頭の中でブログを更新し続けながら、令和5年の最終日を迎えることになりました。
今年もたくさんの新しい出会いと長いご縁に恵まれながら、充実した日々を送ることができました。
この一年を振り返って思い出されることはたくさんありますが、一番を上げるとすればやはり7月の豪雨により被災してから始まった日々のことです。
オポハウスに閉じ込められてから脱出するまでの短い被災体験から始まり、崩れた土砂撤去に明け暮れた毎日が続きました。
土砂や大きな石の撤去作業には生徒さんや見ず知らずのボランティアの皆さんがお手伝いに来て下さったことで心を支えていただきました。
遠方から物資やお見舞い金の支援をして下さった方もいらして、何がなんでもがんばるのだという気持ちにさせていただきました。
災害があると自然は怖いと自然を遠ざける考え方もありますが、私たちはこの山奥のオポハウスを手放すという選択肢はありませんでした。
自然は何も悪いことはしていない、自然を利用して生きているのはこちらの方なのです。
土砂崩れのあとも犬たちはいつもと変わらない状態で遊んでいました。
人間は自然に対して多少横暴なところがあるのですから謙虚になれと告げられる出来事はときどき起きます。
それにしても、これまでの人生の中でも忘れることのできない出来事でした。
そして、災害の直後に春に生まれて引き受けを予定していた子山羊のアールとゼットがオポハウスにやってきました。
生後3ケ月の子山羊たちのお世話に戸惑いつつも、人生で初めての自分で飼うヤギの存在にワクワク感がありました。
これといった「賢いヤギの育て方」的な指示書も見つからなかったので、ヤギの習性を探しつつある程度自由にある程度は管理してヤギと向き合いました。
ヤギを迎えて6ケ月経ちましたが、思った以上に衝撃の多い学びの日々となりました。
ローレンツ先生は犬と猫を特別に家畜化した動物だと言われています。
人と暮す犬と猫以外を身近に知らない私にとっては、ヤギという家畜化された動物が思った以上に動物であり、そしてかつこれほどまでに人に恐怖を抱かないのだということに驚く日々でした。
それはヤギの育った環境や現在の飼育の状態によっても異なるとは思います。
囲われた柵の中にいる動物は逃げることができないため防衛一筋となり、柵越しの攻撃性を高めていきます。
オポハウスのヤギのアール&ゼットはほとんどフリーで活動していますので、いつでも逃走可能な選択肢が攻撃性を下げているという要因はあります。
それにしても、犬がこれほどまでに人を恐れ人と対立するというのに対して、ヤギの人に対する無関心さや攻撃性の低さに家畜化とは何かということを深く考える機会を得ました。
ヤギの小屋が裏山とオポハウスの間に位置していることもあり、今年はイノシシが全くオポハウスによりつきません。
野生動物を近づけることになるのではと恐れていたのですが、ヤギの作ったテリトリーはむしろ野生動物に対する境界線として役立っています。
学びはどんなときでもいつでも途中です。
これですべてをわかり切ったつもりになると必ず裏切られることになります。
犬について学ぶ過程でこの経験はなんどもしてきました。
なのでどんなことでも知っていると思い込むのを止めて、ではないかなと思う程度にする習慣が身に付きました。
犬のこと、ヤギのこと、自然のこと、自分のことも、知らないことはまだまだあるぞと警戒しながら、知ること気づくことの喜びをまだ持っていることがうれしいです。
今日もまた、冬風の強いこの山の中で犬たちの行動を見ながら感じたり思ったり考えたりしています。
学びの機会をくださり、共に学んで下さるグッドボーイハートの仲間に心から感謝してこの一年を終えたいと思います。
今年一年ありがとうございました。
いま皆さまの足元にいる素敵な犬たちと良いお年をお迎えください。
また、今年旅立っていった犬たちにオポとの対面を楽しんでほしいと伝えて下さい。
Author Archives: miyatake
豪雨で被災~山羊との暮らしまで、今年もたくさん学びました。
オポディトレッキング開催しました。
12月17日にオポディトレッキングクラスを開催しました。
オポディとはオポ(私の愛犬)の命日である12月と年末トレッキングを合わせて、皆で一年を締めくくるトレッキングです。
