犬にも人と同じ五感という感覚があります。
五感というのは犬が周囲の状況を把握するために受け取る体の器官のことで知覚とも言い換えられます。
五感とは視覚、触覚、味覚、嗅覚、聴覚で五つとなり、感覚の中でも特に刺激を把握し脳に直結するものです。
犬がどのように世界をとらえているのかを知るためには、犬がこの感覚のうちどれを一番使っているかを考えればよいのです。さてどうでしょうか。
人と比較すると犬はすべての五感において人よりも優れているといわざるを得ませんが、圧倒的に優れているのは嗅覚です。人とは比べ物にならず、犬からすると人は鼻のない動物です。
犬は嗅覚から得られた臭いの情報を元に環境を把握しています。
食べ物はどこにあるのか、この場所を誰がいつ通ったのか、自分のベッドにだれかが上がったのか、飼い主が誰とあっていたのか、そんなことを臭いを通して知ることができるのです。
つまり犬は、今ここにある環境と共に、多少の過去において起きたことも臭いを通して知ることができます。
ぺンフィールドのホムンクルスという小人の人形を見たことがあるでしょうか。
ペンフィールドという脳科学者が人の脳の領域のサイズに合わせて小人の体で表現した不思議な像ですが、人の場合には手が最も大きく、そして舌が異常に大きなバランスになっています。人はより美味しいものを食べることに時間を費やすことができた動物なのです。
このホムンクルスの小人と同じように犬を書くと犬の鼻はすごく大きく描かれます。
五感のうちに犬が鼻をどれだけ大切にしてるかがわかります。
でもこの犬の鼻ですが、生まれたときから発達しているわけではありません。
脳の発達というのは、生まれたあとの環境との関わりの中で生まれてくるのです。
言い換えると嗅覚を十分に使用するような環境で動かなかった子犬の脳は、ほとんど発達が見られない発達不全の状態になります。
これが室内に閉じ込められて成長した犬の脳なのです。
臭いが常に変化する屋外の環境で必要となった犬の知覚の発達が、室内の閉鎖的な環境の中では起こり得ない、発達そのものが阻害されてしまいます。
だからこそ生後数ヶ月という子犬期には屋外環境で嗅覚を発達させる機会を提供することをおすすめしているのです。
ただ犬だからとか、そうした方が犬らしいとかそんな単純な話ではなくて、科学的に犬はそのように脳を発達させる動物だという根本的な理解をしなければ、犬に必要な環境を整えることができません。
脚が汚れるからとか、庭がないとか言っているうちに、子犬は成犬になってしまい大切な社会期を失ってしまいます。
犬にとって嗅覚は世界を知る道具です。
小さいころからサークルの中で自分の排泄の臭いしか嗅いでいない犬がどのような犬になるのか想像すれば飼い主として何ができるのかを考える機会になります。