犬のしつけ方を飼い主さんに教えるのが仕事なのですが、その犬のしつけの最中にたまに飼い主さんから言われることがあります。
「犬のストレスになるのではないか」とか「犬がストレスを感じている」というのです。
うーん、少し冷静になって考えてみる必要があります。
自分の犬のこととなるとどうしても感情的になってしまうのなら、他の犬と飼い主のことを想像して考えてみましょう。
不満と感じることを飼い主がしたらかみつく犬がいるとします。
飼い主がテーブルの上においていた食べ物を犬がとり、それを取り上げようとしたらかみつく犬、名前をポチくんとしましょう。
そのポチくんのかみつきを改善するために必要なことは、ポチくんが食べ物をとったときにたくさん叱ってわからせることでしょうか?
この方法でもある程度の効果は出します。
飼い主が見張っているときにはテーブルの上のものに手を出さない犬にはなるでしょう。
ところが、これは「犬のしつけ」のほかにやりようないときの方法であって根本的なしつけではありません。
本来のしつけられた犬とは「テーブルの上に食べ物があっても取らない犬」のことです。
テーブルの上のものは飼い主のもの。
だから食べ物があっても「がまんして手を出さない犬」のことを言うのです。
つまり、しつけられた犬は「我慢強い犬」になります。
ところが、犬のしつけをなかなか進められない飼い主は、犬にがまんさせることを可哀そうと思っています。
がまんに弱い犬はフセをすぐにはしません。
フセは伏せて待てという待機の要求なのですから、犬はそのことを知っています。
フセの姿勢になるとすぐに逃げたり走ったりできなくなることも犬は知っているのです。
そのため犬はフセというと逃げようとしたり、体をかいたり、ぎゃんと声をあげて飼い主の要求に対して反発することもあります。
犬の逃げや反発は「したくない」と言っているのだと、とても分かりやすいものです。
したくないことをさせる、それが犬のストレスになるというのなら犬をしつけることなど到底できません。
しかも、我慢せずに甘やかされた犬ほど我慢することができません。
問題を抱えた犬ほど、フセをすることは嫌がるのです。
嫌がるのはフセだけではありません。
甘やかされた犬は自分の思い通りにならないことは一切いやです。
領域を奪われるのもいや。
食べ物をもらえないのもいや。
ひとりになるのもいや。
他の犬に対して自分が弱いのもいや。
いやいやの生涯を送る犬、これって楽しい犬の生涯になるでしょうか?
犬にしつけをすることがストレスになっているのでしょうか?いえ、その犬はストレスに弱い犬になってしまったのです。
小さい頃から厳しくしつけられた犬は、我慢強く育つので多少のストレスにもきれたりしません。
でも甘やかされたことで、少しのことでストレスを感じる犬になってしまったのです。
犬をきちんとしつけて我慢強い犬にすることは、犬が他者に迷惑をかけないという最低のお約束だけではなく、犬自身がストレスに強くなり生きる世界を広げて楽しみを増やすことにつながります。
犬にフセをさせることを可哀そうと感じるのでしたら、犬は飼い主の膝かその周辺でしか生きることができません。
何が犬の本当の幸せなのかを考えてみてください。
犬の生涯は飼い主のあなた次第でどのようにでも変わるのです。