今年もちらつく雪にどきどきしながらのトレッキングとなりました。
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写真は生徒さんたちが撮影されたものが綺麗でしたのでインスタグラムから引用します。
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トレッキングコース途中で山羊のアール&ゼットが待っていました。
朝から山羊たちをフリー活動させていたのですが、勝手にスタンバイしれてくれていたのです。
アール&ゼットもグッドボーイハートの一員になってくれたようで飼い主としては満足でした。
しかし、アールとゼットの関門を通行するというイベントとなり、リードワークはかなり大変だった犬もいたようで良い思い出になってくれたらいいです。
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今年もたくさんの犬と人で何度も尾歩山を歩きました。
いろんな山があるけれど同じ山をなんども歩くことで見えてくる風景もあります。
単調な山歩きですが、山歩きを通してゆっくりとつながってくる関係性を大切にしています。
またアールゼットも参加させてください。
“犬は人間ではない”が当たり前で“犬が人間だと思っている”が危ういのだと気付くために。
週末はグループトレッキングとセミナーを開催しました。
セミナーは各月で開催している「犬語セミナー」です。
犬のコミュニケーションについて学ぶセミナーですが、講師が一方的に説明する形式ではなく、参加者全員で考え、犬という動物について思いっきり議論しようという趣旨のセミナーです。
講師がこれまでに知っていることを話す時間ではなくセミナー用に準備した動画を参加者と一緒に分析して考えていくスタイルですので、講師の私にとっても気合のいるセミナーです。
思い込みや知っているつもりでいっぱいになっている頭の中に、空白のスペースを開けるという作業は学べば学ぶほど難しくなっていくからです。
新しいことを学ぶ度に「ああよかったこれで全部分かった」と思うと同時に「いや、まだ知らないことがたくさんあるはず」という現実がやってきます。
セミナーに参加して下さっている生徒さんたちはみなさん長く犬と暮しながら犬について学び続けている方々です。
その中のおひとりがセミナーの終わりにこのような発言をされました。
“犬は人間じゃない、というとまるで犬を虐待しているように思われることがあり残念です。”
この発言に参加者のみなさんが深く頷いていたのです。
“犬は人間じゃない。犬は犬なんです。”という当たり前すぎるこの価値観が通用しない別の価値観が増えているらしいのです。
つまり“犬は人間と同じ”という価値観がかなり世間では一般的となりつつあるということなのでしょう。
言葉は言葉ですから、あくまで行動に移してこそはじめてその価値観の意味がわかるというものです。
犬は人間と同じという言葉の意味が、犬を人と同じようにお互いをしりその存在を尊重するというのであれば共感します。
しかし、犬は人間と同じという言葉の意味が、犬に布団をかぶせて寝かせたり、服を着せたり、靴を履かせたり、外に出すのはかわいそうという理由で土の上を歩くこともできないというのは少し違うのではないかと思うのです。
「うちの犬は自分のことを人間だと思っている。」と得意げに言われることがありますが、これは本当に大問題であって微笑ましいどころか笑い話にもなりません。
犬を犬として理解したいという気持ちは、犬を犬として尊重し愛する飼い主への道なのです。
今年もたくさん学ばせていただき、参加者の皆様には感謝いたします。
私自身も知っていることが言葉になるのに数年はかかっていますので、もっと早く言葉になるように毎日を学びの時間といたします。
ヤクトさんの鹿肉ジャーキー価格変更のお知らせ
ご愛用いただいている大分県のヤクトさんの鹿肉ジャーキーの定価が変更になりました。
詳しくはこちらからご覧ください。
ヤクトさんの鹿肉「やまごち」オンラインショップ
グッドボーイハートでは以下の商品を準備しています。
赤身モモ肉 100グラム 定価 1980円
