分離不安という言葉をあまり使いたくはないのですが、犬の状態をある程度把握していただくために納得しやすい表現として使用させていただきます。
犬の分離不安行動とは、もっと的確な表現をするなら、次の2つの要素を複合している状態の犬だと思ってください。
2つの要素とは以下のとおりです。
・安心できる自分のテリトリーを持っていない
・飼い主に対して依存執着行動を表現している
特に後者の飼い主に対して依存執着行動を示すことについては、とても分かりやすい行動のため、分離不安行動を特徴づける行動ともいえます。
飼い主が離れると騒いだり、飼い主の気を引く行動をします。
飼い主を自分の要求に応じて行動させるための甘え行動や脅し行動が見られるようになります。
脅し行動の中には、軽い甘咬みや首元に手を近づけると手をなめるといった行動から始まり、しまいには出血するほど咬みつく、あざができるほど咬むといった攻撃性行動にまで発展していくことがあります。
犬によっては、咬みつき行動が少なく甘え行動が中心となりながら、そのうち飼い主が離れると不安定になるパニック行動や興奮行動が見られるだけの場合もあります。
咬みつき行動がでないこうした犬たちは、飼い主が大好きという間違った行動評価を受けながら生涯を終えることもあるのかもしれません。
逆に、咬みつき行動が出た場合は飼い主にとってはとても辛く苦しいことになります。
しかし実際には、咬みつき行動が出始めると飼い主はなんらかの方法でこの問題を解決しようと犬との関係改善に踏み切ることになるでしょうから、こちらの行動の方が飼い主と犬はより良い関係を築く可能性が高まるということにもなるのです。
犬の落ち着かない行動はすべて犬からのメッセージなので、飼い主がどの程度真摯にこのメッセージを受け取るのかで、犬と飼い主の関係性は決まっていくともいえるのです。
とはいえ、飼い主は時には誤った対応をしてしまうことがあります。
飼い主に依存執着する行動からかみつき行動に発展してしまった犬に対して、放置という方法で改善を図ろうとするものです。
分離不安の犬にクレートトレーニングをして長い時間留守番をさせても、犬の分離不安行動は改善されません。
それでも室内犬ではクレートトレーニングが必要なのは、犬に最低でも安全なテリトリーを獲得させることで犬を安全に管理したいからです。
分離不安の犬を外飼いにして数ヶ月もしくは数年にわたって放置したとしても、犬の分離不安行動は改善されません。
犬をひとりにする時間をつくればそのうちに改善しそうな分離不安ですが、外飼いの犬でも分離不安症になってしまうことはあるのです。
保育園や預かり訓練に出しても、犬の分離不安は解決できません。
管理の行き届いた場所で一旦は落ち着いたように見える犬の状態も、飼い主の元にもどればすぐに復活してしまいます。
とにかく犬の分離不安行動は放置しても改善しないということを考えてみてください。
では、どのように改善できるのか。
それは分離不安行動がどのように作られたのかというところに焦点をあてれば見えてきます。
犬のは分離不安行動をつくっているのは、人が飼うという環境の中で起こります。
分離不安行動を作った接し方、環境、犬の性質、思いつくもの全てを書き出してみてください。
分離不安状態に影響を与えている環境を改善すること以外に、解決の道はありません。
そしてその環境の最も強い要因が「飼い主」なのです。
犬は環境にとても敏感な動物で、表面的な接し方ではごまかすことができません。
犬はいつも真実を知っているし、それを教えてくれるすばらしい生き物です。
重度の分離不安行動をかかえている犬がそばにいると、こちらも大変落ち着かなくなってしまいます。
その大変な問題にも解決の糸口があることを、犬自身が教えてくれます。
人として学ぶ機会に犬がいてくれる有難さを十分に感じています。
犬たちが心身ともに健康で朗らかでいるためにお手伝いできることを、飼い主さんといっしょにこれからも取り組んでいきます。