初老の時期にあまり手を必要とせずに寝ている間に旅立っていく犬もいます。介護のお世話をしようと準備を始めたときに別れを迎えることもありますが、旅立ちは犬の決めた特別のことなので尊重するとともに、犬の変化に慌てるよりは、備えあれば憂いなしの心構えで取り組まれると気持ちが安定して人の方も落ち着きを得られます。


● 老犬のお世話とケアの仕方を学ぶためのクラスとは

 老犬の介護についてサポートさせていただくためのクラスには3つのクラスを準備しています。犬への手当てヒーリング=ドッグヒーリングの訪問クラス、飼い主さんがご不在や忙しい時間にお世話をする訪問介護クラス、そしてお世話の方法やケアについての質問を受けたり、生活スタイルの提案や飼い主さんができることを提案する訪問カウンセリングクラスです。今回は訪問カウンセリングクラスで定期的に訪問指導をさせていただくためにご家庭訪問をしました。

 老犬のお世話についてのご相談クラスの目的は、犬が状態に応じてできるだけ安らかに毎日を過ごしていけるように環境を整えることです。グッドボーイハートのクラスをご利用した経験のある方であればもうお分かりのとおり、犬のトレーニングのためのクラスの内容も同じことを目指しています。老犬期に入った犬にとっての必要性についてお伝えし、環境を整備するためにできることを飼い主さんと一緒に考えながら提案していきます。

 老犬のお世話については飼い主さんの生活スタイルによってできることと、できないことにかなり違いがあります。ですが、犬が一番近くにいて欲しいのは最後まで飼い主です。飼い主が年老いた犬のそばでオロオロとして不安でいる姿を感じることで犬も落ち着きをなくしてしまいます。飼い主が哀しみを抱えていると犬はそのことも受け取ってしまいます。誰でもが死という旅立ちのときを迎えるように、犬もその日をいつか迎えます。老犬のお世話はその旅立ちの日に向かっていく日々でもあるので、飼い主の気持ちが落ち着かなくなることは当然のことです。残された大切な時間を悔いのないように、お世話を通して会話していただくために、この訪問クラスでできることを提案させていただきます。

 何をやっていいのかわからないとつい言葉がけやさすったり撫でたりする時間が長くなってしまいます。「痛いの?」「どうしたの?」「どうしてほしいの?」「何をしてほしいの?」こういうことを声で話しかけすぎたり落ち着かせようとして慌ててさすったりしすぎることで犬を疲れさせてしまうこともあります。こんな会話が言葉なしにできるようになるのがドッグヒーリングです。


 ドッグヒーラーがヒーリングする訪問ドッグヒーリングクラスとは別に、ご自宅でも飼い主が自分で犬に対してヒーリングができるようになるための訪問クラスを近くに開講いたします。たくさんの方に犬に触れるコミュニケーションとつながりの時間を体感していただきたいと思います。ご案内をご希望の方はお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。



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犬語セミナーで学ぶ『犬の気持ち』:犬はただうれしく楽しく喜ぶ動物なのか?

 週末にグッドボーイハート福岡で犬語セミナーを開催しました。定員6名くらいのセミナーに対して今回はいっぱいのご参加をいただき、いつもより賑やかなセミナーになりました。


●犬を観察することは案外大変なこと

 犬語セミナーは犬の動画を見ながら犬のコミュニケーションを読み解いていくセミナーです。犬の行動にはうそがないのできちんと読み解く力がつけば、誰でも犬の気持ちを理解することができます。作業はいつも観察することからはじめ、次に観察した行動について分析をしていきます。たとえば、逆毛を立てているという行動を観察したら、その行動がどのような犬の状態を表現しているのかを分析していくのです。

 ところが、この犬語の見方ですが最初は混乱します。まず見ることがこんなに難しいことなのかと思うのです。ビデオを参加者に見せたあとに見たことについて質問していきます。ある人が「犬の逆毛が立っていました」と発言しても、別の人は「全く見えなかった」といわれることがあります。なぜ、こんなことが起きるのかというと、見ているところが違うからです。人はみな関心のあるところを見ているのです。犬の見方を見るとその人が犬のどこに関心があるのかがわかります。

 犬語セミナーは犬の行動を読み解く勉強会なので、まずは自分の見たいところではなく、犬語としてみてほしい行動に注目していくように練習していきます。た、回数を重ねるだけで犬の行動をかなり見ることができるようになります。専門家でなくてもできるところが楽しいところです。特に、この作業が得意なのは、観察力がある人、そして犬への思い込みを断ち切れる人です。犬を見て「かわいい!」と思ったり寄っていって触りたいという傾向のある人は少し時間がかかるかもしれませんが、犬のことを本当に知りたいという気持ちがあれば、この壁を越えるのは簡単です。


●犬はいつも楽しいだけの動物なのか?

