グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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お山さん、大変お世話になりました。<後篇>

目覚めるとオポが目の前にいた。
オポの意識によって目覚めたのか。

朝方4時くらいに寒さにたまらず風呂で体を温めて少し横になってしまったのだ。6時か・・・あれから2時間。
目が合うとすぐに動き出そうとしたオポを見てそのコトバを受け取る。
「外に出るのね…」

出入り自由にしておいたオポドアのついた戸口からあわてたように駆けだすオポ。
戸口を出るとすぐに裏庭に出ている「湧水」を口にした。
「湧水」はいつでも飲めるはずだけど本当に必要なときにはこの水を飲む。
オポはそれを今、本当に必要としてるんだ。

昨晩の状態から、ほんのその辺までしかいけないだろうと思ったのに
山の奥の方まで行こうとしていることが途中でみてとれた。

「オポ、ごめん。電話持ってくるからちょっと待ってて。」しばらく山から下りて来ないような気がした。
予定の来客に断りの連絡をいれるために必要な電話を取りに降りた。

急いで戻ると、オポはその場に伏せていた。
一気にのぼるはずだったのに、私が途中で止めてしまったからだ。
次に起き上がるまで、少し時間が必要らしい。
これから起きることを知り、ここ数日の予定をキャンセルさせてもらった。

電話をかけ終わり私の準備も整うと、オポは奥山へと駆けだした。
腹痛がひどいのか背中を硬直させながら、そして息も荒い。

奥山に入る手前から「間に合わない」という感じをただよわせながら
途中で不要分を体から出し続けながらも、あわてるように進んでいった。

竹にたまった水を口にして浅く呼吸をしながら、あと少しだというように。
私がもっと慎重に準備を整えて心していればオポのやろうとしていることがもっとスムーズにいっただろうに。
謝りと祈りと不安と冷静さが混沌として、複雑な心境だった。

オポは、なんとかたどり着いたというようにテント場の手前あたりに伏せた。
オポは昨晩同様、たくさんの不要なものを1時間置きに出し続けた。
出すときは慎重に尾根から外れた自分たちのスペースではない場を選ぶ。
伏せているときはじっと前を見据えていて、眠ろうとしない。
体を一瞬横にしても「ウー」と声をあげてすぐに伏せる体制に戻った。
血のにおいをかぎつけてオポの体にたくさんのハエがたかった。
自然の摂理とはいえ、あまりに悲しくなんどもそのハエを私が払った。

でも、オポはハエを気にしてはいない。
いつものオポの顔ではなかった。
あの「治癒の道」を歩いているときのオポの顔なのだ。

私はオポに湧水を与えるために里におりて登ることを4回繰り返した。
歩くことで不安も消える。私にもできることがひとつでもあるのだから。
この時オポに何が起きているのか私が知り得たことは、
体の中にあるできもののようなものが、最大限に大きくなり自ら破裂した。
できもののできていた皮膚の部分が炎症を起こし自らの毒素を出そうと…。とまあ、こんなところだろうか。

驚くべきことは、オポが自分に起きていることを知っているということだ。
もっとすばらしいことは、今自分に何が必要なのかも知っている。
それを自ら選択して行動を起こしていく。
どこへ行って何をするのか、何を口にして何を口にしないのか。
どちらを向いて伏せ、どこに感覚を向けているのか。
すべて、自分で選択をしているのだ。
いつもはひとりでいることのないこの治癒の場に、ひとりで待つことだって。

実際に目の前でオポがこうしているのを見れば、伝わってくる。
痛いだろうに、辛いだろうに、苦しいだろうに。
でも、こうして傍にいてできることだけをしながら手出しをしないでいられるのは
そうしたものを超える力をオポが実現していることを感じることができるからだ。
この癒しの空間と時間とつながりについて、気づいていなければ
オポを抱え込んで「どうにかしてください」と誰かにすがりついただろう。
こんな世界があることを、ついこの間まで知らなかったのだ。

夕方になると山で宿泊になることを決意して、自分用にテントを張った。
「テント張ったら“降りる”っていいそうだな…」と思いはしたものの
まあ、それならそれで構わない。とにかく自分に必要な準備はしよう。

そう思ってテントを張って10分。やはりオポは山を下って行った。
夕方のチャイムが鳴るまでの半日を山神様の元で過ごしたことになる。

「この度も、大変お世話になりました。」
お礼をいい、明日も来るかもしれないからとテントはそのままにした。


その日の夜に、翌日にも、そのまた翌日にも不思議なことがいっぱい起きた。
私はそれをただ見ているだけだけど、ただ見ていることができるようになったのだ。
薬を与えなければいけないとか、出血を止めなければいけないとかそんなことをは思わなくなった。

ただ、オポの歩く道を不思議なものを見るように見たり感じたりしている。
そして、オポもそのことを知っている。
私がいなければ行動できないわけではなく、私が知ろうとしていることを知っているのだろう。

治癒の道はまだ続いている。
あれから奥山には行こうとしないのでテントは張ったまま。
今度、テントを片付けに行くときは、こう言うだろう。
「いつもお世話になっています。そして、これからもよろしくお願いします。」

ブログ用2012年5月