赤身チップ 100グラム 定価 1980円
※レバーシート 50グラム 定価1100円
グッドボーイハートのみなさんには消費税分はお値引きでお渡しします。
商品在庫は流動しますので、事前にご確認下さい。
猟師さんの手作りの鹿肉ジャーキーですが、森林保全のためにもぜひご利用下さい。
おまとめ発注もお待ちしています。
<お知らせ>2023年オポディトレッキング&オポの会・開催のお知らせ
今年もオポディを開催いたします。
オポディは一年のオポの命日のある12月と一年の〆を重ねて開催する会です。
午前中はいつもとおりにグループトレッキングクラス。
午後はお弁当を準備していますので、ごゆっくり薪ストーブにあたりながら過ごして下さい。
今年は、生徒さんのお弁当屋さんにお昼弁当を注文することになりました。
午後の部までご参加の皆様は人数をお知らせの上お申し込み下さい。
12月17日 10時~ オポディトレッキングクラス
午後~ オポの会 昼食付
ご参加をお待ちしております。
都会暮らしの犬の日常に「自然と暮らす」を取り入れるために山を借りるという選択。
グッドボーイハートは「自然との調和を目指す」をテーマにしています。
なんだか壮大なテーマですが、簡単に言えば「犬と人が自然の中で過ごす時間を増やしましょう。」ということです。
犬と自然の中で過ごす理由はたくさんありますが、一番の理由は「自然の中の犬は特別」だからです。
私も一飼い主として犬のオポと都心で暮らし始めたとき、まだ子犬だったオポを連れて山や海に出かける時間を大切にし、時間のある限り出かけていました。
犬には自然が大切なのだと頭で考えたのではなく、犬が山で過ごしているその表情や行動の輝きを見て、単純に犬は自然で過ごすのが心地よいのだと感じたからです。
その思いは家庭訪問クラスの中でもあふれて出ており、これまでにもたくさんのグッドボーイハート生の飼い主さんたちが犬と共に、山へ出かけて下さいました。
休日に山歩きを趣味にしている方
犬とのキャンプを始めた方
そして、中にはこんな新しい取り組みに参加された生徒さんがいらっしゃったのです。
その生徒さんは休日に犬といっしょにキャンプに行かれていたのを知っていました。
キャンプ情報としていろいろと教えていただいたこともありました。
「今度はどちらのキャンプ場にお出かけですか?」とレッスンのときにお尋ねしたところ
「実はわたしたち今…山を借りてるんです。」と。
山を借りている…?
ああ、お知り合いの方が山を持っているのだなと勝手に想像を始めたのですが、全く違う内容でした。
その生徒さんが借りている山というのは「フォレンタ」という事業による年間契約の山の賃貸だったのです。
貸農園の山バージョンのようなものです。
山の一角のスペースをレンタルしていて、ルールにのっとれば開拓や焚火やキャンプなどもできるということでした。
人が入らなくなって荒れ果てた里山をこのような事業を通して活用するとは、なんとも楽しいことです。
自分たちの都合でいつでもその「貸山」に出かけてゆっくりと過ごすことができる時間。
キャンプ場では落ちている木を動かしたり環境を変えていくことができませんから、キャンプ場とはまた違った活動ができます。
山の整備をする時間、同行している小型犬ちゃんは飼い主さんについて回り活動を楽しんでいるということでした。
山仕事をする飼い主さんを見守る犬の姿を想像するだけで楽しくなってしまいました。
里山には人が入らなくなり荒れ果てています。
人と山を繋ごうという新しい事業があることを知って未来への希望が広がりました。
近頃は若い世代の方々はマイカーも持たない時代ですが、そのかわりレンタカーがあります。
同じように実家が里山でなくても、山のレンタルがあるなら使う方はもっといるはずです。
使っていない山を貸したいという方もいらっしゃるでしょう。
日本の素晴らしい国土が生きを吹き返し犬と飼い主の安心して過ごせる場所が増えますように。
森林レンタル=フォレンタのホームページはこちらです。
森林レンタルサービス forenta
11月のグループトレッキングクラス&犬語セミナー開催のお知らせ
今年も山歩き、山遊びに最高の季節がやってきました。