 まず、きちんと犬の行動を観察して記録できるようになったら、次にこの行動を分析していきます。分析には犬の行動学についての知識と経験が必要な上に、この分野はいまだ不安定で疑問を感じるような情報も多いため、信頼できる情報を得ながら分析の作業を進めていきます。

 例えば、犬が逆毛を立てているという行動に対して出てきた意見にはこんなものがありました。犬が緊張しているとか、興奮しているのではないか、不安な状態なのではないかというものもありました。いずれの行動も、犬の「逆毛を立てる」状態に該当する可能性が十分にあります。緊張と興奮が入り混じった状態といえることもできるのです。
 次に、そのとき同時に表現された他の行動を組合せをしていきます。同時に、その状態のレベルについても考えていきます。どの程度の時間その行動が続いたのか、その行動の後に見られた行動とはいうふうに問い続けていくことで状態のレベルが上昇するのか降下していくのかも把握することができます。

 こうした行動を観察して分析する犬語セミナーにはじめて参加する方の中には、どの映像をみても「かわいいという風にしか見えない」「喜んでいるように見える」「楽しそう」だという意見に偏りがちです。ディスカッションを重ねていくうちに、普段の犬の様子を見ていても、犬はいつも楽しそうに喜んでいるように感じてしまい、犬が不安だとか緊張しているとか、ストレスを感じているようには見えないという感想も出てきます。
 実は一部の人にとっては、これはとても正直な感想なのです。犬が好きな人は、犬はいつも楽しんでいる、犬はいつも飼い主さんが好きという見方が先行してしまう傾向が高いと感じます。なぜなら、犬がいつも楽しそうで、うれしそうにしていると見えるから自分も楽しく幸せになるからです。逆に犬が走り回っているのをストレス行動だと見るようになると、犬を見ることは辛くなります。特に飼い主は、犬の行動に最大に影響を与える存在なので、犬にストレスを与えているのが自分だと気づいてしまうと、犬を見るだけで癒されるという単純な世界は持てなくなるでしょう。


●犬の気持ちを読み解くための道具としての犬の行動学

 単純に犬のことがかわいいと思っているだけだったのに、実は犬がいろんな状態を表現していることを知ると最初は少しガッカリしてしまう飼い主さんもいます。犬を見るだけで癒される時代は終わりますが、その代わりに犬が行動を通して表現する真実を知り、その真のメッセージに対して飼い主としてできることをする、つまり、応答するというコミュニケーションを返すことができるようになります。

 これはひとつの犬との関係性の変化のときです。犬の行動学はこうして犬の気持ちを読み解く道具として利用する科学的学問であるし、学べば学ぶほど奥の深い犬という動物の深さに触れる機会にもなります。少し難解な勉強はひとりで取り組むことは大変ですが、トレーニングクラスやセミナーを通して勉強を進めると、犬を見る世界が少しずつ変わっていきます。犬を愛することは犬を理解すること、そして犬を理解する力を人は持っているということが、グッドボーイハートの希望です。


 次回の犬語セミナーは6月25日日曜日12時~14時に七山校で開催します。



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<犬のしつけ方・動画>犬にリードをつける時のしつけ:オスワリかマテで落ち着かせることの大切さ

 飼い主が犬にリードをつけるときに犬の行動もつける側の飼い主の行動も百人百様のようです。
実はこうした作業にも、犬と人の関係を見ることができます。そして、そのひとつひとつの行動を見直すことは、「犬のしつけ」もしくは「犬のトレーニング」のひとつです。


