2017年2月18日付けの共同通信の記事に「犬のストレス状態が心拍の変動から分かる手法を開発したと、大阪府立大の島村俊介准教授(獣医学)のチームが18日、発表した。」という記事がありました。
要は機材を犬に装着して心拍の変動を記録し、その数値からストレスの状態を知る手がかりを掴んだというらしいのですが、心拍を記録する機材は人用に開発されており同チームがつかんだのは、犬の心拍の変動と自律神経(交感神経と副交感神経)の変動を因果つけることで、心拍数から自律神経の動きをしり、そのことからストレスの高さを把握しようというものらしいのです。
率直な感想を述べると、犬と人の距離もここまで離れてしまったのだろうかという気持ちでした犬の心拍とストレスの関係性を研究されている大学の先生方の研究成果は、犬の病気の早期発見などに役立てられることになるのかも知れません。ただ、犬のストレスを数値で知ることに偏ってしまうことは、犬と人の距離を遠ざけてしまうことになりそうです。
同じ屋根の下に暮らしている家族を例にとりましょう。家族である子供の状態を気にかけているのは親の役割でもあり、子供を愛する気持ちから自然に生まれる共感の世界です。その子供のストレス値を機材を装着して数値で測ろうとするでしょうか。心拍数を数値で測り自律神経のバランスを測定することが可能だとしても、子供に対してそれを行おうという親はいないのではないでしょうか。共に生活をしていれば、その表情は言動からストレスをどの程度子供が抱えているかを完全には理解できなくとも、知りたいと思うのが親の気持ちではないでしょうか。
犬は人とは異なる種の動物です。その表情や言動は人のものとは異なり、感情の世界も人が持っているものとは異なります。その種の違う動物のコミュニケーションを読み取るのは一見すると難しいもののように思われがちで、逆に擬似化による読み違いというのも生じてしまいます。
だからこそ、犬の行動をよく観察したり行動について学んだりしながら、少しでも犬の状態からその気持ちを知りたいと努力してたくさんの時間を使うことになります。難しいものではないのですが、時間がかかることは確かです。ただ、これらの犬を理解するために必要な時間は、犬とのコミュニケーションや生活そのものであるため、どれだけ時間を使っても惜しいと思うことはありません。あーでもない、こーでもないと考えたり悩んだりして、いろんな現象や行動がつながって「あ、そうだ、こうかもしれない。」と確信に近づいてきたときなどはドキドキします。
この観察を続けて対話を楽しみながら犬を理解する過程の中で、犬という動物に対する共感性も育ってきます。前よりも一歩ずつ犬のことを知ることになり、犬が本当にすばらしい動物であると確信せざるを得ませんし、同時に人が犬に与えている大変強い影響についても目をそらさずに見る必要も迫られます。
この多くの時間から得られるものが、犬に装着した数値と同等であるとは思いません。犬のストレスについて知りたければ、犬に真剣に向き合いながら共に生きましょう。これはきれいごとではなく、地味で目立たず他人の評価を得ることもありません。そうであっても、犬とのつながりを心で感じる唯一の方法であると信じています。
参考までに、ネット掲載された共同通信の記事はこちらからご覧いただけます。
共同通信記事「犬のストレスわかります。」