11月は紅葉の期待される季節です。
ちょっと寒く冬の到来を感じる11月のトレッキングクラスは以下のとおり開催いたします。
●グループトレッキングクラス
2023年11月26日 (日) 10時集合~11時30分
チケットもしくは当日チケットが必要です。
グッドボーイハート生のみ
●犬語セミナー
同日 12時15分~14時15分
参加費 おひとり 2500円
一般の方もご参加が可能。
どちらも事前のお申込みが必要となります。
【追記】
10月のトレッキングクラスで遭遇したオオスズメバチの巣は、寒気の到来で収束しました。トレッキングコースは安全に利用できます。お知らせまで。
追記20231116
曜日は日曜日です。訂正いたします。
10月のグループクラストレッキングクラスを開催しました。活動の秋のはじまりの脚ならし活動です。
山歩きの楽しい季節の始まりです。
山の気候はぐんと冷えており、山の学校に到着された人々は「やっぱり寒くなってますね…」と都市環境との気温の差に驚かれていました。
犬たちにとっては最高に過ごしやすい季節です。
小型犬たちも夏は決して得意ではありません。
ほどよく冷たい風が通り過ぎて、季節の変化をいち早く教えてくれるのが山の季節です。
月に1回のグループクラスですが、山の斜面、木々の色合い、山のにおいなどひと月でずいぶん変化していきます。
先月と全然違うなと思っていただけるくらい季節感を感じることができます。
においならお任せの犬なら、山の変化にきっと気づいてくれるでしょう。
今回はトレッキングクラスで危険な生物とも出会いました。
一週間に3から4回は山歩きをしているので「いつもとは何かが違う」を感じるセンサーがいつの間にか発達しています。
トレッキングクラス後は、有志のメンバーで山歩きコースの手入れをしていただきました。
また裏山の工事のために撤去される予定の小さな植木を安全な場所に植え替えていただきました。
根付かないかもしれませんが、もしかしたら根付くかもしれないし、何もしないよりも可能性が少しでもあった方がいいとお手伝いいただいたみなさん、ありがとうございました。
トレッキングコースの整備のために、お手伝いに来てくれていた若い男性がいっしょに初めて山にあがりました。
作業後に「山歩きどうでした?」と尋ねると、意外な答えが返ってきました。
その答えとは「ここでも空気が綺麗だと思っていたけど、山の中はここよりももっと空気が綺麗なのでびっくりしました。」。
これは本当にそのとおりなのですが、その感想を聞いてうれしくなりました。
山に入った途端に、山を歩き進むたびに、空気感が確実に変化していきます。
山を歩くというのは、山の空気の空間の中に自分が溶け込んでいくようなそんな感じなのです。
自分と犬がいっしょに山に溶け込んでいける瞬間の連続というのが犬との山歩きの共感の楽しさです。
感覚なのであくまで個人のものです。
みなさんおひとりおひとりが何を感じられているか、その方にしかわかりません。またその犬にしかわかりません。
誰にもわからない自分だけの体験、だからこそ特別で大切なものなのではないでしょうか。
アールゼットはお留守番でした。
メエーメエーないていました。ついていくつもりが離れてしまうときだけ鳴きますので、この日はいくつもりだったのかもしれません。
アール、ゼット。トレッキングお勉強がんばろうね。
暴走する仔山羊のアール&ゼットとの暮らし
山羊の名前にアール・ゼットその由来とは
山羊につけた名前は「アール」「ゼット」。昭和中期を生きた男性なら聞き覚えのあるRZという単語は、ヤマハのバイクの名称です。
ダンナくんが自分の命の次に大切にしているバイクの名前を山羊につけたのは、RZ同様に大切にしてもらえますようにという私の願いからでした。
ヤマハのRZは今は生産中止となった2ストロークエンジンを乗せたバイクで「白い棺桶」と言われたいたくらい、走り屋にとっては魅力的かつ扱いにくいバイクなのだそうです。
その子山羊のアール・ゼットですが、名前の与えたエネルギーが強すぎたのか、彼らは山の学校で暴走しています。
仔山羊にも個性がある。走りのアールと鳴きのゼット。
色の白い方がアールで黒いの方がゼットです。山羊にも個性があるのですかと聞かれることがありますが、もちろんあります。