●犬にリードをつけるときの行動を観察するとわかること

 まず犬にリードをつけるときの行動をよく観察してみます。自分の犬はどんな状態でいるでしょうか。

 じっと立っている(呼吸もゆっくり)、呼ぶとゆっくり飼い主に近づきオスワリする、呼ぶとゆっくりと飼い主に近づき立ったままリードをつけることができる。このような状態であれば、犬は飼い主がリードをつけるという行動に対して落ち着いているといえます。

 逆に、興奮して落ち着かない行動をする犬もいます。興奮してジャンプをくり返す、左右にも飛ぶ、飼い主にとびつく、飼い主に前脚をかける、飼い主が首輪をつかむと(リードをつけるため)甘咬みする、飼い主が首輪をつかむと前脚をかけてくる、うろうろしておちつかない、飼い主の膝にジャンプしてくる、飼い主に抱っこされるなどが落ち着かない行動の例です。


●リードをつけるときに興奮するのがなぜいけないのか

 まずどのような状況であれ犬の興奮行動については慎重に扱ってほしいことです。犬が飛んだり跳ねたり走り回ったりする興奮行動は、見ている人によっては楽しいと感じられることがあります。人よりも動きが早く躍動力も動物的であることが人を楽しませる理由にもなっているからです。反面、過度な興奮は犬のストレス値が上昇しているというシグナル(コミュニケーション)でもあるので、それを受け取って犬が落ち着くように環境を整える必要があります。そしてその落ち着かせのための環境整備は飼い主の責任です。

 犬がリードをつけるときに興奮したり多動になる理由はいくつかあります。ひとつは犬が「リード→散歩」という連想学習をすることです。つまり、犬はリードを見せると散歩に行くことを知り興奮するということです。この犬の興奮を「うちの犬は散歩が好き」と思っている人もいます。本当にそうでしょうか。
 事実については犬の散歩行動を細かく分析すればわかります。リードを見せると興奮する犬は、社会的に緊張状態にあり散歩を連想して興奮しているか、日常的な拘束時間が長すぎるため外に出る社会的行動に興奮しているなど他にもいろいろと興奮行動の理由を考えることができます。


●リードをつけるときに犬が甘咬みしたり腹部を見せるのも問題なのか

 リードをつけるときには首輪に一定時間手を触れる必要があります。首輪に手を触れていることで短い時間であれ犬は動きがとれなくなります。犬が首輪をつけることに対して協力的であれば、犬の方が少しの時間じっとしてくれています。ところが、飼い主がリードをつけるという行為に対する抵抗や、一定時間飼い主が自分の首輪をもって動きを止めることにストレスを感じる犬は、その手を払いのけようとして甘咬みします。甘咬みといっても軽くくわえたり、咬むまねのようなものから、結構強く歯をあててくる犬もいます。こうした犬の甘咬み行動を飼い主は「遊ぼうとしている」といって放置してしまいますが、これはとても危険なことです。こうした行動のひとつひとつが飼い主と犬の関係性をあらわしているからです。飼い主に甘咬みをする犬は、それが抵抗であれ甘えであれ、いつかは衝動的に牙を当てる可能性が十分にあるからです。

 リードをつけるときに犬が腹部を見せたりひっくりかえったりしてジタンダを踏む行動もひとつの興奮行動です。こうした犬のほとんどは、甘咬みをする犬達と同じように飼い主が犬の首輪を少しの時間持ち犬が静止をしているということができません。また、飼い主の膝にのってきたり、飼い主の股下に入り込んだり、体を摺り寄せたりする犬達は、飼い主に依存的な関係を要求しています。こうした関係性は動物にとってストレス値を上げる結果となるため、数年という長い時間を経て自分を攻撃するもしくは他者を攻撃するという攻撃行動や強いおびえ行動につながる可能性も十分にあります。


●落ち着かない行動を叱っても効果はない
※動画で確認する「リードをつけるときは犬も人も落ち着くということ」

 犬が落ち着きをなくして興奮していたり、依存的な行動をしているときに叱っても効果はありません。犬にリードをつけるという行為が必要なら、それについて犬が落ち着きを取り戻せるように練習していきます。そのステップには個体差があり、飼い主さんのできるところからというになりますが、食べ物があったらオスワリするという賄賂的なフードの利用はしないでください。日常生活が問題なく送れている犬ならどの犬も食べ物をちらつかせなくても座ることはできます。
 
