お盆を過ぎてオポハウスには秋がやってきましたが、この夏もたくさんの思い出を振り返るころとなりました。
今年は例年以上に“川トレクラス”のご要望がありました。川トレクラスとは川トレッキングであり川トレーニングです。いつもは「山」という自然環境の中での学びですが、川トレでは山の中の「川」環境に絞って活動をするクラスです。
川トレ希望者の中には「うちの犬も泳げるようになりたい」という夢を抱いている飼い主さんが多いのですが、川トレの目的は犬を泳がせることではありません。結果として犬が泳げるようになるということはあり得ますが、どんなトレーニングの目的も結果ではありませんので川トレもまた同じです。
では、川トレの目的は何かというと、繰り返しお話している「結果」ではなく「過程」です。川という普段活動する場とは全く違う犬にとっても飼い主にとっても馴染みのない環境の中でどのように過ごすのか、これが川トレの目的です。
過ごし方は様々ですが、やはり山を過ごすのと同じように環境をよく知るためにまずは川の中を歩いていく川トレッキングから始めます。川の中央を歩くというよりも歩きやすいところを歩きます。リードをつけて歩きますが、山よりももっといびつな地形のため犬と人の連携が必要になります。石ばかりで水が流れているし川のゴウゴウという音で会話も聞こえません。

リバートレッキングするダンくんと飼い主さん
常日頃からリードをつけてい歩いているはずですが、これほど自分の足元に注意が向くとリード上でのコミュニケーションがいかに大切かわかります。
人が歩いて渡れる場所でも小型犬は泳いで渡る必要のある場面もあります。どのタイミングで犬が地面から足を離すようになるのか、サポートが必要なのか任せていいのか、ルードを変えた方がいいのか。リードをつけているときは一心同体なので経路を決める飼い主にはいくつもの選択肢を決断する能力も求められます。小型犬だからといってずっと抱っこして歩いてしまっては川トレーニングの意味がありませんので、どこまで自力でできてどこから援助するのかと犬への注意は欠かせません。
川の環境では大型犬の方が利がありそうですが、決してそうとも言えません。特に川トレッキングの場面では、小型犬たちは小さな岩に四つ足をのせてうまくバランスをとっています。大型犬なら足がひとつしか乗れない場所です。いくつもの違った岩にそれぞれの足をのせてバランスをとっている大型犬にとってはうらやましい光景です。
石から石へのジャンプも小型犬ならではの体重の軽さで実現できます。大型犬の方が体重がありすぎてジャンプ移動が難しいことが多いのです。自分の愛犬がこの環境でできることとできないことを飼い主側が知るチャンスにもなります。同時にさっきまでできなかったことをできるようになるという場面を見ることもできます。
移動する能力が高まることは動物として一番大切なことだと思います。家畜化の歴史のある犬は移動の必要がなくなったことで人同様退化しています。川トレッキングの練習は人にとっても犬とっても良いトレーニングになります。

リバートレッキングするコータくんと飼い主さん
川トレッキングで環境を把握したあとはやや深い場所に移動して「泳ぎ」の移動を試します。あくまで私たち人間が足がつく環境の中で安全に行っています。
「どの犬でも泳げるようになるのですか?」という質問には、もちろん泳げるようになりますという答えになります。どの程度泳げるようになるのかと聞かれると、それは犬にもより環境にもよりますから一概には言えません。川トレでは犬が泳ぐというのがどのような行為なのかを言葉ではなく実践で体感します。この体感とは犬に起きていることを人も体感するということで、つまり共感につながります。