姉妹山羊のアールとゼットですが、動きや行動のパターンが違っています。
「走りのアール」と名付けた白い子山羊の方は、小さいころから動きが俊敏でした。
高いところへのとびあがりやすべりやすいべニア板の上でのバランスも、ゼットよりも圧倒的に良く体も軽くうごきます。
「鳴きのゼット」と名付けた黒い子山羊は、引き受けた当初の親を呼ぶ鳴き声がメエーなどといった牧歌的なものとは程遠いギャー鳴きでした。
こんなに小さな体からどうやったらあんなに大きな声が出るのだろうというくらいの大きさのべえーーーーという大音量を発していました。
ゼットの方はアールよりも好奇心が旺盛で、新しいものに積極的に近づきます。
犬たちとの接し方を見ていても、アールは下がりながらですがゼットは前進します。
どちらかを繋いでいるときの行動も違います。
アールを繋いでいるときはゼットはかなり遠くまで離れることがあります。
一度はアールを置いてトレッキングについてきてしまいました。
逆にゼットを繋いでいるときは、アールはあまり遠くまで離れません。
来客に対しても、ゼットは積極的に近づいたりとびついたりすることもありますが、アールはそれほど積極性はありません。
同じ遺伝子を持っていて2頭はつねに離れずに行動をしてきたのですが、こうして性質の違う個体になっていくのですね。
行動だけでなく、体格や表情もそれぞれに違いがあります。
柵内に収まらず活動を広げるアール・ゼット
最初の2ケ月ほどは逃走を注意して夜も柵内で係留するなどしていたのですが、そもそも敷地が平らでなく山の斜面を囲むようにして山羊スペースを作ったため係留による首つりの事故を大変心配していました。仔山羊が慣れてきたら柵内にフリーで活動できるようにと簡易の柵を作った上で、簡易柵の周りの強靭な木製の柵をダンナくんが作っていきました。
そして夜は柵内でフリーにするようにしていたのですが、いつも朝になるとゼットが柵の外で散策しています。
アールの方が運動能力は高いはずですが、ゼットの方が頭が回るため柵から出る方法を身に着けたようです。
簡単に柵を超えられるのですが、逆に入るときには入口の方に戻っていきます。
じゃあ出入り自由にしてしまったらいいのではないかという結論に達し、柵の入り口付近を開けたままずっとフリーで活動するようになりました。
完全にフリーで活動するようになって1ケ月近くになりますが、ふたりで出かけていき勝手に戻って休憩したりと昼夜を問わず出入りを繰り返しています。
活動の範囲を広げて動くアールゼットに反応をしない犬たち
出かけていく方向が山の方角の時には「いってらっしゃい」と手を振るとふたりでゆっくりと草を食べながら消えていきます。しかし、問題となる方向がひとつあるのです。
広場前の車道を下道に降りていくアールゼットの姿を見ると捕獲しに行かなければいけません。
車道の前の家はすでに空き家でその空き家の草を食べていることもあるし、お隣さんの庭に入って草を食べているのを発見したこともあります。
道路に飛び出して車が事故を起こしたりと大事になってはいけないので道路方向に行かないようにと常に気をはっています。
山羊たちはわざとではないのでしょうが思ったより静かに移動するため、最近ではカウベルを首に装着しています。
広場前を通って見過ごしたときに犬たちが吠えて教えてくれれば助かるのですが、人には吠える犬たちが山羊には吠えないのです。
犬たちも「あれ~」という感じで山羊が通行するのをじっと見守っています。
むしろ猫や他の動物の方が反応をするのに、なぜ山羊ならスルーするのか不思議です。
私たちがアールゼットを追いかけて制御しているのを犬たちはわりとおとなしくじっと見ています。
人間が制御できる動物だということを犬たちがわかった上で観察を続けているだとすれば、アールゼットに好き勝手させるわけにはいきません。
動画は災害で壊れたテラスで場所取りをするアールゼットですが、テラスの上ではわたしがテリトリーを主張しています。
どんな動物にも居場所取りは大切なコミュニケーションであり関係性を深める機会でもあります。
(動画の中の鼻なき声はこの風景を見ている犬ちゃんの声です。)