 以下の動画は七山校に来ていた柴犬くんに協力してもらって撮影しました。
マテの合図をしなくても動かないのですが、わかりやすいようにあえて「オスワリ」と「マテ」の号令をつけています。
舌なめずりをしていますので落ち着かせ行動が働いています。飼い主さんが近くでビデオを構えていて何かいつもと違う感じは受け取っていたようです。

犬にリードをつけるという平凡なことですが、ご自分の日常と違いがあるのか以下の動画で確認してください。

動画「リードをつけるとき」


 犬のしつけは犬と人の関係性の構築が基本です。それにはごほうびと罰が自然と伴うこともありますが、フードを使ったごほうびトレーニングには落とし穴があります。食べ物は動物にとって強い強化の道具(行動を学習させやすい道具)です。使い方を間違えると、犬のおびえや攻撃性を高める事もありますのでぜひ注意してください。


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犬のためのカラス対策:カラスに向けた「カラス進入禁止」の紙は本当に効果があるのか?

都市圏ではカラスの数がずい分増えていますね。カアカアとなく声と大きく黒い体を福岡市内でもよくみかけます。
カラスは雑食性で小動物も捕食してしまうことがあります。小型犬に限らず犬にとっては怖いとか不快な存在になることがあります。

●犬のためのカラス対策を考える必要

犬のためのカラス対策とは、犬の過ごす庭やベランダにカラスが近づいてこないようにする対策を考え処置をするということです。冒頭に書いたとおり、カラスは犬を捕食してしまう可能性が十分あります。ネズミやヘビを持ったまま飛んでいるカラスの姿はなんども見かけました。子猫などが持ち去られているのをみたことがある人もいるかもしれません。最近では極小サイズといわれる3キロ未満の犬が増えています。こうした犬は簡単にカラスに持っていかれてしまいます。

カラスであれトンビであれ、大きな鳥が獲物をとるシーンを見たことがある人ならその速さにビックリすることでしょう。鳥の移動する速度は犬の歩く速度ですらミミズのようにしか感じられないほどの違いがあるのです。山歩き中に何かと間違えたのかトンビかタカのようなものが足元に突撃してきたことがありました。白い帽子をかぶっていたことで勘違いさせたようですが、その速さとV字で上がっていく素早さにビックリしてしばらく動くことができなかったくらいです。カラスが来るのことを事前に把握することはできません。ならばカラスが近づいて来ないように、環境を整えておくことが最善にできることです。

●カラス対策に効果があるものとは

庭やベランダを犬にとって安心できる場所とするために、カラスを近づけさせないようにする方法を考えてみます。カラス対策については多くの方が悩みを抱えているようです。ネットでもたくさんの情報提供があると同時に、あまり効果がなかったという感想もたくさんありました。畑ではよくカラスの人形を逆さにつるしてあるものを見かけます。最初は本物だと思ってビックリしたのですが、本当によくできた偽者のカラスが農業用に販売されているようです。ホームセンターでも販売していることがあります。逆さにつるすというところがポイントのようですが、確かに視力に頼る哺乳類であるカラスも警戒して近づけなくなるという一定の効果があるのでしょう。

ところがやっかいなことにカラスには学習能力があります。次第にその吊り下げられたカラスは偽者であることを学習してしまいます。一旦学習すると他のカラスも学習したカラスの行動に影響を受け、その後は効果がなくなってしまいます。他にもCDなどをつるすという対策もあります。キラキラと反射する光がカラスを警戒させるという仕組みです。しかしこれも同じようにいつかカラスが学習してしまい、防衛効果の期間切れが来てしまいます。

●以外だけど納得するカラス対策の方法

 先日、カラス対策に悩んでいるときにある生徒さんから面白い話を聞きました。その方は海洋学者の佐藤克文先生の文献を読む機会がありそこからカラス対策に佐藤先生が関わったというお話しを見つけられたそうです。佐藤克文先生はテレビなどにも出演する著名な学者なのでご存知の方も多いかもしれません。

 その佐藤先生が他の環境医学の専門からアドバイスを受けて実施したカラス対策というのは「カラス侵入禁止」という紙を貼り付けてみるということでした。本当に?と思えるこの方法ですが、実は動物の習性を見事に理解した方法で愉快なのでこちらに紹介させていただきます。

