今回のおすすめの本『神なるオオカミ』は上下2巻からなる超大作です。場所はモンゴル地区、時代は毛沢東主席が先導する文化革命時です。モンゴル平野に遊牧民が移動しながらテントをはって生活している中に、知的青年として送り込まれる著者の自伝的な小説です。
著者はこの小説が実体験に基づいたものであることをやんわりと否定していますが、確かにこのモンゴルでオオカミと出会い、そのオオカミとの体験を記したかったという思いが強く伝わってきます。
本書をお薦めしたい理由は、モンゴル遊牧民と野生動物であるオオカミとの深い関係性が、実生活の細かい描写によって表現されている歴史書としても読み応えのある本だということです。その細かい描写の中には、読む人によっては受け入れられないと思うものも含まれています。動物との関係をやさしいもの、和やかなもの、楽しいものだけと考えている方にはこの書籍は受け入れ難いかもしれません。反対にペットを飼っていない人や動物を感情をある程度抑えて見ることのできる人にとっては読み応えのある本です。
モンゴル遊牧民はオオカミトーテムを崇め、死後は人の遺体を山に捨てることでオオカミ葬を通して天に昇れるという思想と習慣を持っています。その一方で生きているオオカミたちとはお互いに命を張って戦い会いながら、ここまで必要なのかと思わせるほどの攻撃もしかけていきます。そしてオオカミを飼うことを拒みながら、犬という動物をテントでは飼っているのです。その過程の中にも動物愛護の精神からは考えられないようなことが表現されています。しかしそれらを単純にかわいそうと否定するのではなく、なぜそうする必要があったのか、そのことで続いていくことは何か、人と動物の関係性はどうだったのかを自分に問いつづける機会にすることができます。
物語の後半部分はモンゴルという地区がいかにして砂漠へ変わっていったのかという、かなりきつい状態に触れています。新しい価値観の押し寄せる波に流されるように移動を迫られる遊牧民たちとモンゴルの山から消えていくオオカミの姿はまさに歴史のひとつの時間でした。歴史の真実というのは訴える力が強いものだと感じます。
この本はすでに絶版になっており中古品しかありませんが、地域の図書館に設置してある可能性の高い本です。実は通りすがりで立ち寄った本屋さんのめったに立ち寄らない文芸のコーナーになぜか引き寄せられてこの本を購入したのは、本が出版されたばかりのときでした。引き寄せられるように立ち止まって手にしたこの「神なるオオカミ」は、出会うべきして出会った本の一冊であると確信しています。
今は少し抵抗があっても、いつかそのうち真実を知りたいと思われたときにぜひ手にしていただきたい本です。