山羊を観察するだけでなく、山羊との関係性を深めるためのいろんな活動があります。
犬と山羊を比較しても学ぶところが多いのですが、やっていることはとても役に立ちそうにない大したことのないことです。
そんなことが日常に起きているだけで楽しくなります。
アールゼットの成長が楽しみです。
動物を人に慣れさせる方法について「餌づけ」から「人づけ」へ
野生動物と「餌づけ」・「人づけ」
動物を人に慣れさせる方法として「餌づけ」という方法があります。野生動物に対する「餌づけ」法は、古い時代から使用されていたようですが、次第にその方法は「人づけ」という方法に変わっていきます。
人づけ法でチンパンジーと交流した女性
人づけにより野生動物との関係性を深める方法をいち早く実践していたのは、私の尊敬する師、ジェーングドール博士であると私は信じています。ジェーングドール博士は1960年からチンパンジーの研究のためにアフリカの奥地に暮らし、毎日チンパンジーの活動するテリトリーを訪れて観察を続けることでチンパンジーを理解しながら動物の警戒心をとき、チンパンジーとのコミュニケーションを実践した女史です。
京都大学名誉教授でゴリラ研究で著名な山極壽一博士によると、アフリカ大陸の内戦などの影響で一時研究が閉ざされていたのちに、山極博士がゴリラ研究を再開し始めたときにはすでに、「餌づけ」法から「人づけ」法に変わっていたと言われています。(※参考文献「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう(文春新書発行)」
山極先生は、ジェーングドール博士をアフリカに派遣したリーキー氏がゴリラ研究を依頼したダイアン・フォッシーという女史に学んだということですから、人付け法はジェーングドール博士やダイアンフォッシー博士などの影響を強く受けている流れだと考えています。
餌づけが動物に与える影響について
餌づけは人に慣れていない動物を人に近づける簡単な方法ではありますが、それにより動物本来の生態に影響を与えてしまいます。また、餌づけによって動物が人に対する執着をするようになり、動物と人の関係性に強い影響を与えます。
執着によって引き起こされる影響とは、動物が人が好きになるといったファンタジーな話ではありません。
餌づけされた動物は人を感知すると食べ物を連想するようになり、ドーパミンを放出するようになります。
人が動物の興奮性や快楽性を操作する刺激となってしまうため人に依存する関係になります。
野生動物の習性を知るために動物を観察することが目的の類人猿の研究にとって、餌付け法は効果がないばかりでなくデメリットが多い。
時間がかかっても確実にその動物の習性や知性を引き出すことのできる人付け法が効果が高いということを、ジェーングドール博士やダイアンフォッシー博士らの研究者が実践したのではないでしょうか。
それに、研究結果として得られた内容よりも素晴らしいことは、博士たちがチンパンジーやゴリラとうちとけていったひとつひとつの出来事を生んだ過程にあったはずです。
逆を言えば、チンパンジーやゴリラといった野生動物にとって人という動物がどのように認識されていくかを考えるとどちらが歴史的に重要であるかの答えは簡単です。
犬と餌づけの話
犬は野生動物ではなく人に飼われる動物です。少なくとも日本では、人に飼われていない犬の存在は許されていません。それは狂犬病予防法という法律によって、すべての犬は人の管理下にあることを法律で定められているからです。
ところが犬の中には、ノヤギならぬ野犬(やけん)という犬がいて、人の手を離れて暮らす犬が、里や山や都市空間の中にもいます。
野犬には現在でも多くの餌やり活動をする人間がいて、餌付けによって生活をしています。
餌づけは野犬を生かすためだけでなく、野犬を捕獲する方法のひとつとしても用いられています。
ですが餌付けはコミュニケーションの方法ではありません。
人に近づいてきたところを捕獲するためのひとつの方法です。
餌づけによって犬が人に馴れることはありません。
距離が縮まるということと信頼関係を作ることは全く別のことです。
犬との信頼関係をつくるために食べ物は必要ありません。
必要なのは観察、時間、環境、継続、熱意。
そして仲間も大切な存在です。