 佐藤先生がカラス対策の被害の相談を受けたのは岩手県大槌町にある東京大学の研究施設でした。東日本震災によって3階建ての建物の最上階まで侵食してしまい、窓や扉もなくなった建物をカラスが巣作りに利用しはじめたということです。津波によって周囲の住宅も全滅してしまい、巣作り場所として集中したのかもしれません。巣作りのために建物の部材をはがすなどの被害も出てきてしまったということで佐藤先生に相談があったとのことです。

 佐藤先生はカラスの専門家である宇都宮大学の「雑草と里山の化学教育センター」の竹田研究員(環境医学)に相談をもちかけたところ、「警告文を出してみてはどうか」というアドバイスをもらったということです。佐藤先生も最初は冗談だろうと思ったが試しに警告文をつるしてみたそうです。警告文のつるし紙には「カラス侵入禁止」と書いてあります。するとすぐにカラスは来なくなり、一時的かと思ったが効果が長続きしたとのすごい話でした。

 「カラス侵入禁止」の紙にカラスが応じたのはなぜでしょうか。実はこの用紙をとおりかかる施設職員や学生が不思議におもってみあげることで人が空を見る回数が増え、それに対してカラスが警戒して近づいて来なくなったというのです。


●野生動物とのせめぎあいと人の役割

 この用紙を見上げる人たちも最初は見上げるがそのうち見上げなくなってしまうはずです。カラスの被害の多い春時期に限定して張り紙をつるすことで「空を見上げる人たち」という本当にカラスを防御する刺激を作り出すことに効果をあげています。カラスの作り物もCDの反射の光も、カラスという動物の習性を考えた行動ではありますが、やはり最も効果があるのは、人が管理しているという姿だということにとても感銘を受けました。

 一般のご自宅でもこの張り紙は一定の効果を表すでしょうが、たくさんの人に見てもらう必要があるので住宅地では抵抗があるかもしれません。自宅の方向に顔を向けてほしくないという気持ちもあるし、犬への刺激にならないかという不安もありますね。とりあえずこの空を見る人を増やすという戦略で何か他のことを考えてもいいのかもしれません。

 全く別のことでしたがカラスの対策になったというひとつの例もこの人の効果ではないかと思えるものがありました。それはテラノザウルスの人形を庭に置くというものです。実物大なので8メートルくらいあります。パチンコ店の入り口などに置いてあるもので本当に人目を引きますね。庭においてあるとテラノザウルスの上部分が見えています。カラスはそのうちになれるでしょうが、通りすぎる人はテラノザウルスを見ることでしょう。近隣の騒ぎになるかもしれない危険性を覗けばこれはこれで効果があるやり方です。

 ところが人通りのない里山では通り過ぎる人もないため掲示物は効果がありません。人がウロウロとして空を見上げる機会を自分で作っていくしかありません。カラス対策に時間のかかる人も、ベランダや庭ではしょっちゅう空をみあげて警戒信号をおくって下さい。小さな犬の場合には特に大事に至るまえによろしくお願いします。


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犬語セミナーで学ぶ犬の世界:保護犬たちの抱える問題と社会背景

週末に七山校で犬語セミナーを開催しました。
今回は保護犬の成長過程のビデオを見ました。
毎回学びの多い時間ですが、保護施設からの譲渡犬については社会的な問題でもあり、一般飼い主さんにもこの問題をいっしょに考えていただく機会として貴重なセミナーになりました。

●犬語セミナーで学べること
 犬語セミナーは犬の動画を見ながらディスカッションを中止に進めるセミナーです。犬の動画にはいろいろな状況のものの中から、比較的分かりやすいものを選んでいます。犬と犬が過ごしてるビデオや犬と人が過ごしてるビデオはよく題材として取り上げています。