泳ぎの得意なはるちゃん
泳いでいる犬の姿勢は足が地面につかない空間を歩いているのと変わりません。ただ立ち止まると沈んでしまうため、ずっと歩き続けなければいけません。歩く方向さえ決まれば、ただその方向にむかって歩いているだけです。
ただ、川の中には水の流れる方向というのがあります。上流から下流へ、そして大きな岩や川の地形によって流れが変わり、川の上と下ではまた流れの強さが違います。川の流れをうまく利用しながら移動できるようになるということは、犬が環境をうまく利用できるようになったということです。
移動の行為だけでは積極的に泳ぎと関われない場合には、水の中に落ちているものを拾ってくる行為で泳ぎを誘発することもあります。しかしこれは最初からではありません。まずはリードでうまく誘導しながら移動の行為としての泳ぎを引き出していきます。
川の中でのリードワークは歩いているときと少し違います。当校で許可をとっている場所は深い場所が比較的少ないため、そのスペースに犬がうまくはまりかつ移動の方向がわかるようにリードを操作していきます。
犬の動きをよくみながらのリードワークは歩行の練習とは違うのですが、万が一犬といっしょに川を渡らなければならなくなっときにはきっと役にたつと思います。だって、犬を抱っこした状態で川を渡ることはできませんから。先日豪雨で冠水した道路の映像をたくさん見ましたが、こんなときに犬といっしょだったら泳いで避難するしかありません。万が一はあるかもしれません。

初泳ぎのさゆちゃん
移動の行為としての泳ぎができるようになったら、水の中に投げたものを持ち運ぶ、リトリーブの練習で泳ぎを克服します。
持ってくる行為を縮めて持来(じらい)といったりしますが訓練で使う言葉なのでどのような言い方でも構いません。リトリーブが得意な犬もいれば得意でない犬もいますので、あくまでもその犬が得意であったらトライしてみましょう。

小枝をリトリーブするジェイ
ラブラドルリトリバーはその名前が示すとおり「持ってくる」が得意な犬ですが、特に水の中に落ちたものを拾ってくるのが仕事であったためこの作業には執着します。黒ラブのジェイは昨年はじめて川へ連れていったときには水につかることできず川岸でキュンキュンと鼻を鳴らしていましたが、今年は果敢に飛び込みをした上に一分以上泳ぐようになりましたが、これは遺伝子の情報が引き出された結果です。

小枝をもって泳ぐダンくん
上の写真はダンくんが泳いで小枝をくわえて持ってきています。物を口にくわえて移動するときはふつうに泳ぐときとは姿勢が違います。どうしても頭が浮いてしまうので後半身が沈みがちになります。地上での持ち運びとは違う筋肉を使ってバランスをとっています。
犬が泳ぐときにもっとも必要な体の部位はどこだと思いますか?答えは「尻尾」です。尻尾は歩くときにも走るときにも大切な役割を果たしていますが、特に泳ぐときにはもっと尻尾の役割が重要になります。尻尾は船でいうところの舵です。
舵の役割とは川の流れに流されないように直進を促すことです。舵である尻尾をしっかりと水面で降ることができればもっと直進するのですが、尻尾の短い犬は思うように行きません。また尻尾のちゃんとあるジェイですら尻尾をきちんと使うことがまだできていません。
ジェイの場合には、歩いたり走ったりするために尻尾の動きがそれほど必要とされなかったということでしょうが、風のように走るのなら、いや風の中を移動するときならもっと尻尾が必要だったはずです。今までそうした環境で使うことがなかったからという理由で発達していないのなら、泳ぎの練習によって回復する可能性はありますので期待は低く今後も川トレを続けていきたいと思います。

初泳ぎするといぞうくん
川トレでは犬が泳ぐ姿を見て「わー泳いだ~」と飼い主さんが喜ぶのは当たり前のことですが、ただそれだけではこの時間がもったいなさすぎます。犬がその環境の中で何を感じ何をしようとしているのか想像したり考えたり、そして一緒に体験して体感する時間になると犬との暮らしはもっと深いものになるはずです。
今年は川トレのために半年前から樹木の選定、竹を切ったり、川の中に浮かんでいた孟宗だけを撤去したりと労力を時間を使って整備を続けましたが、みなさんとの学びの時間でその苦労も報われました。
来年への学びにつながるようにこれから引き続きます。