毎日のクラスを通して、飼い主さんからたくさんの質問を受けます。
質問があるのはすばらしことなのです。
わたし自身、セミナーに出席したときも終了後は必ず質問をします。
質問はあるのが当たり前ですし、良い質問はセミナーの質を上げると確信しています。
同じようにクラスを受講される飼い主側に質問があるのは当たり前のことですし、良い質問はクラスの質を上げます。
このたくさんの質問の中でも最も多い質問が、「犬の○○をどうやって止めさせたらいいんですか?」という質問です。
特にトレーニングクラスに入られて間もない生徒さんたちからこの質問が出ます。
結論から言うとこの質問に答えはありません。
例えるなら「うちの子供がゲームばかりをするのだけどどうやって止めさせたらいいんですか?」とか「うちの嫁がいらないものばかり買ってくるのだけどどうやって止めさせたらいいのか?」と尋ねているのと同じことです。
犬の場合のこのケースではこんな質問になるでしょう。
犬がとびついてくるのだけど、どうやって止めさせたらいいですか?
犬が家具をかじるのですが、どうやって止めさせたらいいですか?
犬が来客のときに吠えるのですが、どうやって止めさせたらいいですか?
犬が食糞をするのですが、どうやって止めさせたらいいですか?・
犬がリードを引っ張るのですが、どうやって止めさせたらいいですか?
犬がかみつくのだけど、どうやって止めさせたらいいですか?
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エンドレスですね。
継続して起きる動物の行動を止めさせる手段はないのです。
継続して起きる動物の行動の大半はストレス性行動というものです。
ストレス性行動はつまりストレス行動、動物にストレスがかかることで起きている行動です。
ストレス性行動は叱ったりほめたりしても全くなくなりません。
悪いと思っているのにやっているとか、私を困らせようと思ってやっているという考え方もいったん横に置いてください。
犬が日常的に落ち着かない状態にあるのですから、犬の生活環境を整える、接し方を変える、犬の欲求をきちんと満たすための機会や環境を与える、犬の習性に見合った環境を提供するなどの根本的な対応が必要です。
そしてこれらの対応は対処法とは違い整備にも時間がかかりますし、飼い主さんの理解と行動の修正にもかなりの時間を要します。
こうした変化を促すことが犬のしつけ方やトレーニングになるのですが、結果を早く求めたい飼い主はどうしても「止めさせる」という思考回路から抜け出せずにフラストレーションを抱えます。
じっくりと犬のしつけに取り組んでいただいても犬の行動に変化が起きるのに数週間とか数ケ月かかることがあります。
犬をよく観察したり理解できる人から見ると変化していくことが事前にわかるのですが、表面的にしか見ることのできない段階では飼い主目線でこの変化に気づくことができなくてつい焦りも出てしまいます。
トレーニングを受けても全く変わらないと感じるのか、少し変わったように思えるになるまでに時間もかかるのです。
焦ってしまい叱ったりほめたりすることに頼って犬の行動を変化させようとすると、犬はとても不安定な状態になっていきます。
叱ることとほめることがしつけだと思っておられるなら、この落とし穴から脱出しましょう。
落とし穴が浅ければ自力で脱出して穴の中から見えているものとは違うものを見てください。
落とし穴が深すぎて自力で脱出できなくなった飼い主さんには、私が脱出のためのはしごを提供しますので自分で上がって来てください。
叱ったりほめたりしようとしてなんとかしようとしているのは、世界が犬と自分だけになってしまっているからです。
私たちを取り巻く世界はもっと広いのです。その世界に気づいていただく機会をつくるためにトレッキングクラスをしています。
とても広く可能性もたくさんあるのに、小さな枠にとらわれているのは飼い主さん、そしてその囚われの中に入っているのが犬です。
どうやって止めさせたらいいんですか?の質問は、トレーニングクラスを重ねるうちに飼い主さんの口からきくことがなくなっていきます。
飼い主さんが変化されたのだなと感じるときであり、インストラクターとしてはとても喜びを感じるときです。
そしてここからステップアップが始まります。
焦らずじっくりと楽しみながら、犬のしつけは結果ではなく過程が人と犬の関係をつくっていくことを大切にしていただきたいです。