 ビデオの動画を見ながら犬の行動を観察するという作業を参加者に行ってもらいます。観察の仕方や記録の取り方についてはいっしょに学びながら進めますので、回数の多い方ほど観察力がついてきているようです。観察を事実に近づけていく際にはできるだけ「感情を伴わず」にみる力が必要です。犬の専門家にも求められる力ですが、感情的な目線では犬の行動を正しくよみとることができません。感情をいれてみてしまうと、見えるはずのものが見えなくなってしまうからです。人の情報処理能力というのはとても不思議なもので、自分にとって受け入れのできる情報しか受け取れないという情報収集の限界があるのでしょう。ビデオを見て犬の行動を知るなんて簡単と思われるこの作業が、犬語セミナーの中で最初の難関です。

 その後、その観察内容を行動別に分析していきます。行動学では行動を犬の状態の種類に応じて分別します。分別という作業は、どのような仕事にも取り入れられています。みなさんも仕事中になんらかの形で分別をしているでしょう。パソコンのフォルダもこのひとつです。情報を種類別に分別していますね。分別は内容を整理して分かりやすくするための最初の手順なのです。
 動物行動学には共通の行動の分別がありますが、全く勉強をしたことがなければこれらの分別はわかりにくいものになるかもしれません。たとえば、まちがった分別は「よろこんでいる」「遊んでいる」「わたしのことが好き」などです。これらは分別とはいいません。特に感情的な評価はまずゼロにして考えていきます。これも行動学になじみのない方にはつまらないと思われるかもしれません。このことが犬を理解することにつながっていくのです。行動の理解は犬の状態と性質の理解へとつながります。


●保護犬にかかわる問題について
 今回ビデオで使用許可を得た生徒さんの犬は今年保護施設から保護された保護犬くんです。生後6ヶ月ころに飼い主として譲渡を受けたあとすぐにレッスンクラスに入られています。保護犬に限らず、生後6ヶ月までの成長期に犬がどのような環境で飼育(生活)していたのかは、犬の性格形成、行動形成に大きく影響しています。三つ子の魂百までは犬の世界でも同じなのです。
 どのような保護施設であれ施設という形式ととる限り、犬達は一定数を収容という方法で管理されています。家庭での飼育状態とはちがいます。保護施設に限らず、訓練所や訓練施設などでも同じように多数の犬を収容管理しています。行政では保管という言葉を使います。あまり好ましい言葉ではないですが、施設の目的をきちんと伝えるためにはこの言葉が一番分かりやすいでしょう。

 収容管理施設での時間は動物にストレスを与えることはいうまでもありません。施設管理者はできるかぎりこのストレスが軽減されるようにそれぞれの努力をしています。ただ保護施設の場合には、その施設の建物があまりにも地域によって偏りがという現状があります。多額の資金を集めて立派な保護施設を管理運営しているところもあれば、狭い敷地の中で犬舎ももたずに集めたケイジやクレートをつかって多数の動物を収容している施設もあります。施設のハード的なつくりと管理方法は犬のストレスに直結していて、子犬たちは当然周囲の成犬たちのストレスの状態に影響を受けて成長していきます。

 同じ問題は行政の施設だけでなく、保護ボランティアにも発展しています。多数の犬猫を保護しているボランティアの家庭や団体では、もはや家庭犬のレベルを超えて犬を収容状態で飼育しているケースはみなさんの周囲にも見られることでしょう。保護犬の状態は悪化しなかなか譲渡に結び付けられなくなったり、おびえの強い犬を一般家庭に譲渡すれば、生涯にわたってその犬がおびえのつよいストレス状態で過ごさなければならなくなる問題も生じてしまいます。こうした難しい行動への対応や回復にふさわしい環境を整えるのは専門家でも難しいことがあります。知識や経験はもちろんのこと時間や空間が必要なため、忙しいという理由が最も実行できない理由になってしまうからです。


●保護施設などの犬を管理する施設を評価すること

 保護施設など資金のかかるハード面を作り上げていくためには、多くの方の理解と協力が必要です。しかし、現に今ある保護施設や収容管理状態の団体でも、犬のストレスレベルが高いと感じられる施設は存在しています。ひとりひとりが正しく見る目を持って、きちんと評価をできることによって犬にとって安心で犬の成長にも機能的な施設が残ったり、また新しく建設されることにもなるでしょう。
 そのために、保護犬を評価すると同時に、保護施設そのものを細かく評価する必要があります。評価というと上から目線的だと感じられるかもしれませんが、これはそうした意味ではありません。評価というのは自らが正しくその状態について把握するという意味での評価であって、悪か良ではないのです。評価を通して改善すべき点も見えてきます。
 だれでもできる簡単な評価基準がふたつだけあげられますので参考にしてください。以下の2点です。

1 臭い
2 騒音(動物の声)

保護施設や犬を保護されている場所でこれらの二つについて違和感を覚えたら、犬のストレスレベルは高いというお知らせです。臭いにおいは犬のストレスレベルを表現するという理由と、犬の声は同じように犬のストレスレベルを表現しているからです。犬は吠える動物だと思われていますが、きちんと整備されて管理されている施設では犬の鳴き声は一切聞こえません。それは犬を抑制させているからではなく犬達が安心して過ごしているからです。犬をただかわいいといって通り過ぎず、犬が適切に保護され管理されているかどうかを知ってそこに支援の目や手を向けてください。


 そしてまたこの二つの評価はご家庭でも同じことです。庭が臭い、部屋の中が臭い、犬が吠えている、という状態であれば、犬は同じように高いストレス状態にあります。簡単なことですが見過ごしがちなことです。犬が気づいてほしいことをまず気づき実践すること、それが犬を尊重したい自分にできる最善のことではないかと思っています。






dav

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山歩きに見る犬の行動:行動観察から得られる犬の性質と特徴について

お山のクラス「わんげるミーティング」を開催しました。5月も末だというのに、湿度も低く風通しもよく絶好のコンディションのゆったりの一日となりました。


●山歩きにみる犬の歩行の特徴

 山を歩いている姿を見るとその犬についていろんなことがわかります。まず体のことです。体の小さな犬たちは自分のできる器量にあわせて歩く場所を決めていかければいけません。飼い主が踏みあげる高さの段差も、犬にとっては飛びあがりが難しいことがあります。飼い主便りにならず、端の方の自分の歩ける場所を見つけていくことを最初はあまりできないことが多いです。しかし回数を重ねていくと犬も学び始めます。自分にとってよりよい環境を見つけようとすると、飼い主の歩く方向には進みますがより自分の歩きやすい位置を決めていきます。
 バランス感覚の育っていない犬は飛びあがりが多くなります。一定の場所に立っていることができないからです。山はどの地点をとっても坂です。坂といってもアスファルトのような坂ではなく、4つの脚を置く場所の高さが全て違います。左右が横並びならないこともあります。そうしたところで歩いては止まり歩いては止まりができる犬は慎重でバランスをとることを重要としていることがわかります。反対にジャンプして上ったり下りたり、走ったり(走るのもジャンプです)、左右にウロウロとしたりするのはバランスをとることが苦手だからです。不安定な場所にいることで犬は体にストレスを感じます。それを落ち着かせることができる自律タイプの犬と、興奮してしまう自律が不安定な犬では行動の安定感がまるで違います。

●歩く位置に見る犬の特徴

 犬は飼い主の前を歩きたがる場合には、いつも飼い主から見てもらい管理されていることが日常になっている場合です。散歩でも家でも、飼い主はいつも犬を見ています。飼い主よりも後ろを歩かせようとすると抵抗をすることがあります。飼い主が自分を見ていないと落ち着かなくなるからです。こうした犬ほど飼い主よりも後ろを歩かせるように練習する必要があります。歩く位置はその関係性の現われです。不安定な犬は飼い主の後ろ、つまり飼い主に従って歩くということです。この位置関係を受け入れさせるだけで、犬は飼い主に服従しているという関係を作ることになります。多くの小型犬はこの飼い主との服従関係をつくっていくのが得意ではないようです。すぐに飼い主の膝の上に乗ってきたり居場所を主張したり、ときには鼻をならして赤ちゃん行動をしたりする犬が多いですね。赤ちゃんは社会での役割を与えられないので、服従関係は結べません。犬の中でいう服従関係とは役割分担という意味です。言い換えれば飼い主と対等に社会に属しているということが前提の関係性です。


dav

●未熟な犬の行動の危険性について

 それでも楽しそうに走っていくからいいじゃないかと思われる方もいるかもしれません。実際にそうしていらっしゃる方もいるでしょう。これは事故につながります。未熟な犬は何か事が起きたときに衝動的に走り出してたり吠えたり、パニックを起こしたりしてしまうからです。ガサガサという音がしたらそちらに走り出してしまうかもしれません。
 また、未熟な犬は環境を把握することが得意ではありません。周囲の全体を捉え前進すべきか立ち止まるべきか引き返すべきかを判断する前に、目の前の茂みにヘビがいることに気づくのか鼻先をつっこんで怪我をしてしまうことの方が多いからです。
 ということは未熟な犬は世界が小さくなるということです。何も変わることのない柵の中に入れられて遊んでいるように見えながらただ興奮している犬達の姿を見ると、犬は人間から提供されたもの以外を楽しむ自由はもうないのだろうかと感じることもあります。
 環境を把握して行動ができるという自律性は動物の精神を安定させるベースのようなものです。実際に自分に当てはめて考えてみても、環境を把握しこれから起きることを予測できることが自分にとっての最大の安全確保になっています。予測といっても将来のことを予測するような力はだれにもありません。それでも動物は一歩先のことを知りながら時間と空間を進んでいるのではないかと思うのです。その一歩を踏み出すべきか止まるべきか、判断を誤るなら出きるものの後ろをついたほうが懸命だということです。

●下刈り中にみる犬の行動
 今回のクラスでは歩く距離を調整したあと庭で下刈りをいっしょにしてもらいました。下刈りとは山を育てるための作業で、小さな木々の間に生えてくる草や萱や木々を刈り取っていく作業です。
 人々が庭で下刈りをしているときの犬の行動もそれぞれに違います。飼い主の近くをずっとついてきて草の臭いを嗅いでいる犬、飼い主の近くに居場所を獲得して飼い主の作業を待っている犬、飼い主の方をみて鼻をならしたりする犬、それぞれに飼い主との関係性と犬の性質を表現しています。
 山歩きのときと状況は似ているのですが、移動という行動を伴っていません。作業をしている飼い主は土の方を見ているわけですから犬の方は見ていません。飼い主に依存している犬は(大半の犬は依存していますが)、いつもと違う状況に不安な状態に陥ります。犬によってはテラスにおいてあるクレートの中に入って出てこなくなったり、車の下にもぐったりすることもあります。飼い主が見ていないと行動が不安定になるため最小のテリトリーに戻ってしまうためです。
 こうした犬の行動を見ることで飼い主さんが気づくこともたくさんあります。なぜ犬はテラスに帰ってしまうのだろう、なぜ犬はこちらを見て鼻を鳴らしているなろう、なぜ犬は落ち着きなく動くものを常に追っているのだろう、そんな疑問が生じることが大切です。
 犬のトレーニングやしつけというと、何か犬に問題がないと関心をもたれないことがまだまだあります。犬に問題を感じたらすぐに対応をしてほしいとは思いますが、もし犬に問題を感じていなくても、犬の行動に少しでも「なんでだろう?」を見出せたら、それはもう犬のことを学ぶチャンスです。もう何十年も仕事をしている自分でも、犬に対するなんでだろう?はいつも存在します。そしてその疑問についてまず仮説をたててじっくりと時間をかけて納得するまで追い続けていくことを楽しいと思っています。犬の行動でいうところの追跡作業ということでしょうが、よほど関心がなければこれほどの追跡はないでしょうから、自分ながら本当にはまってしまったという他ありません。

●おまけ

 下刈りは庭のほんの一部でしたがそれでもすっきりとして風通しがよくなりました。里山の境界線なので藪にしてしまうようなことがあったら境界線を預かる身として面目がありません。お手伝いには心から感謝しています。お昼タイムはいつもは自宅で作らないものということで、博多駅周辺ではよくみかけるパンケーキにしました。しかも玄米粉でつくったパンケーキに豆乳ベースの生クリームをのせたものです。
 七山は水が本当においしいので安いコーヒー豆でもゴハンでもなんでも本当においしいです。水はすべての基本ですね。パンケーキを食べながら日本の山は水の宝庫、海外の人たちが山を買い取ってしまわないように山を守っていく必要があるねという話をしました。山を守るためには里山に住むしかありません。そして山の手入れを汗水たらしてして、山のおいしい水をいただきます。山があれば動物たちが住めるし、空気がきれいになるし、健康な土がたくさん育ちます。そして命もまたそこから生まれます。


dav

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